元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ZONE」

2009-02-19 06:28:25 | 映画の感想(英数)
 海外で評価の高い映像クリエイター・伊藤高志の作品について述べてみたい。私が彼の作品を観たのは某映像フェスティヴァルにおいてである。そこで上映されたのは4本だ。

 まず88年の「悪魔の回路図」。新宿副都心の高層ビルを中心としてカメラが回転し、周りの風景を写し取っていく。つまり、画面のまん中に高層ビルが回転しており、その他の映像は刻一刻別の画面に切り替わっていくわけだ。それをコマ早送りやネガポジ反転やソラリゼーションなどの処理を施して、よく見る風景を異次元のような空間に作り変えている。

 89年の「ミイラの夢」。廃虚の一本の柱の接写から、カメラが数百メートルほどバックしまた戻る。今度は別のビル群の壁の接写からこれもカメラがずーっと引いてまた戻る。この“ブランコ運動”の繰り返しを、カメラ速度やアングルを少し変えながら延々と続ける。けっこう不気味な映像でありながら、ヘンなトリップ感さえ覚えてしまった。そして91年の「VENUS」。団地をバックに作者の妻子(だと思う)のスナップ映像と周囲の風景が“ブランコ運動”を繰り返す。前回の手法に加え画面分割などのテクニックを披露。ただ、この3本は映画というより
技巧の羅列といった感が強い。金取って見せるものではないな・・・・と思っていたら、4本目「ZONE」でびっくりした。

 「ZONE」は95年の作品。無機的なマンションの一室で繰り広げられる、首のないミイラと子供の人形が織りなす悪夢的イメージの炸裂。前3作で使われたテクニックはもちろん、反転する鏡のイメージや極端な遠近法で狭い部屋を無限の空間のように表現したり、部屋の外に何か巨大なものがいるような錯覚を与えたり、走り回る鉄道模型や飛遊する豆電球の乱舞など、奔放なイメージが強烈な音楽(前3作はBGMはない)をバックにスクリーンを闊歩する。単に技巧の羅列ではない、まさしく作者の魂の叫びというかそれに付随した遊び心というか、観客の心に迫る対外的なアピール度は非常に高い。超シュールでありながらグロさもスノッブさも希薄で、娯楽性さえ感じられる映像のアドベンチャー。たった15分だけど存分に楽しませてもらった。

初期のオタクっぽさから外に向かってブレイクアウトした作者の軌跡が興味深い。ハッキリ言ってこの監督のプロフィールなどについてはよく知らないのだが、一般映画に参画しても良いような才能だと思った。実験映画界にも面白い人材がいるものだ。
コメント
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