元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「アイ・アム・ナンバー4」

2011-07-31 06:58:39 | 映画の感想(あ行)

 (原題:I AM NUMBER FOUR)本作の舞台がオハイオ州の片田舎にある高校で、アメフト部のイジメっ子がいて、イジメられる側は顔に何か液体を引っかけられて・・・・となると、TVドラマ「glee」に何となく似ている(笑)。さらには「glee」のチアリーダー役のディアナ・アグロンも出ていたりして、ひょっとしたら両者は同じセットで撮られたのではないかと思ったりもするが、もちろんこの映画は合唱部の連中が引き起こす珍騒動を追ったりはしない(当たり前だ ^^;)。マイケル・ベイ製作によるSFアクションスリラーである。

 ただしTVドラマ風だというのは確かで、有り体に言えば“新番組の初回2時間スペシャル”みたいな位置付けのシャシンだ。もっとも同じ特撮ものでも先日観た「マイティ・ソー」みたいな腑抜けた出来ではなく、それなりに楽しめるタイトな作りになっている。

 街から街へと移り住む生活を送っているジョンは、実は別の惑星から地球にやってきた亡命者だ。ところが彼の故郷を滅ぼした邪悪なエイリアンの魔の手は容赦なく迫る。エイリアン側は地球侵略も企てているが、超能力を持った9人の亡命者をまず片付けておかないと事は上手くいかないらしく、まずは9人のうち3人が血祭りにあげられてしまう。次は“ナンバー4”であるジョンの番だ。今回彼がたどり着いたオハイオ州の高校ではオタクっぽいクラスメートやアナログカメラに凝っている女生徒と仲良くなったりして、けっこう居心地は良いように思えたが、しつこくエイリアンは追ってくる。

 とにかく、余計な説明がないのがポイントが高い。“主人公は悪者に追われている”という設定だけをサッと紹介して、あとは学内のバトルシーンに突入する。その思い切りが良い。活劇場面はけっこうレベルが高く、そんなに大きな予算は投入していないが、段取りの上手さとスピード感で一気に見せきっている。

 「イーグル・アイ」などのD・J・カルーソ監督の腕前は及第点には達しており、演出テンポによどみは無くスムーズに進む。インベーダーの手助けをするハメになるオタク連中や主人公が飼っている“犬”など、脇のキャラクターも見逃せない。

 主演のアレックス・ペティファーはどうも線が細い青二才で頼りないが、アメリカではこういうのがウケるのだろうか。対して終盤に登場する“ナンバー6”役のテリーサ・パーマーはカッコ良く、主役は大事なところで見せ場を持って行かれた感がある(笑)。「glee」では美少女キャラという設定だったD・アグロンも清潔感のある魅力を発揮しているが、歌や踊りのシーンが無かったのは残念だ(あるわけないだろ ^^;)。

 残り4人の異星人は登場せず、エイリアン共もこれで諦めた様子は見受けられないが、“この続きは毎週○曜日の夜×時から!”みたいなノリでパート2以降への興味を持たせる意味では良いのかもしれない。Q・タランティーノやギレルモ・デル・トロの作品でおなじみの撮影監督ギレルモ・ナバロによる奥行きのある映像や、トレヴァー・ラビンの重厚な音楽も要チェックだ。
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「グッバイ・ママ」

2011-07-23 06:44:10 | 映画の感想(か行)
 91年作品。AKB48等の仕掛け人としても“暗躍”するトレンドメーカーの秋元康は、実は以前からけっこう映画製作にも関わっている。この映画は彼の初監督作品だ。昔からシロウトが監督業に手を出して無残な結果を残すという例が多いけど、この作品は意外にもそうヒドくない。まとまった映画といってもいいだろう。

 松坂慶子扮する証券会社のキャリア・ウーマンのところに、8歳になる元愛人の子供が転がり込んでくる、という設定。最初は邪魔者扱いするんだけど、序々に情が移って、最後にはホロリとさせる。アメリカ映画「赤ちゃんはトップレディがお好き」とかフランス映画「赤ちゃんに乾杯!」あたりの線を狙っている。

