元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「夢」

2009-02-17 06:28:12 | 映画の感想(や行)
 90年作品。巨匠・黒澤明監督によるオムニバス形式の映画で、文字通り「夢」の物語が8つならんでいる。各エピソードの前には「こんな夢を見た」というタイトルが入り、前作「乱」やその前の「影武者」とは違った作者のプライベート・フィルム的性質の作品だ。で、私はこの巨匠がどんな「夢」を描いてくれるのかと、楽しみにしていたのだが・・・・。

 第一話「狐の嫁入り」は一番マシな作品だ。霧のかかった森の中を行く狐たちの行列が楽しく(凝ったメイクと振付けで見せる)、ファンタジー性も十分だ。はっきり言ってこの映画はここで終わっていた方がよかった(でもそれじゃ長編映画にはならないが)。第二話「桃の精」も、まだ許せる。「日本昔ばなし」みたいなストーリーもさることながら桃の木の精霊たちがみせる雅楽と舞は、海外の映画ファンにも受けただろう。

 で、ここからあとはまったくダメ。第三話「雪あらし」は、単なる「雪女」の話。ストレートでまったく面白くないし、冒頭の雪山をさまよう男たちの息遣いが延々と続くあたりは“かんべんしてよ”と言いたくなる。第四話「トンネル」は実に珍妙。戦争で生き残った隊長の前に死んだ部下の亡霊が出てきて、彼らに自分たちが死んだことを納得させる話。延々と続く元隊長の演説にはうんざりしたが、ラスト、“まわれ、右!”の号令であっさりと亡霊たちがトンネルの中に消えていくところだけは笑った。第五話「鴉」はゴッホの絵の中を主人公が歩き回る場面が精妙なSFXで描かれているが、ただ、それだけの作品。

 第六話「赤富士」第七話「鬼哭」は核の恐怖を描く・・・・といえばきこえはいいが、実に説教臭いつくりで、観ていて不愉快だった。ヘタクソな特撮が画面をよりいっそう盛り下げてくれる。第八話「水車のある村」は前の二話の回答ともいうべき作品、とはいっても、笠智衆が出てきて“やっぱり自然はエエのう”と、ありがたい説教をしてくれる退屈極まりないハナシである。ラストで延々と続く“葬式踊り”にあきれているうちに、観ているこちらも“夢”の中・・・・。

 「夢」とタイトルがついているのに、ほとんどのエピソードに“夢”がない。こういう形式の映画ならもっともっと想像力を発揮して、文字通り「夢」のような映像で観客を圧倒してほしかった(もちろん。悪夢だってかまわないが)。本作に限らず、カラーになってからの黒澤作品は全盛期のモノクロ作品の足元にも及ばない。
コメント (1)
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