元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「サウンド・オブ・フリーダム」

2024-10-28 06:27:10 | 映画の感想(さ行)
 (原題:SOUND OF FREEDOM)かなり重要な題材を扱っており、鑑賞後の手応えは高レベルだ。描かれるのは児童人身売買の様態、および闇組織と当局側との死闘などだが、これらが実話を元にしているというのだから驚くしかない。世界の理不尽さに晒されるのは無辜の市民だというのは理解しているが、抵抗する術も持たない年少者が犠牲になる事実を突き付けられると慄然とするばかりだ。

 アメリカ国土安全保障省の捜査官ティム・バラードは、性犯罪組織に誘拐された少年少女の追跡捜査を敢行するため、犯罪の温床と思われる南米コロンビアに単身潜入する。当然のことながら捜査は難航するが、それでも地元警察やスポンサーを買って出た資産家パブロ、そして前科者ながら児童人身売買に対して義憤を抱いているバンピロらの協力を得て何とか結果を出し続けていく。やがてティムは誘拐された少女を救うため、ジャングルの奥地へと乗り込んでゆく。



 正直言って、事件解決に至るサスペンス描写や、アクション場面は大したことがない。アレハンドロ・モンテベルデの演出は万全とは言えず、展開もそれほどスムーズではないし、観ていて若干ストレスが溜まるのも事実。しかし、主人公ティム・バラードは実在の人物なのだ。そして彼の言動も事実に基づいている。だから迫真力が違う。

 児童人身売買の手口はエゲツなく、冒頭近くで犯罪組織が芸能オーディションという名目で近所の子供を集め、いつの間にか親の知らないうちに全員が連れ去られるというシークエンスがあるが、これがかなり衝撃的。さらに、ネット上で子供の“オークション”まで開かれて変態どもが落札に“応募”するに至っては、この世のものとは思えないおぞましさだ。

 ティムはこの地でかなりの実績を上げたことが示されるが、それでもこの悪行は今でも綿々と続いているのだ。映画の評価はまずウェルメイドに徹しているかどうかで決めるべきなのだが、映画の主題が出来自体を凌駕して求心力を押し上げることもある。本作はその好例だろう。

 そして何より主演のジム・カヴィーゼルの使命感に突き動かされたような熱演が印象的。エンドクレジットで彼が何と観客に語りかける箇所があるが、それがさほど不自然に見えないのは、事の重大さが観る者を圧倒している証左だと思う。ミラ・ソルヴィノやビル・キャンプ、エドゥアルド・ベラステーギら脇のキャストは申し分ない。そして出てくる子役たちも達者だ。また、ハビエル・ナバレテによる音楽が本当に効果的。幾分饒舌かとも思われるが、目覚ましい美しさを提供していることは確かだ。
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「決戦は日曜日」

2024-10-27 04:05:51 | 映画の感想(か行)
 2021年作品。本日(2024年10月27日)は第50回衆議院議員総選挙の投票日だ。だからというわけでもないが、思い出したのがこの映画。とはいえ、選挙を扱った作品は邦画においてはドキュメンタリーの独擅場である。フィクションでこのネタを料理しようとしても、複雑怪奇な選挙の有様を凌駕するほどのドラマをデッチ上げられるほどの、高い意識と知識を持ち合わせた映画人はいないというのが実情だろう。本作もあまり面白くない。とはいえ、少しは興味を惹かれる部分はある。

 千葉県の地方都市を地盤に持つ与党の重鎮の川島昌平が、衆議院解散のタイミングで病に倒れてしまう。彼の後任として白羽の矢が立ったのは、娘の有美だった。私設秘書の谷村勉は何とか彼女をサポートしようとするが、有美はワガママな上に政治に対する知見も無い。加えて川島昌平のスキャンダルが発覚し、谷村をはじめとするスタッフは窮地に追い込まれる。



