元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

個人的に選んだ2011年映画ベストテン。

2011-12-31 07:38:36 | 映画周辺のネタ
 年の瀬恒例の(?)2011年の個人的な映画ベストテンを発表したい。



日本映画の部

第一位 冷たい熱帯魚
第二位 ヘヴンズ ストーリー
第三位 一枚のハガキ
第四位 監督失格
第五位 マイ・バック・ページ
第六位 まほろ駅前多田便利軒
第七位 歓待
第八位 ツレがうつになりまして。
第九位 YOYOCHU SEXと代々木忠の世界
第十位 スマグラー おまえの未来を運べ



外国映画の部

第一位 白いリボン
第二位 キック・アス
第三位 トスカーナの贋作
第四位 ソーシャル・ネットワーク
第五位 シリアスマン
第六位 再会の食卓
第七位 ザ・ファイター
第八位 ブラック・スワン
第九位 キッズ・オールライト
第十位 ヤコブへの手紙

 2011年3月11日に東日本を襲った大災害は国内外に衝撃を与えたが、この事件が映画の題材として取り上げられるのはこれからだと思う。ただし残念ながら(大手が関与する)日本映画についてはさほど期待出来ない。シビアな現実社会から目を背けて毒にも薬にもならないような微温的展開に終始している今の邦画にとって、真実を鋭く抉った見応えのある作品を提供するのは無理だ。ヘタすれば震災をネタにした“お涙頂戴劇”を何本か製作して終わるかもしれない。

 で、当然のことながら私が選出した10本の日本映画は大半が単館系である。ぬるま湯的な作劇が目立つ大半のメジャー系作品(その多くはテレビ局とのタイアップ)には用はないというのが正直なところだ。

 なお、以下の通り各賞も選んでみた。まずは邦画の部。

監督:園子温(冷たい熱帯魚)
脚本:瀬々敬久(ヘヴンズ ストーリー)
主演男優:豊川悦司(一枚のハガキ)
主演女優:神楽坂恵(恋の罪)
助演男優:でんでん(冷たい熱帯魚)
助演女優:山口紗弥加(ラーメン侍)
音楽:岩崎太整(モテキ)
撮影:藤澤順一(八日目の蝉)
新人:寉岡萌希(ヘヴンズ ストーリー)、大野いと(高校デビュー)、深田晃司監督(歓待)

次に洋画の部。

監督:ミヒャエル・ハネケ(白いリボン)
脚本:アッバス・キアロスタミ(トスカーナの贋作)
主演男優:ハビエル・バルデム(BIUTIFUL ビューティフル)
主演女優:ジェニファー・ローレンス(ウィンターズ・ボーン)
助演男優:ジェフリー・ラッシュ(英国王のスピーチ)
助演女優:ミラ・クニス(ブラック・スワン)
音楽:トレント・レズナー(ソーシャル・ネットワーク)
撮影:クリスティアン・ベルガー(白いリボン)
新人:ヘイリー・スタインフェルド(トゥルー・グリット)、ヘンリー・ホッパー(永遠の僕たち)、ジェイ・ブレイクソン監督(アリス・クリードの失踪)

 さて、以下はついでに選んだワーストテンである(笑)。

邦画ワースト

1.白夜行
 吹けば飛ぶような軽い作劇と、弛緩したドラマ運びには呆れるばかり。原作も大して面白くはないが、ここまではヒドくない。
2.日輪の遺産
3.コクリコ坂から
 スタジオジブリはすでに“終わって”いる。誰が監督しても同じこと。
4.あぜ道のダンディ
5.神様のカルテ
6.タンシング・チャップリン
 日本映画はバレエをキッチリと撮れないのか・・・・。
7.これでいいのだ!! 映画★赤塚不二夫
8.電人ザボーガー
9.ワイルド7
10.デンデラ

