元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

最近購入したCD(その37)。

2019-09-06 06:32:17 | 音楽ネタ
 オハイオ州シンシナティで99年に結成されたインディー系ロックバンド、ザ・ナショナルのサウンドは、正直今まであまりピンと来なかった。ダウナーで屈折したような高踏的ロックサウンドを奏でる展開は、まあそれなりに評判が良かったものの、個人的にはヌケが悪くてキャッチーとは程遠いシロモノとしか映らなかった。ところが今年(2019年)リリースされたこの8枚目のアルバム「アイ・アム・イージー・トゥ・ファインド」は格段に聴きやすくなり、幅広い層にアピール出来る仕上がりになっている。



 何より、複数の女性ヴォーカルをフィーチャーしたことが大きい。音の厚みが増すと共に、目の前がパッと明るくなったような開放感が味わえる。ゲストシンガーはリサ・ハニガンや、シャロン・ヴァン・エッテン、ミナ・ティンドルといった一般にはそれほど知られていない顔ぶれだが、いずれもかなりの実力者で、バンド自体の音にしっかりと馴染んでいる。また、合唱団やストリング・セクションも起用し、バラエティに富んだパフォーマンスが堪能出来る。

 このアルバムは「20センチュリー・ウーマン」(2016年)などのマイク・ミルズ監督による短編映画にリンクする作品であり、多彩なアプローチは映画音楽のメソッドとも無関係ではないのかもしれない。なお、ジャケット写真は主演女優のアリシア・ヴィキャンデルのポートレートを採用。商品自体の見栄えも良い(笑)。

 ハンガリーのブタペスト出身のジャズ・ピアニスト、ロバート・ラカトシュはそのクラシックの素養を活かした流麗な演奏に定評があるが、彼がリリースしたアルバムの中で最も高水準だと思われるピアノ・トリオによるディスクが、この「ネヴァー・レット・ミー・ゴー」である。録音は2006年で、国内盤は野澤工房から2007年にリリースされている。



 ジェイ・リヴィングストンとレイ・エヴァンズによる御馴染みの表題曲をはじめ、既成曲を中心に12のナンバーが収録されているが、いずれもクールで弛緩した箇所は無い。しかも、歌心あふれるタッチでメロディ・ラインの美しさを存分に際立たせている。ラカトシュ自身の作曲によるものが一曲入っているが、これも他のナンバーに引けを取らない出来だ。ファビアン・ギスラーのベースとドミニク・エグリのドラムスによるリズム・セクションも万全だ。

 そして特筆すべきは録音である。聴感上のレンジは広く、音像もクリア。音場はチリひとつ落ちていないような清涼な展開を見せる。録音場所が風光明媚なスイスのスタジオだからということでもないが、とにかく澄み切った空気感は強く印象付けられる。ジャズ好きのオーディオファンならば、持っていても損は無いアルバムと言えるだろう。

 フランスのクラヴサン奏者ブランディーヌ・ヴェルレによるバッハのチェンバロ曲集(78年録音)は、往年の名オーディオ評論家・長岡鉄男の著書「外盤A級セレクション」でも紹介されていた優秀録音盤であり、私も昔このレコードを探したことがあったが、とうとう入手出来なかった。ところが最近、タワーレコードがCDとして復刻リリースしてくれた。直ちに買い求めたのは言うまでも無い。



 曲目はフランス様式による序曲とイタリア協奏曲、4つのデュエットの3つ。イタリア協奏曲を除けばあまり馴染みが無いが、そこはバッハ作品、聴き込めば決して平凡ではない佳曲だ。ヴェルレの演奏は、ハッキリ言って凄い。タッチは鋼鉄のように強靱で、一分のスキも無く、聴き手にグイグイ迫ってくる。とにかく曖昧さを抑えた骨太なパフォーマンスで、艶っぽさや滑らかさを求めるリスナーには合わないが、曲目にしっかり対峙して味わいたい向きには打って付けだ。

 録音は噂通りの素晴らしさ。全帯域に渡って明瞭で、しかも高域も低域も十分伸びている。音像は鋭く切れ込み、音場も狭いながら整備されている。特に低音の、重量感がありながら締まっているという展開は他の追随を許さない。このディスクが千円ちょっとで買えるというのは、実に有り難いことである。
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アナログレコードの優秀録音盤(その7)。

2019-07-07 06:24:32 | 音楽ネタ
 ヴァイオリン2台のデュオ曲ばかりを集めたディスクというのも珍しいが、これは曲・演奏とも申し分なく、中身が濃い。演奏者はアルゼンチン出身のルイス・ミカルとマルタ・カルフィで、2人で“ミュンヘン・ヴァイオリン・デュオ”というユニットを組んでいたこともあるという。85年の録音で、レーベルはドイツのCALIGだ。



