元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ニック・オブ・タイム」

2009-02-13 06:29:14 | 映画の感想(な行)

 (原題:Nick of Time)95年作品。ロスアンジェルスのユニオン・ステーションで、税理士のワトソン(ジョニー・デップ)は刑事と名乗る男(クリストファー・ウォーケン)に幼い娘もろとも車の中に拉致される。1時間半以内にある人物を殺さなければ娘の命はないと言われ、拳銃を渡されしかも男は一時も監視の目を緩めない。暗殺の標的はカリフォルニア州知事(マーシャ・メイスン)だった。孤立無縁のワトソンは娘を救出できるのか。

 なかなか面白いサスペンス劇である。とにかく脚本がいい。平凡な男が白昼アッという間に陰謀に巻き込まれていく恐怖。事態が進むにつれ敵はウォーケン扮するナゾの男だけではなく、あたり一面悪者だらけということが明らかになる。その蟻地獄に落ちていくような不条理とも言える設定。特に味方だと思っていた奴が何の遠慮会釈なく悪の正体を見せる場面のショックは相当なもので、ほとんどホラー映画のノリでたたみかけてくる。しかもこの“1時間半以内”というのを、本当に上映時間の1時間半で見せるという“「真昼の決闘」方式”を採用しているため、臨場感は文字どおりリアルタイムで迫ってくる。

 そして、手堅い職人監督の評価しかなかったジョン・バダムは今回は“映像派”に変身。冒頭の、時計の内部の精密描写が拳銃のそれにシンクロしていくタイトルバックに感心していると、主人公が駅に到着する前の列車のシーンでの手持ちカメラによる即物的な表現や、駅構内の逆光を活かした何やら表現主義的な画面処理など、まさにやりたい放題。圧巻は、ワトソンがビルの吹き抜けに突き落とされ、下の池まで落ちる間に捕らわれた娘がシースルーのエレベーターに乗って上がっていくのを見るシーンである。ヒッチコックもかくやと思われる見事な映像処理で、しかもこのくだりにはオチがあるという用意周到ぶり。

 アメリカ映画だから最後には事件は解決するのだろうと予想はするが、中盤まで一分の救いもないデッド・エンドな状況に追い込まれた時点で、ほとんど先が読めなくなってしまった。スリラー映画はこうでなければ。

 珍しくフツーの男を演じるJ・デップがイイ味を出している。ウォーケンの怪演は言うまでもない。一見荒唐無稽な話だが、ひょっとしたら実際あるかもしれないと思わせるのも、この作品が成功した証拠である。まさにスマッシュ・ヒット。
コメント
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