洋画ワースト

1.ツリー・オブ・ライフ
 ここ10年間観た映画の中では一番つまらない。とにかく作者の思慮の浅さが全面開示しており、加えてチラチラと目障りな映像処理が不愉快な気分を増幅させる。観ている間はまさに悪夢。
2.ゴーストライター
3.ブンミおじさんの森
4.SOMEWHERE
5.悲しみのミルク
6.蜂蜜
 以上、有名映画祭で賞を取ったからといって、優れた映画とは限らないことを如実に示している作品群である。
7.ラビット・ホール
8.ミスター・ノーバディ
9.キラー・インサイド・ミー
 この3本を観ると、中途半端な“作家性”を娯楽映画のスキームの中で発揮すると、愉快ならざる事態に陥ることが実によく分かる。
10.マイティ・ソー
 別にこの作品が特別に低レベルだったわけではない。有象無象の大味なハリウッド製大作を代表してランクインさせた次第である。

 地元ネタとしては、2011年には新しい博多駅ビルにシネコンがオープンしたが、ミニシアター系が相次いで閉館したことを挙げたい。結果として福岡市での全体的な上映本数が減ってくるのは仕方がないだろう(ソラリアシネマはTOHOシネマズ天神ソラリア館として再開するが、番組編成については期待できない)。

 ミニ・シアターが冬の時代を迎え、ショッピングモールに併設されたシネコン一辺倒になってくると、大衆レベルでの映画の見方も変わってくるのだろう。
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「ミッション:インポッシブル ゴースト・プロトコル」

2011-12-30 19:27:11 | 映画の感想(ま行)

 (原題:Mission:Impossible - Ghost Protocol )今回4作目となった本シリーズの中では一番面白い。もっとも今までの3作があまり上等ではなかったので、そこは割り引いてみる必要はあるが(笑)、それでも楽しめる映画であることは確かだ。何よりスパイ・アクションの王道を歩んでいるのが嬉しい。

 本作でイーサン・ハント達と敵対するのは、堕落した世界を一度“清算”させるために最終戦争を起こそうとしている狂信的な一派だ。実際にはいくら原理的なテロリストだろうと、自分たちだけは無事でいることを最初に考慮するはずで、本作に出てくるような真に破滅主義的な過激分子なんか存在するはずもない。しかし、荒唐無稽な筋書きを堂々とデッチ上げるためには、これぐらい極端な敵キャラの設定がふさわしいのだ。

 しかも、敵味方入り乱れてドタバタとやっているわりには、争奪戦の対象が核ミサイルの制御コードという、実に古風かつ在り来たりのシロモノである点も注目したい。つまりこれは、最初から“浮き世離れした与太話なのですよ”というエクスキューズを表看板に掲げていて、シチュエーションに対する突っ込みを排除しているのだ。

 これは昔のジェームズ・ボンド映画と同等の方法論であり、ヘンにリアリズム路線に色目を使って往年のファンを落胆させている(と思われる)最近の007シリーズに代わり、そのポジションを見事にゲットしたような存在感を獲得している。世界を股に掛ける多彩な舞台設定や、次から次へと繰り出される新兵器・珍兵器の数々も楽しい。

 実写映画はこれが初めてとなるブラッド・バードの演出は足腰が強くて長い上映時間を飽きさせない。活劇シーンはかなりよく考えられており、予告編でもフィーチャーされていたドバイの超高層ビル“ブルジュ・ハリファ”でのスタントをはじめ、砂嵐の中での手に汗握るチェイス、そしてクライマックスでの駐車場での格闘場面など、段取りとアイデアは特筆ものである。

 主演のトム・クルーズは演技の基本パターンはいつも通りだが(爆)、今回はフィジカル面でのアピール度が高く、結構盛り上がる。ヒロイン役のポーラ・パットンも相変わらずキレイだし、コメディ・リリーフ担当のサイモン・ペグや強面部門のジェレミー・レナーも的確な役どころだ。

 ハントは前作で結婚したはずが早々と彼女と別れてしまっているが、この伏線がラストの処理で効いている。お気楽な活劇編のようでプロットは意外と作り込まれており、その点でも感心。とにかく正月番組にふさわしい賑々しさと水準をクリアする質を確保した良作で、観る価値は大いにある。
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「レクイエム・フォー・ドリーム」

2011-12-29 07:13:00 | 映画の感想(ら行)