 洋画の二番煎じにしては無理のない演出だ。緒方拳の若作りの医者や、柄本明のウサン臭い弁護士、渡辺えり子演じる主人公の友人等、脇のキャスティングは万全。子役は達者だし竹内まりやの主題歌も悪くない。しかし、わざわざ新人監督が撮る内容ではないとも思う。秋元の演出は村上龍とか椎名桜子みたいな異業者監督に比べたらはるかにマトモだけど、北野武みたいなドキッとする才能は感じられない。

 あと気になったのはディテールの甘さ。勤務してるのが外資系企業らしいけど、辞令の書き方なんてお祖末だったし、それからパソコンを使う場面には閉口した。果たして当時の外資系企業が富士通のパソコンを使っていたのかどうかは分からないが(昔懐かしいFM-TOWNSもある ^^;)、スイッチ入れたばかりなのにテレビゲームの“対戦場面”が(オープニング場面もなく)いきなり現れるとか、かと思うと画面を立ち上げたままいきなり電源切ったり、扱いが手荒に過ぎる。

 ラストシーンはお涙頂戴にはいいが、よく考えると結局他人の言いなりだ。そもそもこのヒロイン、不倫ばっかりしてて結局男に頼りっぱなしである。日本の女性の自立なんてのはこの程度だろうという作者の主張かもしれない(だとすると随分失礼な話だ)。

 まあ、要するに口あたりがよくて、観たあとはすぐに忘れて、あとくされがない点が身上のこの映画に、あんまり生臭いテーマを持ち込むのはヤバイという作者の配慮(?)がはたらいたとも言える。軽くサラッと流すあたりがトレンドメーカー秋元の作風といえば、案外そうかもしれない。
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「ミスター・ノーバディ」

2011-07-22 06:37:40 | 映画の感想(ま行)

 (原題:Mr. Nobody)誉めている評論家もいるようだが、私は評価しない。理由はズバリ“誰でも撮れる映画”に過ぎないからだ。人間誰しも自分の歩んだ人生に対して“あの時、別の行動を取っていたら・・・・”という思いを抱くものだ。そして“ひょっとしたら、違う人生が開けていたかもしれない”といった詮無いことを夢想したりもする。映画の作り手だって同様だろう。ただ、そんな明け透けな“願望”をそのままスクリーン上に展開させるだけというのは、まるっきり芸がない。その“芸のないこと”を堂々とやっているのが本作だ。

 人々が医学の進歩により不老不死になった2092年、最後の老衰死者になる予定の老人の様態が世間の耳目を集めていた。彼には名前が無く、出生などの経歴も一切分かっていない。催眠療法によって男の過去を探ろうとする医者や、若い記者によるインタビューによって、彼のプロフィールが徐々に語られることになるが、それは矛盾に満ちたものだった。この男が明かす自己の人生こそが、前述の“あの時、別の行動を取っていたら、違う人生が開けていたかもしれない”という個人的妄想の羅列なのである。

 両親の馴れ初めや、やがて不仲になり離婚する父母のどちらに引き取られるかという二者択一。3人のガールフレンドのうち誰と結婚するかにより、大きく変わるそれからの人生など、全編これ複雑なフローチャートみたいな様相を呈する。いわばパラレルワールドを扱ったSFものとも言えるだろう。

 だが、無数のターニング・ポイントによって次々と枝分かれする人生を精緻に描いても、そこには何の求心力もないのだ。何でも有りの人生なんか、実は何もないのと一緒である。個人的な戯れ言の垂れ流しなど、それこそ“誰にだって撮れる”ネタに過ぎない。いくらプロットや映像ギミックに凝ろうと、焦点になる“自分だけの人生”を作者が構築出来なければ、単なる絵空事である。