 監督と脚本は坂下雄一郎なる人物だが、どうも筋書きも演出テンポもよろしくない。有美のような候補者を茶化して描き、この世界のいかがわしさを印象付けようとしているものの、実際の政治家および候補者にはヒロインを上回る困った人物など珍しくはないのだ。そもそも、映画が現実を後追いしてどうするのかと言いたい。

 そして有美は出馬に乗り気では無かったとはいえ、結局は引き受けてしまうあたりの背景が示されていない。元より政治的ポリシー云々をネタにするようなシャシンではないが、少しは政策面に言及した方が良かったのではないか。

 とはいえ、有美が周囲から担ぎ出された経緯は無視できない。二世政治家に対する問題意識はどこにもなく、皆当然のごとく後援会や地方議員たちの推薦のことばかりを話題にする。本人が少しでも自分の意見を表明すると、義理や世間体を振りかざして黙らせる。なるほど、特に地方ではこのような非生産的なことが横行しているのだろう。それを取り上げたのが唯一の本作の手柄かもしれない。

 主演の窪田正孝と宮沢りえは良くやっていたとは思う。特に、大して演技が上手くない宮沢のキャラクターが自主性が欠如した候補者役にピッタリで、怪我の功名と言うべきか。赤楚衛二に内田慈、小市慢太郎、音尾琢真といった面々も破綻の無い仕事ぶりだ。さて、本日の選挙結果はどうなるか。場合によっては政局に大きな変化が生じることは十分考えられ、来年の参院選までしばらくは政治の世界から目が離せない状況が続きそうだ。
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「Cloud クラウド」

2024-10-26 06:25:31 | 映画の感想(英数)
 どうしても評価すべき点が見つからない、困った映画だ。しかし、こんなシャシンがヴェネツィアや釜山などの国際映画祭に出品され、さらに第97回米アカデミー賞の国際長編映画賞日本代表に選定されたというのだから、呆れるしかない。この業界には我々カタギの一般人があずかり知らぬ“事情”というものが存在するのだろう。

 高専を出て町工場で地道に働く吉井良介は、一方で転売サイトを運営してかなりの日銭を稼いでいた。ある日、良介は職場の上司から管理職への昇進をオファーされるが、責任が大きくなることを嫌う彼は辞職する。さらに北関東の郊外にある湖畔の一軒家に事務所兼自宅を構え、恋人の秋子と新たに助手として雇った佐野と共にビジネスを広げようとする。だが、良介の周囲で次第に物騒な出来事が頻発するようになり、ついには得体の知れない者たちによって命まで狙われる。



 今どきクラウドといえばIT用語であり、本作もそういう方面から話を進めるのだと思っていたら違った。何でも主人公が阿漕な商売で荒稼ぎしたことにより、本人が知らない間に憎悪が“雲のように”広がることを意味しているらしい。まあそれは認めるとして、この脚本はいただけない。

 冒頭、良介が経営が苦しい製造業者から大量の商品をタダ同然で買い付け、それを高値で転売するくだりが紹介されるが、最終的に安くはない値段で捌けるのならばこの業者が手放す理由は無いはずだ。また、わざわざ人里離れた湖のそばに引っ越す理由も不明だし、佐野には“勝手にパソコンを見るな!”と言っておきながら端末にパスワードも設定せずに放置したりと、筋の通らないモチーフが満載。

 終盤には良介を逆恨みした連中が銃を持って襲撃するという有り得ない展開になったと思ったら、佐野が“意外な正体”をあらわして騒動に一枚噛むとか、秋子の挙動不審ぶりがクローズアップされるとか、映画は混迷の度を増してゆく。クライマックスになるはずの銃撃戦は緊張感のカケラも無い“戦争ごっこ”のレベルに終始しているのだから脱力する。

 監督の黒沢清は手掛けた映画の出来不出来が大きいのだが、今回は明らかにハズレの部類だろう。主演の菅田将暉は頑張ってはいるが、ストーリーがこの程度なので“ご苦労さん”としか言いようがない。古川琴音に奥平大兼、岡山天音、山田真歩、松重豊、荒川良々そして窪田正孝と、顔ぶれは多彩だが機能していない。