 (原題:Requiem for a Dream )2000年作品。コニー・アイランドの寂れた街を舞台に、4人の男女が破滅していく様子を描く。近作「ブラック・スワン」でその異能ぶりが久々に炸裂したダーレン・アロノフスキー監督だが、彼の最高作はこの映画だろう。

 私はこの前作「π(パイ)」は観ていないが、少なくとも彼はガイ・リッチーだのウォシャウスキー兄弟だのといった“なんちゃって映像派”(謎)とは一線を画す、かなりの力量の持ち主だ。とにかく映像ギミックがまったく“浮いて”いない。どれも登場人物の苦悩や狂気に裏打ちされており、文字通り悪夢的な効果をもたらす。

 映画の主題は孤独への恐怖であることは言うまでもないが、弱い人間にとってはそれをカバーするのが食べ物や麻薬ぐらいしかないという達観、そしてそれを容赦なく描ききる覚悟には目を見張る思い。圧巻は終盤の主人公たち4人が味わうそれぞれの“地獄”を平行して細かいカットバックで畳みかけるシークエンス。絶妙な映像効果もあって、観る者を奈落の底に叩き込むようなパワーが充満している。

 俳優達が素晴らしい。自己破壊の欲求を隠そうともしないジャンキー役のジャレッド・レト、クスリ欲しさに身体を売る若い女に扮するジェニファー・コネリー、犯罪に身を染めた自己嫌悪に陥っていく男を演じるマーロン・ウェイアンズ、そして笑いながら狂っていくエレン・バーステインの演技はド迫力だ。彼女は本作でアカデミー賞候補になったが、その時に主演女優賞を獲得したジュリア・ロバーツよりも演技のヴォルテージは高い。

 クリント・マンセルwithクロノス四重奏団による音楽も強烈。一点の救いもない筋書きながら不思議と後味が良いのは、素材に迫りながらも安易なケレンにだけは走らない作者の冷徹なスタンスゆえだろう。とにかく必見だ。
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「ワイルド7」

2011-12-28 06:32:56 | 映画の感想(わ行)

 劇中に登場する公安調査庁情報機関(PSU)の本部が福岡市博物館になっていたのには吹き出してしまったが、それ以外には別に特筆すべき点もあまり見当たらない、低調な活劇編と言って良いだろう。60年代末から70年代にかけて少年誌に連載されていた望月三起也の同名漫画の映画化。原作は読んだことはないが、個人的には72年ごろに製作されたテレビドラマを何回か見た記憶がある。

 警視庁内に設置された、超法規的存在として悪人を問答無用で始末する7人の元アウトロー集団の“活躍”を描くものだが、こいつらの所行が犯人を見つけ次第に射殺あるいは殴る蹴るのリンチに遭わせるという無茶苦茶なもので、マジに呆れてしまったことを覚えている。さらに番組のラストに“バイクは正しく乗りましょう”というテロップが流れるに及んで、失笑してしまった。

 さて、この映画版での敵役はバイオテロを企てる犯罪者集団だが、飛行船に時限装置を載せて首都上空に侵入するという大がかりな段取りにも関わらず、緊張感のカケラも無い。犯人グループはすぐに特定されてワイルド7の面々が追い詰めるのだが、こいつらの多くが黒っぽい服装にサングラスという絵に描いたような悪党の風体であるのには脱力する。

 さらにワイルド7より先に標的を始末する謎のバイカーも出現するのだが、バイクに乗りながらも百発百中の射撃の腕を有しているわりには、どこでどうやってその技量を会得したのか全く不明。7人のメンバーの紹介も、主人公の飛葉以外はごくあっさりと触れるのみだ。各人得意技があるはずだが、それを大いに活かす機会もほとんどない。もちろん7人が力を合わせて任務に当たる動機付けなんて、スッポリと抜け落ちている。

 ならば肝心のアクションシーンはどうかというと、これも大したことはない。確かに、大型トレーラーから7台のバイクが飛び出す冒頭近く及び終盤付近の描写は見応えがあるが、他には何も目立ったところは見当たらない。ただのドンパチが延々と続くのみ。