 作者のジャコ・ヴァン・ドルマルはこの映画の脚本に長い時間を掛けたというが(確かに前作の「八日目」から13年も経っている)、いわゆる“構想○○年”といったものを謳い文句にしている作品にロクなものはない。何やらデビュー作の「トト・ザ・ヒーロー」だけの“一発屋”のような雰囲気になってきた(苦笑)。

 主演のジャレッド・レトをはじめダイアン・クルーガー、サラ・ポーリーなどのキャストは熱演しているが、映画自体に核となるものがないので全て空回りしているような印象を受ける。作劇を放り投げたようなラストも含めて、観る価値がある映画とは言い難い。
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「アメリカン・ミー」

2011-07-21 06:40:46 | 映画の感想(あ行)
 (原題:American me )92年作品。ラテン系住民が多いイースト・ロスアンジェルス。主人公・サンタナは青春時代の大半を刑務所内で送っていた。彼は生き延びるために仲間たちを組織し、刑務所内を支配する。やがてその勢力は街全体を牛耳る“メキシカン・マフィア”にまで成長するが、その反面彼の周辺は暴力や犯罪、ドラッグに蝕まれていく。

 俳優エドワード・ジェイムズ・オルモスの監督第一作であり、自身も主演している。オルモスといえば華やかさはないが、渋い脇役や悪役には定評のある役者である(有名なところでは「ブレードランナー」での“折り紙”の上手い捜査官など)。監督については未知数であり、観る前は不安だったが、鑑賞後はこの演出力はただものではないと感じた。



 ハリウッド映画が愛や友情、信頼と思いやりなどを数多くテーマにとりあげたところで、ダウンタウンの片隅では今日も凶悪な犯罪が横行していることに変わりはない。スパイク・リーやジョン・シングルトンら黒人の映画作家は、この現実を以前は激しく糾弾した。ただ、彼らが現象をマスでとらえ、テーマが総花的に拡散していく傾向にあったのに対し、主人公と同じラテン系アメリカ人のオルモス監督は、このサンタナという人物を徹底してミクロ的に描き出す。なぜ彼が悪の道に入ったか、彼がどういう性格でいつも何を考えているか、やがて組織が彼の手に余るほど大きくなり、暴走を始めるまで、カメラは冷徹に主人公をとらえて放さない。

 全体の中でかなりの部分を占める刑務所内の場面が圧巻である。事前に囚人たちに綿密な取材をおこなった上、有名なフォルサム刑務所で実際の囚人たちを交えて2週間にわたって敢行された撮影は、十分すぎるほどの効果をあげている。そして主人公を演じるオルモス自身の圧倒的な存在感。「ゴッドファーザー」に肉迫するほどのヴォルテージの高さだ。ショッキングなラストシーンを含めて、観て損はない犯罪ドラマだと思う。
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「マイティ・ソー」

2011-07-20 06:45:34 | 映画の感想(ま行)

 (原題:Thor)ケネス・ブラナー監督も落ちたものだ。シェイクスピア作品の重厚な映画化の担い手として颯爽とデビューした頃の才気は、この新作のどこにも見受けられない。ナタリー・ポートマンやアンソニー・ホプキンス、浅野忠信、レネ・ルッソ、サミュエル・L・ジャクソンといった豪華なキャストはブラナーの知名度に惹かれて出演を引き受けたのかもしれないが、作品自体がこの体たらくでは不満が募るばかりだろう。

 元ネタは北欧神話にヒントを得たアメコミ。天空の世界“アスガルド”で最強を誇る戦士であるソーは、その無鉄砲な振る舞いにより神々の国をたびたび危険にさらす。彼の父であり王であるオーディンは怒りのあまりソーの最強の武器“ムジョルニア”を奪い、地球へと追放する。

 丸腰のまま地球に落ち延びたソーは天文学者のジェーンやその仲間と出会ったことで、徐々にゴーマンな性格が和らいでくる。一方、ソーの弟で実は異界の神の血を引いているロキは野心を抱き、王位継承者であるソーを抹殺すべく地上に凶悪なクリーチャーを送りこんでくる。