 曲目はヴィエニアウスキのエチュード/カプリース、ボッケリーニの二重奏曲、ジャルディーニのソナタ等、一般には馴染みのないものばかり。しかしながら、どれもびっくりするような名曲ではないものの、いずれも肌触りが良く聴きやすい。2人のテクニックは確かなもので、アキュレートでありながら、音色の明るさと何とも言えないロマンティシズムを醸し出していて感心する。

 そしてこのレコードの一番のセールスポイントは、録音だ。かなりマイクとの距離が短い。ならばキツくて鋭いサウンドになっているのかと思うが、鮮明ではあるが決して聴き辛くない。2台のヴァイオリンは銘柄や製作年度も異なると思われるのだが、それぞれの音色の違いがシッカリ出ているのも高ポイントだ。



 次に紹介するのは、エリザベート=クロード・ジャケ・デ・ラ・ゲールという女流作曲家のチェンバロ曲集だ。その名はこのディスクを聴くまで知らなかったが、17世紀後半から18世紀初頭にかけて活動していたフランスの作曲家で、このレコードは初期の作品が収められている。演奏者はアイルランド出身の女流エマー・バックリー。82年の録音でレーベルは仏ハルモニアムンディである。

 曲自体はどれもメランコリックで仄暗く、気軽に聴き流せるものではない。しかし決して厳格では無く、旋律は優美だ。バックリーの演奏は技巧を強調せずにスムーズに弾き切っている。押しの強さが感じられないのも、曲の雰囲気に合致していると思う。なお、この曲集は世界初録音だということだ。

 録音場所はフランス西部のソーヴァン城。それほど広いホールではないと想像するが、音場感は出ている。特に優秀なのが低音で、演奏ノイズも含めた臨場感豊かな展開である。高域もキンキンせずにまろやかだ。このレーベルはレコードジャケットの美しさには定評があるが、このディスクのパッケージも実にキレイで、壁に飾っておきたいほどだ。



 サイモン&ガーファンクルの「セントラル・パーク・コンサート」(二枚組)といえば、1981年9月19日にこの有名ユニットが一時的に再結成してセントラル・パークでコンサートをおこなった際のライブ盤で、全世界でアルバム・チャートの上位にランクされた。収録曲についてもコメントする必要が無いほどお馴染みのものばかりだ。

 このディスクが自室のレコード棚に収まっている。別に優秀録音盤でもないが、手に入れた経緯が面白いので、ちょっと言及しておきたい。実はこれ、某電器店で初めてCDプレーヤーを購入したときに、オマケとしてもらったもの(笑)。

 CDプレーヤーを買ったらLPレコードが付いてくるという、何とも玄妙な事態になったのだが、当時(80年代半ば)はCDが完全に市民権を得ておらず、まだ好事家のアイテムに過ぎなかったのだ。新種のコンポーネントであるCDプレーヤーを何とか売ろうと、メーカーもショップもプッシュしていたことは想像に難くない。この“レコードのオマケ”も、その形振り構わぬマーケティングの賜物だったのだろう。ちなみに、そのときに購入したプレーヤーはONKYO製で、それから長らく愛用していた。
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最近購入したCD(その36)。

2019-05-12 06:35:27 | 音楽ネタ
 今回は何と、現役の女性アイドルグループ三題(笑)。まず紹介したいのが、大阪出身の4人組PassCode(通称:パスコ)のメジャーレーベルでの2枚目のアルバム「CLARITY」である。

 ロックをアイドルに歌わせるという方法論は、今さら珍しくもない。それらしいナンバーは昔からいくつも存在していたし、BABYMETALのようにワールドワイドな人気を獲得した例だってある。だが、このPassCodeのサウンドのロックに対するハマり具合は尋常ではない。ただハードでラウドなだけではなく、女性ユニットとしては屹立したオリジナリティを獲得している。



 基本はEDMをベースにしたヘヴィロックだが、曲の途中で(プログレッシブ・ロックを思わせる)転調や変拍子が突如として現出し、まさに先の読めない展開でスリル満点だ。特に印象付けられるのは、メンバーの一人である今田夢菜の“デスメタル声”でのシャウトで、最初聴いたときには一体何が起こったのか分からず呆気にとられてしまった。

 また、ハード一辺倒ではなく時折メロディの美しさを感じさせるのも見事で、アルバム全体通して聴いても飽きることは無い。それからネット上でライブの映像もチェックしたが、剣呑な雰囲気が充満していて実にスリリング。ロック好きならばチェックしておいて絶対に損はないだろう。

 2015年に結成された4人組フィロソフィーのダンス(通称:フィロのス)のサード・アルバム「エクセルシオール」は、最近私のリスニングルームのヘビーローテーションになっている。



 彼女たちのサウンドは、ハッキリ言って“オヤジ殺し”である(笑)。70年代から80年代にかけて流行ったソウル、ファンク、ディスコ、シティ・ポップ、R&Bなどを現代的味付けで展開させている。そして全体に流れるブラックミュージックのフィーリングが何とも憎い。昔若い頃にこの手の音楽を半ば気取って聴いていた今のオッサンどもは、このフィロのスのパフォーマンスに接すると一発でマイってしまうだろう。