 なお、今では大抵の人気商品が価格規制されているらしく、転売屋がオイシイ思いをするケースは減っているらしい。もちろん、本作にはそのあたりへの言及は無し。とにかく題材自体から練り直した方が良いような中身だ。
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「プロジェクトX-トラクション」

2024-10-25 06:22:58 | 映画の感想(あ行)

 (原題:狂怒沙暴 HIDDEN STRIKE)2023年アメリカ=中国合作。ジャッキー・チェン主演のアクション大作で、撮影は2018年に完了していたらしいが、“諸般の事情”によってアラブ首長国連邦など一部の国を除き劇場公開されていない。代わりに2023年7月からNetflixが配信を開始しており、それをチェックした次第だ。

 イラクで油田開発を進めていた大手中国企業の精製所が突如武装集団の襲撃を受け、技術主任のチェン教授らが誘拐されてしまう。警備を担当していたセキュリティ・カンパニーの司令官であるルオは、人質を奪還する任務に就く。一方、武装集団に加わっていた元特殊部隊のアメリカ人クリスは、組織の目的が石油資源強奪であることを知らされた挙げ句、ボスによって行動を共にしていた弟を殺されてしまう。そんな彼は偶然ルオと知り合い、反目し合いながらも共闘することを決意。人質奪還のため武装集団に立ち向かう。

 どうも物語の前提が釈然としない。いくらルオが手練れだといっても、公安や軍関係などの国家機関の所属ではなく警備会社の一員に過ぎない。それが国際関係にも影響を与えそうな大暴れを披露するというのは、無理がある。クリスにしても、いくら自分が住む村の子供たちの生活を守るためとはいえ、当初は見るからにテロリストみたいな連中と一緒になっていたのは説得力を欠くだろう。

 しかしそれでも、活劇シーンが始まってしまうとあまり脚本の瑕疵は気にならなくなる。ルオに扮するジャッキーのパフォーマンスはさすがに寄る年波には勝てず、全盛時のキレは望めない。だが、アクションの段取りは悪くないし、格闘場面が続いて画面が冗長になりそうになると派手な爆破シーンやカーチェイスが挿入されるのも賢明だと思う。

 クリスを演じるジョン・シナは元々プロレスラーだけあって、体術もサマになっている。テクニックよりもパワーを重視した立ち回りは、ジャッキーとは好対照とも言えよう。また、ラストのNG集では下ネタの連発で笑わせてくれるし、本当に憎めない奴だ。スコット・ウォーの演出は取り立てて才気は感じられないが、無難な展開ではある。

 ヒロイン役のマー・チュンルイをはじめ、ジァン・ウェンリー、ピルー・アスベック、ティム・マンなど顔ぶれはあまり馴染みは無いが、それぞれ良くやっていると思う。それにしても、ジャッキー・チェンはあとどのくらいアクション映画に関われるのだろうか。くれぐれも身体に気を付けて、出来る範囲で仕事をして欲しい。
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「ぼくが生きてる、ふたつの世界」

2024-10-21 06:21:36 | 映画の感想(は行)
 間違いなく日本映画界における主要な女性監督の一人である呉美保の、なんと9年ぶりの作品だ。この長いブランクの背景はよく分からないが(9年前に結婚したことが関係しているのかもしれない)、久々に映画を撮ってくれたことは喜ばしい。本作のクォリティも低くはないレベルであり、今年度の邦画の中でも記憶に残る内容だ。

 宮城県の海沿いにある小さな町で生まれた五十嵐大の両親は、耳がきこえない。だから彼は幼い頃から母の“通訳”をすることが日課になっていた。しかし成長するにつれ、大は自らの境遇に違和感を持つようになる。そして20歳になった彼は逃げるように故郷を離れ、東京でその日暮らしに近い生活を送るようになる。作家である五十嵐大の、自伝的エッセイの映画化だ。