 ヨソの世界で起こっている王族のゴタゴタなんか興味はないし、それに人類が関わる義理なんかないのだが、勝手に“招かれざる客”がやって来てしまうのは迷惑だ(爆)。しかし、人類の側としてはそれほど大きなトラブルだとは思っていない。何しろバトルが展開するのがニューメキシコ州の片田舎で、被害の程度も(他のディザスター映画に比べれば)微々たるものだ。これをもって“神々の戦い”だと決めつけるのは、ハッキリ言って噴飯物である。

 ならば天空での戦いはどうかというと、何やらワケの分からん連中がバタバタやっているだけで、カタルシスの欠片もない。異世界を描いたSFXは大仰だが、どういう段取りで何がどうなっているのか判然とせず、派手な割に観ていて眠気さえ覚える。時代劇の劣化コピーみたいな舞台セットも寒々しいだけだ。

 主演のクリス・ヘムズワースはマッチョな大根というしかなく、いくら脇に有名どころを並べていても、通り一遍の受け答えしかできないので画面は盛り下がるばかり。勇壮なパトリック・ドイルの音楽もここでは空しく響くだけ。ラスト・クレジット後のエピローグ(?)は続編への前振りだろうが、文字通り取って付けたような印象しか受けない。・・・・というか、これ以上続けても面白くなる気配はまったく感じられない。観る価値無しの凡作だ。
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「KT」

2011-07-19 06:32:52 | 映画の感想(英数)
 2002年作品。1973年に起きた韓国の政治家・金大中の拉致・監禁事件を、自衛隊の幹部やマスコミ関係者などの視点から捉えた社会派群像劇である。

 ひとことで言って、安っぽい映画だ。すべての登場人物の内面が実に安っぽい。“そういうイデオロギーなんだからしょうがないね”みたいにノリで作ってもらっては困る。特に佐藤浩市扮する元自衛官が金大中事件に荷担する理由がまるで不明なのは致命的。いくら“これは俺の戦争なんだ!”と叫んでも、それは“元自衛官は戦争したくてたまらないのだ”という小児的見方の証明でしかない。

 予算不足から来るスカスカの画面もホントに安っぽい(火曜サスペンス劇場と同程度)。こういう題材はハリウッド作品みたいに予算を大量投入してハッタリかませるに限るのだが、邦画ではしょせん無理なのかもしれない。

 そもそも監督の阪本順治にしても脚本の荒井晴彦にしても、小さなドラマを得意とする人材だけに、今回の登板が正解だったのか大いに疑問。そして全編を覆う布袋寅泰の音楽もめちゃくちゃ安っぽい。コイツには映画音楽の才能は無い。それにしても、こんな安っぽい映画がどうしてその年のベルリン映画祭に出品されたのか、そっちの方が金大中事件よりよっぽどミステリーかもしれない(笑)。
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「glee」は面白い!

2011-07-18 06:58:43 | その他

 今年の4月からNHK-BSで放映されている米国製TVドラマ「glee」(当初のDVDリリース時のタイトルは「glee/グリー 踊る♪合唱部!?」)を毎回楽しく見ている。ディレクターの違いにより回によって若干のヴォルテージの高さのバラツキはあるが、総体としてはとても面白い。まさに、手の付けられない面白さと言って良いだろう。

 舞台はオハイオ州の田舎町にある高校。落ちこぼれどもが廃部寸前の合唱部(グリークラブ)に所属することにより、徐々に自分たちの可能性に目覚め、大舞台で活躍するという話だ。典型的な“スポ根もの”のルーティンを追っているが、各キャラクターの造形とバックグラウンドの設定が絶妙であり、それぞれ微妙に屈折しているのが興味深い。つまりは“スポ根もの”というしっかりとした根幹の周囲に、微妙な変化球が飛び交っているという、ある種の二重構造が連続ドラマとしての興趣を生んでいるのだと思う。