 面白いのは、このグルーブは各メンバーのキャラが恐ろしく“立って”いることだ。見た目が個性的であるのはもちろん、声の質がそれぞれ全く異なる。特に、本格派ソウルシンガーみたいな日向ハルの野太い声と、十束おとはの典型的“アニメ声”が同一ナンバー内で交互に現れるのを目の当たりにすると、軽い目眩さえ起こしてしまう。それでいて4人のチームワークは万全で、この4人でしか出せないサウンドを提供しているのは見上げたものだ。

 そして曲のクォリティの高さには驚愕する。どのナンバーもポップに練り上げられており、捨て曲が無い。そして繰り返し聴くごとに味が出てくる。正直言って、今一番観てみたいのが彼女たちのライブだ。

 2016年にデビューした4人組ヤなことそっとミュート(通称:ヤナミュー)のサウンドも、ある意味“オヤジ殺し”だ。しかしながら、前述のフィロのスとは違い、少々聴き手を選ぶ。この手の音に反応するのは、90年代から2000年代はじめに一世を風靡したグランジ、オルタナティヴ系のロックにハマっていたオッサンどもである。



 購入したのは2枚目のアルバム「MIRRORS」だが、グランジ系に加えてシューゲイザー系やエモ、スクリーモ系の要素も取り入れ、アグレッシヴな展開を見せている。特に印象付けられるのがギターワークで、このスピード感と絶妙な歪み具合は、まさにグランジ。確かなテクニックに裏打ちされ、実にカッコイイのだ。

 この暴力的なギターをバックに、浮遊感のある女性ヴォーカルが重なる様子は、まさに唯一無比の世界観を獲得している。各曲の組み立て方は上質で(一つのナンバーの中で何度も山場がある)、高踏的な歌詞も相まって、ロックアルバムとしても実に良く出来ていると思う。とにかく最初から最後まで気を抜けないヴォルテージの高さで、聴いた後の満足感は大きい。

 さて、いままでアイドルソングに各音楽ジャンルの要素を盛り込ませた例はたくさんあったが、あくまでそれは“○○風味のアイドル歌謡”に過ぎなかった。ところが今回挙げたグループのサウンドは“アイドル風味の○○”だ。つまり各ジャンルでアイドルという形状を取り入れ、出来上がった音楽はそのジャンルの方向に完全に振り切っている。

 いくら手練れの音楽ファン(≒オッサン)が喜ぶサウンドだといっても、裏で支えるスタッフは若手ばかりだ。だから当然若い層に向けてのアピールを想定している。私は最近知ったのだが、こういうコンセプトを持つアイドルを“楽曲派”と呼ぶらしい。もちろん、本人達にはその音楽スタイルを使いこなすだけのスキルが要求される。また“アイドルではなくアーティストの領域を指向している”というわけではなく、ちゃんとアイドルらしい瑞々しさや甘やかさも備えている。

 “楽曲派”のユニットは今回挙げた3つ以外にも複数存在するが、いくらアイドルでも厳密に言えばミュージシャンの端くれである。だから自らが歌う楽曲に関しては水準の高さを望むのは当然の話だ。その意味では“楽曲派”こそが本来のアイドルではないかという気がしてくる。そういえば昔のアイドル(80年代前半ぐらいまで)は音楽好きが多く、プロデュースする側もそれに応えていたように思う。

 最近では楽曲やパフォーマンスよりも握手会などで愛嬌を振りまくことが重要視され、無意味な足の引っ張り合いの挙げ句、暴行事件やイジメ問題などを引き起こしている“極端な多人数のグループ”が目立つ。そういう“ひと山いくらのビジネス”が今後も長く通用するとは思えない。ある意味アイドルの“王道”である“楽曲派”の大手メディアへの露出を望みたいところだ。
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気鋭のピアニストの演奏を聴いてみた。

2019-02-22 06:16:30 | 音楽ネタ

 今月(2月)に福岡市中央区天神にある福岡シンフォニーホールで開催された、藤岡幸夫指揮の日本フィルハーモニー交響楽団の公演に行ってみた。曲目はドヴォルザークのスラブ舞曲第1番および交響曲第9番「新世界より」、そしてチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番である。なお、私がこのオーケストラを生で聴くのは5年ぶりだ。

 この公演で一番印象に残ったのが、チャイコフスキーの演目でソリストを務めた萩原麻未だ。彼女は86年生まれの、まだ“若手”と言っていい年代のピアニストである。パリ国立高等音楽を首席で卒業し、2010年のジュネーヴ国際音楽コンクールで金賞を取るなどのキャリアはあるが、恥ずかしながら私は今回彼女の名前および演奏を初めて知った。

 とにかく、彼女が奏でるサウンドは流麗だ。テクニックは高度に練り上げられているが、それを強調するかのようなケレンや硬さは無い。音色は明るく、隅々まで磨き上げられたように滑らか。エモーショナルではあるが、決して情感におぼれない。難曲もストレスなく進み、鑑賞後の気分は格別である。