 オスカーを獲得したアメリカ映画「コーダ あいのうた」(2021年)およびその元ネタのフランス映画「エール!」(2014年)と似た設定だが、こちらは実録物であるだけに、かなり様相が違う。五十嵐は今はライターとして独り立ちをしているので、決して悲劇的な筋書きにはならないことは観る前から分かっている。しかし展開はかなり辛口で、ハートウォーミングなエピソードはあまり前面に出てこない。

 主人公は成長するにつれて、周囲との境遇の違いを思い知ることになる。しかも、怪しげな宗教にハマっている祖母や、極道者として知られる祖父とも同居している。当然のことながら彼が受けるストレスは相当なもので、学業も上手くいかずに家を出たのも無理はない。だが、自己を確立出来ないまま見知らぬ土地に行っても状況は好転しないわけで、東京での寄る辺ない生活は孤独感が増すばかり。

 それでも、思わぬ出会いがあったり胡散臭い出版社での仕事にありついたりと、大にとって徐々に周囲が見え始める過程には説得力がある。同時に、過去の両親との関係や、今後の身の振り方が可視化されてくるといった構成は非凡かと思う。呉美保の演出は終盤に評価が分かれそうな処理は見られるものの、大方堅実な仕事に終始。今後も映画を撮り続けて欲しい。

 主演の吉沢亮は中学生時代から青年期までを演じているが、いずれも違和感が無いのはさすがだ。両親役の忍足亜希子と今井彰人は本当の聴覚障害者だが、本当に良くやっている。特に忍足の柔らかい雰囲気は印象的だ。ユースケ・サンタマリアに烏丸せつこ、でんでん、山本浩司、河合祐三子といった顔ぶれも盤石。下川恭平によるテーマソングは余韻が深い。
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「アトラス」

2024-10-20 06:24:47 | 映画の感想(は行)
 (原題:ATLAS )2024年5月よりNetflixから配信されたSFアドベンチャーアクション。観始めた時には、これはゲームあるいはコミックなどの元ネタがあって、その世界観をそのまま映像化しただけという、いわばお手軽な方法論で作られたシャシンかと思った。だが、実際はそうではない。それどころか映画ならではの工夫があり、鑑賞後の満足度はそれほど低くはないようだ。少なくとも、エンドマークが出るまで退屈せずに付き合える。

 AI(人工知能)が人間社会に完全に組み込まれるようになった遠い未来、突如卓越した思考力と意志を持つAIのハーラン・シェパードが人類に反旗を翻す。数百万人の犠牲者を出しながら何とかハーランを外宇宙に放逐した人類側だが、ハーランは復権を狙っていた。ハーランと家族同然に育った女性データアナリストのアトラス・シェパードは、ハーランの捕獲作戦に参加する。しかし、遠征軍は敵のアジトがある惑星の近くで早々に壊滅。九死に一生を得たアトラスは、高性能AI搭載のモビルスーツ“スミス”と共に、単身ハーランに立ち向かう。



 用意周到に任務に臨んだはずの遠征隊が戦う前から簡単に撃破されてしまうのは呆れるし、そもそもハーランはどう見てもアンドロイドで、AIの佇まいは希薄である。だからバトル主体のロボット活劇としての面ばかりが強調され、本来メインになるはずの頭脳戦が脇に追いやられているのは不満だ。

 しかしながら、アトラスと“スミス”との掛け合いは面白く、バディ・ムービーとしての興趣はよく出ている。アトラスが向こう見ずな突っ込み役ならば、“スミス”は高知能のボケ役だろう。この両者がやり合いながら次第に心理的な距離を詰めていく過程は、けっこう無理なく表現されている。題材が斯くの如しなので、当然映像のほとんどがCG。このエクステリアが肌に合わない視聴者もいるとは思うが、私は大して気にならなかった。

 アクション編の演出には定評のあるブラッド・ペイトンの仕事ぶりは堅実で、間延びすることなくスピーディーに話が進む。主演のジェニファー・ロペスは製作も担当しているだけあって、かなり頑張っている。そういえば彼女はすでに50歳代であるが、撮り方の上手さもあって年齢を感じさせない。また、ハーラン役のシム・リウは「シャン・チー テン・リングスの伝説」(2021年)の頃よりも垢抜けている(笑)。
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「エイリアン:ロムルス」