 監督の羽住英一郎の腕は相変わらず凡庸で、深みのあるキャラクターが一人として存在しない。瑛太や椎名桔平ら出演者の多くが撮影のために大型バイクの免許を取得したらしいが、まあ“ご苦労さん”としか言いようがない。唯一印象に残ったのが、ヒロインを演じる深田恭子。今まで出演した映画の中では、間違いなく一番魅力的に撮られている。もっとも、それは絵柄的に目立っているだけの話で、映画のキャラクターとして練り上げられていないのが残念だ。
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ソラリアシネマが閉館。

2011-12-27 06:32:56 | 映画周辺のネタ

 2011年の11月末をもって、福岡市中央区天神にある映画館・ソラリアシネマが閉館した。同映画館は元々、スケート場などを備えたイベントスペース「福岡スポーツセンター」の中に1956年に開館した名画座「センターシネマ」の流れをくむ劇場だ。89年に「福岡スポーツセンター」の跡地に建てられた大型商業ビル「ソラリアプラザ」の中に、3スクリーンを擁してオープンした。

 ソラリアプラザ自体がホテルと合体したような建物であるせいか、ソラリアシネマの待合スペースはホテルのロビーを思わせる佇まいで、従来館ともシネコンとも違う雰囲気を醸し出していた。3つの劇場の中で一番大きいソラリアシネマ1はオープン当初はボディソニックを配備した客席も用意されるなど、他の映画館との差別化を図っていたようだ。上映される映画は東宝系のメジャーな作品が中心であった。

 また、ソラリアシネマ2はセンターシネマ時代を引き継いで名画座として運営され、ソラリアシネマ3は単館系作品と、それぞれが役割を振られていて機能的なマーケティングが特徴的だった。ソラリアシネマ1はアジアフォーカス福岡国際映画祭の会場としてもよく使われ、県外の映画ファンにも知られるところとなった。

 待ち合わせまでの空き時間やショッピング・食事の後に気軽に立ち寄れるスポットとしても利用されていたが、東宝系との契約が切れた近年はなかなか客を呼べそうな番組を組めなかったようだ。そして2011年に博多駅ビルの大々的リニューアルにより天神地区の集客力が落ち、特にソラリアプラザはその影響をもろに受けて入場者数が低減したことが撤退の呼び水になったと思われる。

 2011年にはシネ・リーブル博多駅が営業を停止し、その前にもミニシアターの閉館が相次いだせいで、福岡市全体での上映本数が少なくなっているような印象を受ける。特に今は正月番組のかき入れ時であるにも関わらず、観たい映画が驚くほど少ないのもそのせいであろう。

 なお、2012年1月には「TOHOシネマズ天神 ソラリア館」としてリニューアルオープンするらしいが、要するに近くにある天神東宝と合わせたシネコンを形成するということで、ソラリアシネマ時代のような多彩な番組編成はあまり期待できそうもない。だが、少しは昔の「センターシネマ」を想起させるような旧作の上映も検討してもらいたいものだ。またそうすることによって、他のシネコンにはない独自性と固定客を獲得できるはずである。
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「50/50 フィフティ・フィフティ」

2011-12-26 06:33:40 | 映画の感想(英数)

 (原題:50/50 )いわゆる“難病もの”を評価するスキームの中で“重苦しさや過度の愁嘆場を抑えており、明るさも感じられる”といった言い方をする場合があり、実際にそのような映画もいくつか存在するのだが、本当の意味での“明るくて面白おかしい闘病映画”というのは本作が初めてではないだろうか。その点だけでも観る価値はある。

 シアトルのラジオ局に勤めている27歳のアダムは、以前より腰痛と原因不明の寝汗に悩まされていた。医者に行くと、何と背骨にガンが発生していることを告げられる。しかもこのガンは罹患例が少ない特殊なシロモノで、生存率は50%だという。さらにもしも他の箇所に転移していれば10%になってしまう。