 そして圧巻は、アンコールに応えてのドビュッシーの「月の光」だ。この有名曲は実演で耳にすることも多いが、かくも美しいパフォーマンスに接したことは無かった。タッチは柔らかいが、作品の魅力を立体的に展開している。さすが名匠ジャック・ルヴィエに師事しただけのことはあると思った。

 聞けばオール・ドビュッシーのプログラムによるリサイタルも開いたことがあるらしく、もしも近場で開催されたならば足を運びたい。また彼女の容貌はチャーミングで、スタイルも良い。野郎の聴衆に対するアピール度も高いだろう(笑)。リリースしているディスクは少ないが、こちらも積極的なレコーディングを期待したい。
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最近購入したCD(その35)。

2018-02-11 06:22:56 | 音楽ネタ
 私は正直言って、EDMという音楽ジャンルは好きではない。いかにも“お手軽”に作られた音という感じで(本当は手間が掛かっていることは承知しているものの)、ライトに過ぎる。つまり、聴き応えがないのだ。しかし、ニューヨークに拠点を置くザ・チェインスモーカーズのデビューアルバム「メモリーズ...ドゥー・ノット・オープン」(2017年発売)を何気なくCDショップで試聴したところ、とても良い印象を受け、思わずディスクを買ってしまった。



 ザ・チェインスモーカーズは、アンドリュー・タガートとアレックス・ポールの2人からなるEDMユニットで、結成は2012年。2016年にリリースした「クローサー」が大ヒットしてグラミー賞候補になっている。彼らの作る楽曲は決して無機的ではなく、実にメロディアスだ。また、70年代に流行った“ソフト・アンド・メロウ”のテイストをも感じさせ、幅広い層にアピール出来る。少なくとも、他のEDMミュージシャンの楽曲のように、ダンス系に振られた(私のようなオッサンにとっては)聴き疲れするような展開にはなっていない。

 収録されたナンバーの半数以上が他のシンガーとのデュエット・ソングになっており、しかもすべて相手が違う。だからアルバム全体がヴァリエーションに富み、単調にならない。特にコールドプレイとのコラボ作「サムシング・ジャスト・ライク・ディス」は気に入った。日本盤には「クローサー」を含む3つのヒット曲がボーナストラックとして入っており、お買い得感は高いと言えよう。

 イタリア生まれのジャズ・ピアニスト、ロベルト・オルサーのディスクは以前ピアノトリオ作の「ステッピン・アウト」を紹介したが、このトリオにトランペットとフリューゲルホーンを担当するファルビオ・シガルタが加わったカルテットによるアルバム「フローティン・イン」も、かなり中身の濃い作品だ(2016年録音)。



 大半がオルサーとベーシストのユーリ・ゴロウベフによるオリジナル曲だが、いずれもメランコリックで美しい旋律を有している。テンポの違いはあるが、どれも哀愁に満ちた仄暗い情熱を感じさせて、聴いていて気持ちが良い。各プレーヤーのパフォーマンスも流麗で淀みがなく、デリケートかつアグレッシヴに仕上がっている。唯一の既成曲であるリッチー・バイラーク作の「エルム」も、しみじみと聴かせる。

 録音は「ステッピン・アウト」ほどではないが、高水準だ。人工的な音場ながら、各楽器の輪郭はしっかりと捉えられていて、オーディオ的快感は十分に得られる。なお、オルサーによるユニットは澤野工房からリリースされているものもあるが、こちらは大したことは無い(特に曲調が凡庸)。やはりレーベルとミュージシャンとの相性というものがあるのだろう。

 スメタナの弦楽四重奏曲第一番「わが生涯より」は有名なナンバーではあるのだが、今までディスクを購入したことが無かった。何度か買おうと思ったことはあった。しかしタイミングが悪かったのか、いずれもショップに適当なものが置いておらず、そのたびに諦めていたのだが、今回スメタナ四重奏団による代表的なヴァージョンが廉価盤として再発され、ようやく手にすることが出来た。



 この曲は作曲者自身の、文字通り“わが生涯”を綴ったような重量感のある内容で、技巧的にも難しいとされている。だがスメタナ四重奏団は軽々と弾きこなしており、かつ鮮烈で情感豊かだ。メロディラインは伸び伸びと歌われており、さすがこのナンバーの決定版と言われるだけのことはある。カップリングされている第二番も優れた演奏だ。

 吹き込まれたのは76年だが、デジタル録音の嚆矢とも言える内容で、音質は良い。なお、今回購入したのはUHQCD(アルティメット・ハイ・クォリティCD)仕様によるものだ。実は、数年前に同内容でBlu-spec CD仕様のディスクも発売されたらしい。そっちの方は聴いたことが無いのだが、明らかに音が違うらしく、UHQCD版が上質だという評もある。やはりディスクの仕様が異なると音も変わってくるというのは、当然考えられることなのだろう。
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アナログレコードの優秀録音盤(その6)。