2024-10-19 06:23:03 | 映画の感想(あ行)

 (原題:ALIEN: ROMULUS)不満な点はけっこうあるのだが、捨てがたいモチーフもあり、結論としては“まあまあ観られる出来”ではないかと思う。少なくとも、デイヴィッド・フィンチャー監督によるパート3(92年)やシリーズ前日譚になるリドリー・スコット監督の「プロメテウス」(2012年)なんかよりはずっとマシだ。

 第一作の舞台になったノストロモ号が爆破されてから数年経った2142年、ジャクソン星の鉱山で働く若い女レイン・キャラダインは、劣悪な職場環境に辟易していた。彼女はいくらか状況が良いと言われているユヴァーガ第三惑星への移住を切望しているが、会社側による不当な労働時間の延長等により上手くいかない。そこで男友達のタイラーらと秘密裏にジャクソン星を離れる。彼らが最初にたどり着いたのは、廃墟と化した宇宙ステーション“ロムルス”だった。生きる希望を求めて探索を開始する彼らだったが、突然にエイリアンの群れに襲われる。

 まず、どうしてジャクソン星を飛び立った主人公たちが見るからに怪しい“ロムルス”に立ち寄ったのか、その理由が不明。加えて、この“ロムルス”の構造と建て付けがよく分からない。だから、彼らがどの地点にいるのか、どこに行けばどういう環境が待ち受けているのか、まるで判然としない。結果として、サスペンスがイマイチ醸し出されない。そもそも“ロムルス”の中にエイリアンが大量保管されていた理由も説明されていないのた。

 しかしながら、本作には面白いキャラクターが出てきて、何とか場を保たせることに成功している。それは、レインの亡き父によって“娘の安全確保”をプログラムされた旧式アンドロイドのアンディだ。これがパッと見た感じは鈍重なのだが、実に愛嬌がある。特に始終ダジャレを連発しているあたりは愉快だ。

 対して“ロムルス”内に半壊状態で放置されていたもう一体のアンドロイドのルークは、海千山千の食えない奴だ。この2体の対比は、かなりの興趣を呼び込んでいる。エイリアンの生態はほぼ従来通りだが、終盤に思いがけない“突然変異体”が出てきて驚かせる。フェデ・アルバレスの演出は馬力はあるものの、節度は持ち合わせているようで、ドラマが空中分解することは無い。

 レイン役のケイリー・スピーニーは、長身だった第一作のヒロインのシガニー・ウィーバーとは好対照で、小柄で可愛い感じだ。しかし、非力に見える彼女が大きな敵に立ち向かうという構図は、それなりに盛り上がる。デイヴィッド・ジョンソンにアーチー・ルノー、イザベラ・メルセド、スパイク・ファーン、エイリーン・ウーら他のキャストも申し分ない。
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最近購入したCD(その44)。

2024-10-18 06:29:25 | 音楽ネタ
 この若さ(2001年生まれ)で既にアカデミー主題歌賞を2度も獲得し、過去2枚のアルバムはいずれも全米1位という、Z世代の寵児であるビリー・アイリッシュのサードアルバム「ヒット・ミー・ハード・アンド・ソフト」は、おそらく今年度の洋楽シーンを代表する名盤になると思う。そう感じさせるだけのクォリティの高さが本作にはある。

 今までの高踏的でスノッブな展開は幾分影を潜め、かなりポップで親しみ易くなっている。だが、その奥行きは恐ろしく深い。サウンドの隅々にまで神経が研ぎ澄まされており、アレンジは絶妙でスケール感も満点。軽く聴き流すにはもったいないほどの凄みを感じさせる。それでいて歌唱スタイルにはキュートな魅力があり、幅広く奨められる出来だ。