 ギャグの振り方は実に達者で、差別ネタも織り交ぜながら、あの手この手で笑わせてくれる。会話の面白さで視聴者を惹き付けた後、良いタイミングでスラップスティック調を織り込んで哄笑を呼ぶなど、緩急を付けたコメディ演出には感心してしまう。

 そして何といっても本作の売り物は、出演者が披露するパフォーマンス(ショウ・クワイアー)である。60年代のナツメロから最新のヒット・ナンバーまで、幅広いジャンルからの選曲を高水準のアレンジで聴かせてくれる。このあたりが私のような音楽ファンにはたまらない魅力だ。曲によっては“ひょっとしてオリジナルより良いんじゃないか?”と思わせるほど、素晴らしい高揚感が味わえる。本当に見ていて幸せな気分になってくるのだ。

 さて、以前アメリカ製のTVドラマ「ER 緊急救命室」が当たったとき、日本でもその“類似品”みたいなドラマが続々と作られたが、この「glee」の“類似品”を我が国で作れるかというと、それはとても難しい・・・・というか、不可能に近いと思わせる。中心メンバーの女生徒役のリア・ミシェルや顧問教師役のマシュー・モリソンは、ブロードウェイで活動する本物のミュージカル役者。他の出演者も歌や踊りに関しては“腕に覚えのある”連中ばかりである。少しは名の知れた俳優を訓練させて何とか場を持たせよう・・・・という気配は感じられない。最初から(ネームヴァリューは関係なく)役柄に適合したキャストを選んでいるのだ。

 日本の芸能界には「glee」の出演者みたいな能力を持った役者はいない・・・・とは思いたくはないが、たとえ存在したとしてもTVドラマの中心メンバーになって活躍するというスキームは見えない。まずは有名タレントを並べて視聴率を取りに行こうという、消極的なマーケティングが罷り通っているのが現状だろう。たとえばジャニーズのタレント連中やAKB48のメンバー達を引っ張り出して“「glee」の日本版です!”などと言われても、誰が納得するものか。

 NHK-BSで放映されているのは第1シーズンのものだが、本国では第3シーズンの製作が決まっている。そして第3シーズンでは主要メンバーが“卒業”するとかで大きな波紋を呼んでいるが、いずれしてもこの高いレベルを維持したまま続けて欲しいものである。
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「イースト/ウエスト 遙かなる祖国」

2011-07-17 06:20:37 | 映画の感想(あ行)
 (原題:Est-Ouest )98年フランス=ロシア=スペイン=ブルガリア合作。第二次大戦直中にフランスに亡命していたロシア人医師とその妻が、戦後ソ連に戻ってしまったことにより体験する苦難を描くレジス・ヴァルニエ監督作品。その年の米アカデミー賞外国語映画賞候補にもなった。

 とにかく、スターリン時代のソ連の抑圧社会が容赦なく描かれていることに圧倒される。国土再建のためという名目で亡命者を呼び戻し、挙げ句にスパイ容疑で処刑か収容所送り。運良く免れても貧乏生活を強いられ、随所に秘密警察や密告者の目が光っている。

 ただし、平易な作劇を重んじるヴァルニエ監督は骨太の歴史劇というより波瀾万丈の通俗メロドラマとして仕上げているため、題材がハードな割にテンポが速くサラリとした印象を受ける。歴史好きには物足りないが、これはこれでいいだろう。主演のサンドリーヌ・ボネールは相変わらず魅力的。

 それにしても、この映画を観ると、戦後日本から北朝鮮に移住した人々を思い浮かべずにはいられない。「地上の楽園」という甘言にだまされ、北朝鮮に渡って辛苦を味わった在日朝鮮人と日本人女性(在日朝鮮人の男性の配偶者)の数は膨大なものである。その悲劇に荷担した日本の左翼とリベラル系マスコミは、いまだ彼等に謝罪も補償もしていないのだ。
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「スカイライン 征服」