2017-05-21 06:25:10 | 音楽ネタ
 所有しているアナログレコードの中で録音が優秀なものを紹介したい。まず取り上げるのが、16世紀にイングランドで活躍した作曲家、ジョン・ダウランドの室内楽曲やリュート独奏曲、歌曲などを集めたディスクで、演奏はパリ古楽奏団。79年録音。タイトルは「パヴァーヌ、ガイヤルド、エア、アルマンドと幻想曲」。フランスのCALIOPEレーベルからリリースされている。

 パリ古楽奏団は6人編成。うち5人がリコーダー奏者だという。曲自体は親しみやすいもので、誰が聴いても違和感は覚えないであろう。特にパヴァーヌは美しい旋律でしみじみと聴かせる。だが、本作の存在価値は録音にある。とにかく、レコーディング状況がユニークなのだ。



 録音はスタジオでは行われていない。かといってライヴ会場や教会の中でもない。レコーディング場所は普通の人家、それも古い建物の庭先である。かなりデッドな状態になるが、各音像は丁寧に録られており、切れ味は不足気味ながらボケたところはない。そして、このレコードには外部の“ノイズ”も収録されている。具体的には、小鳥のさえずりと家の前を通る自動車の音だ。

 B面5曲目のリュートのソロでは、演奏者のバックにしっかりと小鳥が定位し、盛大に鳴き声を聴かせる。自動車は遠慮会釈無く家の前を横切っており、向かって右から左に走っているのが分かる。これらは決して音楽の進行を邪魔するものではなく、逆にのどかな雰囲気で興趣を盛り上げてくれる。メジャーなレーベルでは決して採用されないであろう録音形式だが、面白さでは随一だ。

 スウェーデンのBISレーベルといえば、73年の創立から意欲的にクラシック系のソースをリリースしており、好録音の多いブランドとして知られるが、今回紹介するのは79年に録音されたトランペットとピアノのデュエットによるディスクだ。トランペットはエドワード・タール、ピアノはエリザベート・ヴェシュンホルツという奏者は馴染みは無いが、実績を積んだ手練れだということだ。



 曲目はガーシュインの「ラプソディー・イン・ブルー」、マルティヌー、アレクシウス、ヒンデミットの各ソナタである。「ラプソディー~」を除けば知らないナンバーばかりだが、どれもクールな曲想とハーモニーの面白さで聴かせてくれる。ユニークなジャケット・デザインは小学生の絵を採用したらしい。

 録音はデンマークの高校で行われている。とにかくトランペットの音が最高だ。艶やかなサウンドが広い音場の中に吸い込まれていく様子には、感心するしかない。なお、トランペットは曲によってBACHとYAMAHAのものが使い分けられているらしいが、両者の音の違いも明確に描かれている。BACHはくすんだ渋い音で、YAMAHAは闊達で明るい。ピアノの音は幾分硬いが、適度なエコーが付随して気にならない。

 BISレーベルのディスクは他に数枚保有しているが、どれも音が良い。機会があればまた取り上げたい。

 経営危機に陥っている東芝が昔レコード会社を持っていたことは以前の書き込みで述べたが、その東芝EMIの創立20周年記念ディスク(非売品)が、なぜか実家のレコード棚にある。優秀録音ではないのだが、面白いので紹介したい。



 このレコードが製作されたのは70年代半ばだと思われるが、東芝EMIの創立が73年なので、これはその前身である“東芝レコード”の設立から数えて20年目という形で作られたのだろう。2枚組で、1枚は邦楽、もう1枚は洋楽が収められている。邦楽は短縮ヴァージョンが中心だが、洋楽は全てフルコーラスだ。

 興味深いのが、曲の合間に創立から“20周年”までの音楽シーンの概要がナレーションとして挿入されていることだ。その口調は何のケレンもない真面目なものだが、賑々しいヒット曲の数々と並べられると、ミスマッチな興趣を呼び込む。

 収録されている楽曲はどれも懐かしいものばかりだが、個人的にウケたのが米国のカントリー歌手ジェリー・ウォレスの「マンダム 男の世界」(原題は「LOVERS OF THE WORLD」)。ある年代より上の者達にとってはお馴染みの、チャールズ・ブロンソンをフィーチャーした男性化粧品のCMに使われたナンバーだ。もちろんヒットしたのは日本のみで、オリコン洋楽チャートでは1位を獲得しており、70年度の年間総合チャートでも20位にランクインしている。昔はヒット曲のジャンルの幅が広かった。
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東芝と音楽事業。

2017-04-16 06:28:51 | 音楽ネタ
 日本を代表する大手電機メーカーだった東芝も、放漫経営により今や存亡の危機にある。原発という先の見えない事業に大枚を叩いてしまった幹部連中は糾弾されて然るべきだが、減給とリストラを強いられる従業員こそいい迷惑だ。もしも倒産ということになると、膨大な数の社員が路頭に迷い、日本経済にも悪影響を及ぼす。まことに困ったものである。