 宮崎駿監督の「千と千尋の神隠し」からインスパイアされた「チヒロ」というナンバーもあり、日本の音楽ファンにもアピール出来る。なお、プロデュースには引き続き彼女の兄であるフィニアス・オコネルが関与し手腕を発揮しているようだが、彼もまだ20歳代だ。この兄妹には今後も良い仕事を期待したい。

 2021年に結成されたロンドン出身のインディーロックバンド、ザ・ラスト・ディナー・パーティーのデビューアルバム「プレリュード・トゥ・エクスタシー」は、最近は自室でのヘビーローテーションになっている。とにかく屹立した個性と才能を感じさせるバンドで、聴き込むごとに魅力が増してくるような印象を受ける。



 若い女子ばかりの5人組で、パッと見た感じはよくあるガールズバンドのようだ。アイドル的な売り方をされても、あまり違和感を覚えないだろう。しかし、そのサウンドは他の追随を許さないレベルに達している。ポスト・パンクやグラム・ロック、時にはプログレッシブ・ロックのテイストも取り入れ、退廃的かつ屈折した独特の世界を展開。一度耳にすると忘れられないほどの求心力を持つ。

 若い頃のケイト・ブッシュやビョークなどからの影響も窺えるが、一方でクリアでフレッシュな持ち味もあり、広い範囲にアピールできるだろう。リードボーカルを務めるアビゲイル・モリスが身に付けるロリータやゴス系のファッション、及びそれらしい身のこなしも要チェックで、ビジュアル面でも十分話題になりそうだ。

 ジョン・アンダーソンといえば、長いキャリアを誇る英国の大御所グループであるイエスのヴォーカリストとして知られていたが、彼は2008年に同バンドを脱退している。正直言ってそれ以降のイエスの作品は全盛期に比べればヴォルテージが落ちており、改めてアンダーソンの存在の大きさがクローズアップされていると思う。



 2023年に彼を慕う様々なミュージシャンが集まって、ツアー用にザ・バンド・ギークスというユニットが結成されたのだが、そのパフォーマンスが好評を博し、今回そのメンバーとオリジナル・アルバムを作成。それがこの「トゥルー」である。高音域が冴えていたアンダーソンの声はさほど衰えておらず、まさに王道のプログレ・サウンドが全面展開だ。

 16分を越える大作「ワンス・アポン・ア・ドリーム」をはじめ、どのナンバーも思う存分に往年のイエスの世界に浸れる出来映えだ。決して今風の音ではないが、長らくロックを聴いてきた私のようなロートルとっては、実に“刺さる”内容である。ただ唯一残念なのは、このオヤジ臭いジャケット・デザイン(笑)。やっぱりイエス系のジャケットは、ロジャー・ディーンの手による幻想的なものでなければ気分が出ない。
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「武道実務官」

2024-10-14 06:35:48 | 映画の感想(は行)
 (英題:OFFICER BLACK BELT)2024年9月よりNetflixから配信された韓国製のアクション編。一見、単純な勧善懲悪の図式を取っているシャシンのようだが、けっこう興味深いモチーフが採用されていて最後まで退屈せず向き合うことができた。また、主人公をはじめ各登場人物のキャラも立っていて、そのおかげで多少の作劇のアラも黙認可能だ(笑)。

 ソウルに住むイ・ジョンドは、格闘技とeスポーツが大好きな若造だ。一方で、父親が経営する食堂をせっせと手伝うマジメな面も持っている。そんな彼がある日、暴漢に襲われていた男を得意の体術で助ける。その被害者は保護観察中の犯罪者を取り締まる実務官で、負傷した本人の代わりにジョンドは期間限定で実務官の仕事を引き受けることになる。リーダーのキム・ソンミンと共に観察中に悪事をはたらこうとする者たちを監視するジョンドだが、やがて出所してきた大物犯罪者およびその一味と全面対決することになる。