 だが同僚で親友のカイルは“50%というのは悪くない。カジノだったら大勝間違いなしだ!”と微妙な言い方で励ましてくれた。さらにカイルはアダムを伴って夜遊びに繰り出し、相方がガン患者であることをダシにして、女の子を引っかけようとする。また、医者に勧められてセラピストの元に足を運ぶと、そこでは自分より若い駆け出しの女性カウンセラーがぎこちなく相手をしてくれるので面食らってしまう。さらに、同じ病院に通うガン患者たちとも仲良くなった。病気になったことで思いがけず人間関係が多彩になるという、なかなか玄妙な立場を描いているのは実に面白い。

 この映画はシナリオを手掛けたウィル・レイサーの経験を元にしているという。劇中で大きいのはカイルの存在だろう。逆境を笑い飛ばし、いい加減のようでいて実は主人公のことを思いやっている。カイルに扮するセス・ローゲンは実際にレイサーの僚友として彼を支えており、このキャラクター設定はなかなか興味深い。

 セラピストに若い女の子を持ってきたのも正解で、ベテランらしい大所高所からのアドバイスはない代わりに、主人公と同じ目線で人生を見つめ直すという“同志”的な連帯感を醸し出しており、観ていて納得出来る。

 また、認知症気味の父と献身的な母のやりとりは、おかしいのだが泣かせる。アダムがいかに親に愛されて育ってきたか、しみじみと伝わってくる。闘病は厳しいが、窮地に追いやられることで見えてくる何かがある。

 主人公の一種の“成長”を綴る青春映画でもある。主演のジョセフ・ゴードン=レヴィットはナイーヴな草食系に見えるが、なかなか気合いの入った演技を見せる。ヒロイン役のアナ・ケンドリックも小生意気かつキュートな魅力を発揮。母親役のアンジェリカ・ヒューストンの貫禄もさすがだ。ジョナサン・レヴィンの演出は淀みの無いスムーズなもので、余計なケレン味を廃した丁寧な作劇は好感が持てる。興趣の尽きない佳編であり、鑑賞後の印象も良好だ。
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KEFの新型スピーカーを試聴した。

2011-12-25 06:44:53 | プア・オーディオへの招待
 英国のスピーカーメーカー、KEFの新製品の試聴会に行ってみた。KEFといえば以前私がサブ・システム用に使っていたモデル(iQ3)も同社の製品である。KEFは1961年にロンドン南東のケント州に設立された会社で、かなり早い時期から日本に紹介されていたが、幅広く認知されるようになったのはUni-Qと呼ばれる同軸ユニットを搭載したリーズナブルな価格帯の製品をリリースするようになった10年ほど前からだと思う。

 今回は新たなコンシューマ用の上位ラインナップ“Rシリーズ”の中のR900と、ハイエンド機の“Blade”を聴くことが出来た。まずR900だが、メタル製のUni-Qドライバーを中高音用として配備し、低音用として20cmウーファーを2発取り付けた“Rシリーズ”の最上級機のフロアスタンディング型だ。なお、試聴会で使われたアンプはヴォリュームと入力切り替えをつかさどるプリアンプが国産ニューカマーのALLIONの製品、スピーカーを駆動するメインアンプが米国PASS社のものである。音源はTEACの高級機ブランドであるESOTERICのセパレート型CDプレーヤーと、SONYのノート型パソコンからデジタル出力されたものが起用されていた。



 聴いた瞬間に“おおっ、これは”と思わせる、左右に現出する広大な音場とその中から聴き手に一直線に飛んでくる音像が、スリリングな展開を見せるスピーカーだ。しかも、音色自体は明るく中高域のキメの細かさもある。確固とした質感に裏打ちされたスペクタクル性は、どんなジャンルでも楽しく聴かせそうだ。

 昔のKEFは英国の伝統(?)を踏襲したような柔らかさと滑らかさが身上の、どちらかといえばクラシック・ファン御用達みたいな感じがあったが、この“Rシリーズ”では完全に新しい領域に踏み出したような印象を受ける。聞けばチーフエンジニアが若手に世代交代したとかで、より広範囲なユーザーを獲得していこうという、攻めのマーケティングが窺える。価格はペア40万円程度だが、この音を勘案すると間違いなくコストパフォーマンスは高い。今回聴けたのはR900だけだが、下位のコンパクトなモデルも機会があれば聴いてみたいものだ。