 そういえば、私が子供の頃から東芝の製品は家に数多く置かれていた。白物家電やテレビ、掃除機もすべて東芝製。実家の近くに“東芝ショップ”があり、とにかく“東芝のものを買っておけば間違いはない”というのが我が家の不文律みたいなものだった(笑)。昔は一社提供のテレビ番組もけっこうあって、その頃はまさかこの会社が現在のようになろうとは、誰も想像していなかったと思う。

 かつて東芝はレコード会社も保有していた。米国のキャピトルEMIの出資を経て、73年に発足した東芝EMIである。当時EMIは世界有数のレコード・メーカーであり、ザ・ビートルズをはじめとして所属しているミュージシャンも大物揃い。クラシックの分野でも名盤が目白押しだった。国内のミュージシャンも粒揃いで、ヒット作が出るとビルが建つほどだったらしい。



 東芝はソフトを供給するだけではなく、レコードの製造も手掛けていた。その品質は国内盤では随一だったと思う。またCD時代になってからもディスクは83年から自社工場で製造。当時はCDの製造元は世界に数社しか存在しなかったが、その中でも1,2を争う品質を誇っていたのではないだろうか。

 また、東芝はピュア・オーディオも展開していた。ブランド名はAurex(オーレックス)で、確か70年代半ばに発足したと思う。オーディオ製品自体はそれ以前からリリースしていたが、松下電器(現Panasonic)のTechnics等に対抗するためか、本格的な取り組みをアピールしていた。高評価のモデルも多数あったが、80年代半ばには撤退してしまったのは惜しまれる(現在は別会社の安価なシステムにおいてブランド名だけは復活している)。

 さて、東芝は2006年に音楽事業からの撤退を決め、翌年に東芝EMIをEMIミュージックに売却した。皮肉にも、東芝がウエスチングハウス社を買収したのが、ちょうどこの頃である。

 その後のEMIはデジタル音楽配信の出遅れもあり、経営が傾いた。そしてついに2012年、音楽出版事業はソニーに、レコード部門についてはユニバーサルによって買収されてしまう。その後音楽ソフトの権利は(一部を除いて)ワーナーに売却された。かつてのEMIの名盤の数々が、ライバルだったはずのワーナー・ミュージックのロゴが入ったパッケージで店頭に並んでいるのを見ると、何とも複雑な気分になる。

 乱暴な言い方をすれば、東芝は音楽事業という(逓減傾向にはあったが)手堅い仕事を捨て、同時に原発という危なっかしい稼業にのめり込んだという見方もできる。もちろん音楽関係のビジネスとエネルギー事業とは違うが、印象としては“実業と虚業”ほどの差異があると思う。

 あのまま東芝が音楽事業を見捨てずに、地道にビジネスを展開していたら、少しはこの業界も賑わっていたかもしれない。いずれにしろ、いくら伝統のある企業でも、それをうまく維持して発展させるかどうかは、トップの見識次第だということだろう。
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最近購入したCD(その34)。

2017-02-25 06:40:05 | 音楽ネタ
 最近よく聴いているのが、2005年にロンドンで結成されたポスト・ポップバンド、ザ・エックス・エックスのサード・アルバム「アイ・シー・ユー」である。前の2作も試聴したことがあるのだが、質の高さは認めるものの過度にメランコリックで高踏的な雰囲気で、ちょっと腰が引けたものだ。しかし本作は実にポップで聴きやすい。



 とはいえ、このグループ特有のストイックで耽美的なタッチは健在だ。フォークをベースとしてエレクトロニクス風味で仕上げるという方法論だが、重厚かつキレのいいビートと、美しいメロディが織りなす世界観は聴けば聴くほど魅了される。かと思えばダンス路線を狙ったり、ホール&オーツのナンバーをサンプリングしたアグレッシヴな楽曲などもあり、曲調はバラエティに富んでいる。

 メンバーのジェイミー・スミスはインタビューで“(ネット環境などで)音楽を聴くスタイルは変わったが、やっぱりアルバム作品として接して欲しい”という意味のコメントを残しており、“断片的な聴き方をされてたまるか!”といった気負いが感じられて好ましい。すでに英米では良好なチャート・アクションを示している。幅広く奨められるディスクだ。

 ロンドン在住のソングライターで音楽プロデューサーであるデヴ・ハインズのソロ・プロジェクト、ブラッド・オレンジの3枚目になるアルバム「フリータウン・サウンド」は、精緻な音作りで聴く者を引き込んでしまう秀作だ。前2作は聴いていないが、このディスクに接するだけでも並々ならぬ才能が感じられる。



 R&B及びソウルが基調だが、メロディ・ラインは考え抜かれており、各音像の重ね方は呆れるほど見事だ。鋭敏で力強いビートが奥行きのあるサウンド・デザインに映える。ヴォーカルはソウルフルかつアーシーで、ある時はクールに、またある時は端正でマイルドに綴られる。ダンス・テイストやアフリカ風味も上手く取り入れ、ナンバーごとに違ったアプローチが成されている。