 まず、タイトルにある武道実務官が実在するというのが面白い。警察とは違う法務セクションが統括する保護観察官に類するものだが、実力行使はもとより逮捕権もある。また、観察対象者には期間中は電波発信機が内蔵された足輪が取り付けられ、バッテリーが切れかかったり連絡が取れなくなったら直ちに実務官が急行するというシステムも興味深い。

 直情径行型のジョンドと温厚で冷静なソンミンとのコンビネーションは良好で、よくあるバディ・ムービーの形式は訴求力が高い。対する犯罪者側も凶悪な面子が揃っていて、これなら自然と主人公たちを応援したくなる。

 もっとも、監察官と警察とのコンピネーションが上手く描けていなかったり、ジョンドのオタク仲間たちが何の権限も無いのに“活躍”を見せたりといった気になる点も無いではないが、そこは“勢い”でカバーされているようだ。それに、珍しく本作ではヒロイン役が登場せず、完全に野郎どもの話になっているあたり、かなり潔いと思う。

 ジョンドに扮するキム・ウビンとソンミンを演じるキム・ソンギュンは好調で、演技面で問題が無いばかりではなく個性が屹立している。イ・ヘヨンにイ・ヒョンゴル、キム・ジョン、チャン・ワンヒョンなど他のキャストも申し分ない。脚本も担当したキム・ジュファンの演出も闊達で、聞けばこのような建て付けの作品を過去に何本か手掛けているらしく、アクションシーンのキレは目覚ましいものがある。イ・テオのカメラによるソウルの下町の風景も印象的だ。
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「ぼくのお日さま」

2024-10-13 06:23:25 | 映画の感想(は行)
 第77回カンヌ国際映画祭の“ある視点”部門に出品されたのをはじめ、国内外での評価が高い作品だが、個人的にはどこが面白いのかよく分からない。有り体に言ってしまえば、これは素人の映画だ。監督は現時点でまだ20歳代で、この時期から分不相応な扱いを受けてしまえば本人のためにはならないのではと、勝手なことを思ってしまった。

 北海道の田舎町に住む小学生のタクヤは、吃音のため周囲とあまりコミュニケーションは取れず、しかも苦手なアイスホッケーのクラブに入れられているという、面白くない日々を送っていた。そんな時、彼は隣のリンクでフィギュアスケートを練習する少女さくらを見て心を奪われてしまう。



 ホッケー靴のままフィギュアのステップを真似するタクヤを見ていたさくらのコーチで元フィギュアスケート選手の荒川は、タクヤとさくらでアイスダンスのコンピを組むことを提案する。最初はぎこちなかった2人だが、次第に上達して大会の出場を打診されるまでになる。ところが荒川には同性の恋人である五十嵐がいて、その事実が周囲に波紋を広げてゆく。

 まず、時代設定が90年代前半であることを冒頭で明かしていないのは失当だ。あの頃はLGBTに対する理解度がまだ低く、ましてやこの土地柄では完全にタブーである。まあ、登場人物たちの身なりや生活パターンなどから現代の話ではないということは推察されるが、観客に対しては不親切だ。

 そして、画面がスタンダードサイズというのも意味不明。北海道の茫洋とした風景をとらえるには適当ではない(せめてビスタサイズにすべき)。ストーリーには面白い部分が見当たらず、タクヤとさくらが上達していく様子も、荒川と五十嵐との睦まじい関係も、平板に流れていくのみだ。終盤の顛末とラストの処理に至っては、作り手が息切れしたのではと思わせるほど盛り上がりに欠ける。

 監督の奥山大史は脚本のほか撮影や編集まで手掛けているが、それが却って映画青年が気負い過ぎて作ったような雰囲気を醸し出していて愉快になれない。荒川役の池松壮亮と相手役の若葉竜也はよくやっていたとは思うが、いつもの彼らの仕事ぶりを知る観客にとっては、特筆できるようなレベルではない。わずかに印象に残ったのが、さくらに扮する中西希亜良だ。アイスダンス経験者ということで、滑る姿が実にサマになっている。そして彼女は何と高名な作詞家のなかにし礼の孫であり、その整った外見も含めて期待できる人材かと思う。
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