 次に聴いたのが“Blade”だが、これはペアで300万円という高額商品。KEF発足50周年記念のフラッグシップ・モデルである。高さが160cmほどで重さも一本60kg近い。中高音用のUni-Qドライバーと、低域用ウーファーを2つずつ背中合わせにしたユニットを2基装備。計4つのウーファーを配置している。デザインは先鋭的で、現代美術のオブジェのようだ。



 音には期待したが、残念ながら試聴した印象はイマイチだった。前に鳴らしていたのR900に比べるとスケール感こそ大幅に増すが、分解能に難があり特に中低域の音のキレが鈍い。原因は明白で、試聴ルームが狭すぎるからだ。低音を左右に展開させる構造の本機は、もっと大きなリスニングルームが必要。しかも、同じ部屋に他メーカーの大型スピーカーも近接して置かれており、それらが共振して音を濁らせる懸念もある。もっと広々とした場所で聴きたかった。

 とはいえ、普段はなかなか聴けないモデルとじっくり向き合えたという意味で、今回の試聴会は有意義だった。新しい“Rシリーズ”は次なるヒット作になる予感がする。設置には広いスペースが必要なリア・バスレフ式のスピーカーなので個人的には導入は難しいが、ある程度大きなリスニングルームを用意できるユーザーにとってはベストバイの一つになる商品だろう。
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「カンパニー・メン」

2011-12-17 06:28:58 | 映画の感想(か行)

 (原題:The Company Men )現代アメリカ社会の一局面を描いたという意味では出色の映画だ。しかも単に事象を並べるのではなく、ストーリーはよく考えられており、登場人物にも血が通っている。良くできた群像劇だと思う。

 ボストンにある総合メーカーに勤めるボビーは30代後半にして販売部長のポストに就き、12万ドルもの年収を得ていた。ところがある日、事業部合併による余剰人員整理のためあっさりとリストラされてしまう。彼は再就職先を探すが、困ったことにプライドを捨てきれない。それなりの高給与と役職を用意してくれそうな会社ばかりを回った挙げ句に、全て断られてしまう。

 生活が段々と逼迫してくるが、それでもゴルフの会員権や高級外車を手放そうとしない。一方で妻と子供達の方が、しっかりと現実を見据えているのは皮肉だ。このボビーのエピソードだけならば単に“脳天気なエリートの挫折”という話で終わっていたはずだが、映画はさらに切迫の度を強めていく。ボビーの上司でもあった事業部長やその盟友の重役もクビになってしまうのだ。

 特に会社が町工場だった頃から現社長と一緒に事業を大きくしていった役員でさえ、無慈悲に切り捨ててしまう暴挙には怒りさえ感じてしまう。それに対して“会社にとって大事なのは、従業員ではなく株主だ!”と断言してしまう社長の夜郎自大ぶりには驚くしかない。

 これはフィクションの世界の出来事ではなく、リーマン・ショック後の切羽詰まったアメリカのビジネス界では日常茶飯事なのだ。主人公達が勤めていた会社は製造業である。昔は産業界の花形であったこの業界は、アメリカにおいては完全に空洞化し、今や投資グループの“草刈り場”になってしまった感がある。だから社長が提唱するリストラ策にも幾ばくかの“理”はあるのだ。

 しかし、昔から会社を支えてきた人材に対して簡単に引導を渡してしまう遣り口は、決して誉められるものではない。しかも、経営状態が大して良くないのに新しい巨大自社ビルの建設を押し進めるあたり、人の道を外れてしまったような印象を受ける。

 主演のベン・アフレックは好調。人は良いが周囲が見えていない“温室育ちのエリート”を上手く演じていた。解雇された重役に扮したクリス・クーパーとトミー・リー・ジョーンズはさすがの貫禄で、このトシになって直面する人生の悲哀を渋味たっぷりに表現。そして、ボビーの妻の兄で彼を一時期雇い入れる工務店の店主を演じたケヴィン・コスナーがめっぽう良い。彼も年を取って体型も変わり、要所を押さえるバイプレーヤーとしての手堅さが出てきたのは嬉しい。