2011-07-16 06:47:02 | 映画の感想(さ行)
 (原題:SKYLINE )本作の唯一の存在価値は、少ない予算でもスペクタクル映画を作れることを示した点である。この映画の製作費は日本円にして9億ほどだという。ハリウッドの相場を考えれば、自主映画にも等しいレベルだ。しかし、パッと見た感じは100億円投入の超大作に比べても遜色はない。

 もちろんその裏には徹底した“合理化策”が実行されているのだ。まず、エリック・バルフォーやドナルド・フェイソン、スコッティ・トンプソンといった本作のキャストはほぼ無名の俳優ばかりである。もしも有名スターが一人でも出ていたら製作費がハネ上がったはずだが、この映画の作り手(製作・監督はグレッグ&コリンのストラウス兄弟)には、出ている面子で客を呼ぼうという魂胆は微塵もない。この割り切りの良さは見上げたものだ。



 そして、特殊効果には新しいテクノロジーは使われていない。いずれもどこかで見たような、既存の技術の流用のように思える。さらに上映時間も94分と短く、無駄に長尺にすることによる経費の高騰を抑えている。

 また面白いのは、某似非ドキュメンタリー風ホラー作品のように、暗い画面と手持ちカメラによる不安定な画面といった“小手先のテクニック”でマイナー臭さをアピールしてキワ物としての訴求力を出そうという姑息な戦略を採用していないこと。白昼堂々とロスアンジェルスを侵略する異星人の所業を、大作感あふれる構図で撮り上げている。作者の自信の表れであろう。

 ただし、映画の質としては随分と弱体気味だ。空からやってくるエイリアンに対し、ビルの屋上に逃げようとする登場人物達は一体何なのか(笑)。普通に考えれば地下室に退去すべきだ。宇宙人は水上にはやって来ないという“定説”が何の伏線もなく語られるのにも脱力する。

 米軍機が出動して相手にダメージを与える場面もあるのだが、まずは巡航ミサイルを2,3発お見舞いして様子を見るというのが鉄則ではないだろうか。いきなり接近戦を挑むのは無謀と言うしかない。ラストの処理も続編への“繋ぎ”としての意味があるのだろうが、説明不足で閉口する。

 とはいえ、このような“低予算大作”のノウハウは今後も有用になるだろう。特に今回のキャストは無名にふさわしく(?)魅力に乏しい連中ばかりであったが、隠れた実力派を“発掘”する可能性だってある。人材開発の面からも、こういう方法論はどんどん採用されて然るべきだと思う。
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「ファイナル・デスティネーション」

2011-07-15 06:37:48 | 映画の感想(は行)
 (原題:Final Destination )2000年作品。死神に見込まれた高校生たちの必死の脱出劇を描いたスリラー。その後シリーズ化され、現時点で5作目が待機中である。

 フランスへの修学旅行で乗るはずの飛行機が爆発炎上する夢を見た男子高校生が、実際の離陸の寸前に“この飛行機は事故を起こすぞ! みんな逃げろ!”と叫び出す。彼とその騒ぎに巻き込まれた6人は機外へと摘み出されるが、飛行機は離陸後に爆発して粉微塵になる。運良く生き残った彼らだったが、実は彼らの名前も“死神のリスト”に載せられており、そのノルマが実行されるがごとく、彼らも次々に怪死を遂げていく。果たして死神とのゲームに勝てる者はいるのか。

 飛行機事故で死にそこなった連中を死神が追いかけ回すという設定は悪くない。しかし、残虐場面の段取りに工夫がなく、何より“死神を出し抜く主人公”の行動が行き当たりばったりなのでサスペンスが全然盛り上がらない。荒唐無稽な設定にこそ理詰めの展開が必要だということがわかっていないようだ。キャスティングも弱体気味。

 私はこの続編の「デッドコースター」も観ているが、そっちの方が遙かに面白い。ただし3作目がこの1作目の監督(ジェームズ・ウォン)に戻ってからこのシリーズには興味を無くしてしまった。たぶん5作目も観ないと思う(高評価ならば話は別だが ^^;)。
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