 タイトルの“フリータウン”とは、彼の父親の出身地であるシエラレオネの首都である。自らのルーツを探るようなスケール感と味わい深さを持たせた音作りであろう。なお、録音はクォリティが高い。特に高域のヌケは病み付きになるほどだ。ブラック・ミュージックが好きなリスナーにとっては必聴の一作と言って良い。

 ベース奏者のフェルチオ・スピネッティと女性ヴォーカルのペトラ・マゴーニによるイタリアのペア・ユニット、ムジカ・ヌーダが2004年に発表したファースト・アルバム(タイトルはユニット名そのまま)は、オーディフェアなどではよくデモ音源として使われている。今回入手して聴いてみると、サウンド・マニア必携のディスクであると改めて思う。



 とにかくコントラバスの低域表現が凄い。ウーファーが盛大にブルブルと震えだして慌ててしまうほど(笑)。しかも歪感や混濁はほとんど感じず、クリアに録られているのには感心するしかない。余計なイコライジングが施されていないヴォーカルも実に生々しく、明確な音像表現を伴って聴き手を圧倒する。音場は広くはないが、クリーンで心地よい。

 もちろん、録音だけではなく内容も十分に高水準だ。ビートルズの「エリナー・リグビー」やポリスの「ロクサーヌ」といったよく知られたナンバーを、絶妙のアレンジで朗々と聴かせる展開はスリル満点。ジャズ好きだけではなく、音楽ファン全般を納得させてしまうほどのヴォルテージの高さが光る。彼らの他のアルバムも聴いてみたいものだ。
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最近購入したCD(その33)。

2016-09-04 06:26:37 | 音楽ネタ
 デンマークのコペンハーゲンにあるヒッピー自治区出身の4人組ソウルポップ・バンド、ルーカス・グラハムのメジャーデビュー作(アルバム・タイトルはバンド名と同じ)は、実に聴き応えがある。昨今、新鋭ミュージシャンはEDM系が目立つようだが、正直言ってその手のサウンドは好きではない。対してこのルーカス・グラハムは、伝統的ソウルポップのメソッドを踏襲し、なおかつアレンジ等にはアップ・トゥ・デイトな手法が採用されており、広範囲にアピールできる内容だ。

 バンドのフロントマンでヴォーカル担当であるL・グラハムは、一見すると童顔で垢抜けない野郎だが(笑)、その伸びやかな歌声とリズム感で聴く者を惹き付ける。曲のクォリティも高く、先行シングルの「セブン・イヤーズ」は哀愁を帯びたメロディと泣かせる歌詞が素晴らしい。全体にわたって“捨て曲”がひとつもなく、どこから聴いても満足度が高い。



 分かりやすい曲展開で妙に斜に構えたところもなく、ポップスファンでこのスタイルが嫌いな者はあまりいないのではないだろうか。すでに本国をはじめアメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリアなどで高いセールスを記録しているが、それも頷ける。また、何よりデンマークという今まで音楽シーンでは注目されなかった地域から出てきたというのも面白い。今後の活躍に期待が持てよう。

 ウエストコーストで活動するドイツ出身ピアニストのマーカス・バーガーを中心としたピアノトリオ、L.A.セッションズが2010年に録音したアルバム「アクシデンタル・ツーリスツ」は、私好みのクール&スイートな展開で大いに楽しめた。曲はオリジナルが中心だが、聴く者に対して媚びたところのない寒色系のメロディ・ラインながら、決して独り善がりのパフォーマンスに陥らず、しっかりとエンタテインメント性が確保されている。



 また、緩急に合わせた曲順が巧みだ。バーガーのピアノは繊細だが、弱々しさとは無縁。時にパワフルかつ鋭角的に切れ込み、スリリングな側面も見せる。随所に見せる甘やかなタッチは高評価。それから、清澄なピアノのサウンドを的確にサポートするボブ・マグナッソンのベースとジョー・ラバーバラのドラムスも要チェックだ。

 音質は“中の上”といったところで、特に優れているわけではない。しかし、限られたレンジの中でバランス良く音像が並べられているという印象で、聴いていて不満に思える箇所も無い。余談だが、アルバムタイトルからはどうしてもローレンス・カスダン監督の映画(85年)を思い出してしまう。何かインスピレーションでも受けたのだろうか。



 エリック・サティのピアノ曲といえば19世紀末のフランス音楽の代表作だが、気が付けば私はこの音楽ソフトを所有していなかった。昔、高橋アキが弾いた曲集のアナログレコードを持っていたのだが、いつの間にやら処分してしまったらしい。惜しいことをした。そこで、今回久々にサティのディスクを買ってみた。モスクワ出身の若手ピアニスト、オルガ・シェプスによるものだ。2016年録音の新譜である。

 彼女の演奏に接するのは初めてだが、かなりの実力者であることが分かる。解釈としては向こう受けを狙ったケレンは感じられないオーソドックスなものだが、飽きずに楽しく聴ける。何より音色が磨かれて丸みを帯び、決して刺激的な音を出さないのが良い。リズムの取り方も堂に入ったもので、存分に“歌心”を発揮していると言えよう。もちろん、それらは確かなテクニックに裏打ちされている。