 終盤ボビー達は巻き返しを図るが、それが上手くいく保証はどこにもない。世にはびこる拝金的な強欲資本主義を打倒しなければ、アメリカ国民にとって真の夜明けは訪れないのだ。
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「メトロポリス」

2011-12-16 06:28:23 | 映画の感想(ま行)
 2001年製作のアニメーション。手塚治虫の名作をりんたろうがメガホンを取って映画化という、期待せずにはいられない前振りにもかかわらず、実につまらない出来だ。

 近未来を舞台に、人間とロボットが共存する巨大都市国家メトロポリスをめぐる陰謀を描く本作、とにかく“ロボットの反乱”や“これ見よがしの未来都市”なんて「ブレードランナー」以後の現在では陳腐でしかない。おまけに演出はタルいし人物描写も薄っぺらなので“単純SF活劇”としても楽しめない。

 一番の敗因は大友克洋に脚色させたことだ。大した内容でもないのにもったいぶった語り口でドラマを盛り下げることに貢献している。特に、地下世界への“エレベーター”の描写なんて「アキラ」(原作漫画)の二次使用で、見ていて脱力した。
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「密告・者」

2011-12-15 06:38:10 | 映画の感想(ま行)

 (原題:綫人 The Stool Pigeon)見応えのあるフィルム・ノワールだ。警察が犯罪組織にスパイを送り込むという設定はいわゆる“覆面捜査もの”に分類されるが、本作の場合そのスパイが悪者に成りすました警官ではなく、れっきとした犯罪者であることが目新しい。

 当然それは合法的な捜査方法ではなく、イレギュラーなものである。だからそのスパイのプロフィールは、覆面捜査を画策した警察側の一人(あるいは数人)しか知らない。このパターンは「インファナル・アフェア」でも踏襲されていたが、今回は非公式な捜査だから事態は一層シビアだ。もちろん、スパイが敵に勘付かれて消されても当局側は一切関知しない。

 香港警察の捜査官であるドンは、この綱渡り的な“覆面捜査”によって数々の難事件を解決してきた。彼の新しいターゲットは、宝石強盗のバーバイの一味だ。ドンは刑務所から出所してきたサイグァイという若い男を、スパイとしてバーバイのもとに潜入させようとする。サイグァイには借金のカタとして娼婦として働かされている妹がいる。彼はこの借金を返さねばならない事情があり、ドンは高額な報酬をエサにサイグァイを自分の協力者に仕立て上げる。

 精密機械のように作り込まれた「インファナル・アフェア」には及ばないが、本作は警察側の当事者をも丹念に描くことによって、独自のドラマツルギーの手厚さを獲得している。ドンはかつてスパイに使った男に自身の不注意によって重症を負わせてしまった負い目があり、映画は彼がこの重いトラウマを乗り越えるプロセスも大きく挿入される。

 ダンテ・ラムの演出は荒っぽい部分もあるが、ドラマ展開はダイナミックだ。中盤のカーアクションも悪くはないが、最大の売り物は終盤の廃校での格闘シーンである。山と積まれた机と椅子の中で、登場人物達は藻掻くようにして死闘を繰り広げる。即物的なカメラワークも相まって、迫力は相当なものだ。この場面だけでも十分に入場料のモトは取れる。

 サイグァイを演じるのはニコラス・ツェーで、ドンに扮するのはジョニー・トー作品でお馴染みのニック・チョンだ。どちらもかなりの力演だが、特に警官の矜持がありながらも逼迫した状況の下で暴走を続ける複雑な人物像を表現していたニック・チョンのパフォーマンスには感心した。

 また、バーバイの愛人ディーを台湾人女優グイ・ルンメイが演じているが、過去の「藍色夏恋」や「台北カフェ・ストーリー」などにおける“癒し系”のテイストをかなぐり捨てたような汚れ役にチャレンジしていて、こちらも圧巻。観て損はしない香港製サスペンス劇の佳作である。
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