元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「カストラート」

2009-02-02 06:32:41 | 映画の感想(か行)
 (原題:Farinelli il Castrato )94年作品。18世紀ヨーロッパ、絶大な人気を誇ったカストラート(ボーイソプラノを維持するため去勢された男性歌手)のファリネッリ(ステファノ・ディオニジ)とその兄の作曲家(エンリコ・ロ・ヴェルソ)の20年にわたる軌跡を追う、「めざめの時」などのベルギーのジェラール・コルビオ監督作品。

 さて、この映画のドラマ部分はどうでもいい(私も半分忘れてしまった)。「仮面の中のアリア」でも音楽の持つ喚起力を見せきったコルビオ監督に対しては主題やらドラマツルギーなどは最初から期待していないし、その方面の実力もないと思う。見所は現代によみがえったカストラートの天翔ける声とそれが巻き起こすセンセーションだ。テレク・リー・レイギン(カウンターテノール)とエヴァ・マラス=ゴドレフスカ(ソプラノ)の声ををコンピューター合成して、誰も聴いたことのない、それでいてカストラートというのはこういう声だったのだろうと観客に納得させてしまう見事な音楽演出に舌を巻く。

 加えて正確な時代考証と豪華絢爛たるステージング。ファリネッリが舞台に立つだけで、スクリーン上に祭が出現したかのごとく画面が輝き出す。演じるディオニジとバックの声がピタリと一致し違和感がまったくない。

 イギリス渡ったファリネッリは当時の天才作曲家ヘンデルの歌曲を手掛けることになる。ハデだがしょせん装飾音過多の下世話な作風の兄の作品と比べ、ヘンデルの曲はまさに格が違うというか並外れたものだが、それをシロートさんの観客にもわかりやすく見せてしまうところもなかなか・・・・(当時ヘンデルの楽曲は一般受けしなかったらしいところも描かれるが)。

 ワルテル・ヴァンデン・エンデのカメラは暖色系の映像に豊かな陰影を付けた格調高いもの。美術・衣装も素晴らしい。特にファリネッリの舞台コスチュームは特筆もので、これはもうグラム・ロックの世界である。ドラマ部分は退屈だし、映画そのものの感銘度を求める向きには敬遠したいが、良くできたビデオ・クリップ集として見ればこれはもう極上だろう。それにしても、弟が前戯を担当し、兄が挿入するという“変則3P”のシーンがところどころ出てくるのは笑ってしまった(たぶん原案の段階では深い意味があったのだとは思うけど)。
コメント
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