 ボーナス・トラックとして、カナダ出身のピアニスト兼作曲家のチリー・ゴンザレスの作品「ジェントル・スレット」が収録されているが、これがまた流麗な曲調で存分に聴かせてくれる。録音はホールトーンの多い人工的な音場が特徴だが、音像そのものはキレイだ。長時間鳴らしていても、ストレスは感じない。それどころか、サティの楽曲のイメージに合っていると思う。
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アナログレコードの優秀録音盤(その5)。

2016-08-18 06:09:58 | 音楽ネタ
 現在はアナログレコードの復権が巷間で取り沙汰されているが、CDが市民権を得た80年代後半には“レコードはもうすぐ無くなる”という認識が広がっていた。だからオーディオファンやコアな音楽ファンの間では“欲しいレコードは早急に入手しなければならない”というトレンドが形成されていたように思う。一部のレコード会社はそういう動きにつけ込むように、特別仕様のレコードを限定でリリースするケースが見られた。その中で有名だったのが、キングレコードが発売した“スーパー・アナログ・ディスク”である。

 英国DECCAレーベルの往年の名盤のマスター音源を、製造工程や材質に十二分に気を遣い、重量級のディスクに仕上げたもので、価格も一枚3,800円と強気のプライスタグが付けられていた。86年から10年間ほど小刻みに発売されていて、初期の製品はアクリルケース付きという豪華さだ。かくいう私も謳い文句につられて10数枚ほど購入してしまった。今回はそのうちの2枚を紹介したい。



 ウィルヘルム・バックハウスとカール・ベーム指揮ウィーン・フィルによるブラームスのピアノ協奏曲第2番は、間違いなくこの曲の代表的な名盤である。演奏はまさに横綱相撲で、その風格とスケールの大きさで聴く者を圧倒。文句の付けようが無い。

 肝心の音質だが、1967年の録音ながら、かなりの高水準。人工的な音場という評価もあるだろうが、見晴らしは良い。バックハウスのピアノも骨太でシッカリと録られている。しかしながら、私はこのソースを普通のCDで聴いたことが無く、スーパー・アナログ・ディスクのアドバンテージが如何ほどなのかは認識できない。それでも豪華なジャケットの佇まいは、買って良かったと思わせるものがある。

 アルベニスのスペイン組曲を、フリューベック・デ・ブルゴスがニューフィルハーモニア管弦楽団を指揮したディスクも持っている。ブルゴスはスペインに関連したナンバーを手掛けると抜群のうまさを発揮するアーティストで、本作においてもその色彩感とノリの良さは際立っている。とにかく、イギリスのオーケストラから斯様なカラフルなサウンドを引っ張り出せるという、その手腕には敬服するばかりだ。



 これも1967年の録音だが、その質は高い。特に音のクリアネスには感心するしかなく、同レーベルが80年代に展開するのシャルル・デュトワ指揮モントリオール交響楽団の一連の録音にどこか通じるものがあると思った。なお、このディスクはアクリルケースが付属していたが、経年劣化で退色しているのは残念ではある。しかし、今でもジャケットの保護には役立っているのは有り難い。

 このスーパー・アナログ・ディスクの高評価に影響されたのか、キングレコードからDECCAレーベルの販売権を譲り受けたポリドールレコード(現ユニバーサル・ミュージック)からも似たような企画が提示された。それが“LONDON FINAL LP”である。90年代初頭にリリースされ、音源は80年代以降の比較的新しいものが中心だった。やはり重量級ディスクが特徴で、値段も通常のLPよりも上である。

 私はこのシリーズも何枚か保有しているが、今回紹介するのはワーグナーの楽劇「ニーベルングの指環」からの管弦楽曲集だ。演奏はサー・ゲオルグ・ショルティ指揮のウィーン・フィル。82年のスタジオ録音である。定評のある演奏者によるお馴染みのナンバーであり、内容は申し分ない。誰にでも勧められる。



 このソースはCDでも聴いたことがあるが、明らかにこっちの方が音が良い。もちろん、使い勝手の違うメディアを同列で比較するのはナンセンスなのだが、サウンドの温度感や音像の密度の高さに関してはアナログが有利であるという“俗説”を、一瞬でも信じたくなってしまう(笑)。

 ただし、このLONDON FINAL LPのライナーノーツに“いかにアナログは優れているか”ということを謳っているのには脱力した。そんなにレコードが良いのならば、簡単にソフトの主流をCDに移行させるなと言いたくなる。少なくともDECCAレーベルの音源をレコードで作り続けて欲しかった。

 いずれにしても、これら限定品ディスクが発売されていた頃には、21世紀になってアナログレコードが見直されるとは関係者の誰も思っていなかっただろう。メディアの変遷は、送り手側の都合だけで勝手に形成されるものではなかったということだ。
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