元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「エグザイル/絆」

2009-02-12 06:24:31 | 映画の感想(あ行)

 (原題:放・逐 EXILED )キネマ旬報の2008年度ベストテンにもランクインしている評判の香港映画だが、私にはさほど出来の良いシャシンとは思えない。これはひとえに脚本無しで撮影が進められたことが関係しているのだろう。筋書きがどうなるのか、出演者がそれを知らなければ、どのような方向性で演技を積み上げればいいのか皆目分からない。

 もちろん、シナリオ抜きで場当たり的に撮っていく手法も場合によっては有り得る。ただそれは、ストーリー自体も即物的であるケースに限られる。キャストの“素”のリアクションがドキュメンタリー・タッチで活きるような無手勝流のシャシンでこそ、脚本を除外した撮り方が許されるのだ。しかし本作は典型的なノワール映画。活劇としての起承転結が一応は配置されたプログラム・ピクチュアとも言える性格の作品で、シナリオを提示せずにバタバタと撮影を進めることに意味があったとは思えない。事実、非常に不自然な作劇に終始し、観た後の余韻はひたすら希薄である。

 中国に返還される直前のマカオ。組織から逃げ出した若いやくざを追って、かつての仲間たち4人が彼の隠れ家の前に集結する。当然、彼ら5人の過去の確執やら何やらが吹き出して一悶着あると思ったら、それっぽいポーズだけですぐさま“仲良しグループ”に変貌してしまう脳天気さにまず脱力。そしてロクな説明もないまま彼らは共同して香港マフィアのボスと敵対し、そしてマカオのギャングのボスにも対峙し、果ては金塊の輸送車襲撃という唐突なモチーフが現れるに及んで、作者はまともに物語を追うことすら放り出していることを実感できる。

 それでもアクション場面が優れているのならば多少のストーリーの破綻にも目をつぶるが、これがまた低調の極み。芸もなくパンパン撃ち合うだけで、魅せるための“呼吸”や“リズム”を工夫した形跡は全くない。それに弾丸が相手に当たるとパッと赤い霧みたいなものが飛び散るのだが、この映像処理は本当に安っぽい。何かの冗談かと思うほどだ。

 それではこの映画の見どころは何かというと、強いてあげれば“カッコつけ”だと思う。なるほどアンソニー・ウォンらが演じる登場人物達は必要以上に気取った所作を取るし、それはサマにもなっている。茶系を活かした透き通るような映像も効果的だ。でも、カッコだけでは面白くならない。カッコつけるばかりで中身はカラッポのシロモノを押しつけられた観客こそいい面の皮だ。ジョニー・トー監督作としても「ザ・ミッション/非情の掟」や「マッド探偵(ディテクティブ)」より数段落ちる。どうしてこの映画が評論家連中にウケが良いのか、さっばり分からない。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする