元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「国葬の日」

2023-10-30 06:15:07 | 映画の感想(か行)
 ドキュメンタリー映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」(2020年)と「香川1区」(2021年)で斬新な視点とキレの良い語り口を見せた大島新監督作にしては、いささか薄味な内容だ。もちろん本作は過去の2本とは異なり、明確な題材と切り口を提示しているわけではない。だから印象が散漫になるのも無理はないのだが、そもそも散漫になるようなネタとアプローチを採用したこと自体が不適当だと言える。

 2022年9月27日、同年7月8日に凶弾に倒れた安倍晋三元首相の国葬が東京の日本武道館で執り行われた。映画は、当日に東京や安倍晋三の選挙区である下関市、銃撃事件が起こった奈良市、そして京都、福島、札幌、広島、長崎、静岡、沖縄の計10拠点で取材を敢行し、国葬や安倍元首相に関する市井の人々の思いを描いている。ただし対象の捉え方がスケッチ風であり、観ていて骨太な求心力を感じることはない。



 国葬についての意見や所感は、当然のことながら人それぞれである。しかし、それらを並べるだけでは映画は成り立たない。これではいけないと思ったのか、福島では原発に関する問題や、沖縄では辺野古への普天間基地移設の一件を取り上げている。広島と長崎については。原爆投下地としての側面を表に出そうとしているの言うまでもない。だが、そうすることによって印象付けられるのは、作者のリベラル的スタンスのみだ。それも、曖昧で決定力には欠ける。

 かといって、安倍元首相という人物像が浮かび上がるという仕掛けも無い。第一、監督は当日はひとつのスポットにしか行けない。あとは別のスタッフに任せるしか無いのだが、そのあたりの事情も関係しているのだろう。救いは上映時間が88分と短いことで、この調子で2時間以上も続けられるとさすがに辛いものがある。

 さて、本来この国葬を映画のモチーフとして採用するのならば、2つの論点を集中的に攻めるべきであった。それはまず、世論調査では国葬に反対する声が多かったこと、そして国葬の開催には法的根拠が存在しないことである。前者は民意の無視というデモクラシーの根幹に関わる重大イシューであるし、後者は法治国家の成立意義にまで影響する一大事なのだ。これらを取り上げれば、主題の掘り下げが大いに進みインパクトが高まったはず。いずれにしろ、製作サイドの視点のパラダイムシフトが望まれるところだ。
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「カレとカノジョの確率」

2023-10-29 06:08:18 | 映画の感想(か行)

 (原題:LOVE AT FIRST SIGHT )2023年9月よりNetflixから配信されているラブストーリー。そんなに褒めあげるような出来ではないのだが、なかなかチャーミングな作品で観て損はしないと思った。語り口のユニークさはもとより、キャラクター設定がよく考えられているのは評価したい。上映時間も91分とコンパクトで、物足りないと感じる前にエンドマークを迎えるのは有難い(笑)。

 ロンドンに住む父親の二度目の結婚式に出席するため、ニューヨークから英国行きの飛行機に搭乗しようとしたハドリー・サリヴァンは、遅刻のため後発の便に乗り込むことになる。その隣の席に座ったのが、空港で偶然知り合ったオリバー・ジョーンズという若い男。2人は良い雰囲気になり降機後にまた会おうと約束するが、運命のいたずらにより連絡が取れなくなる。ジェニファー・E・スミスによる恋愛小説の映画化だ。

 家を出た実母に対する思いと、新しい伴侶を得た父親への複雑な感情に翻弄されるハドリーの描写は悪くないが、オリバーの造形が面白い。彼はサプライズな出来事が大嫌いで、すべてを“確率論”で片付けようとする。そのため、大学院で数学を極めようとしているほどだ。しかも、“ナレーター”役の登場人物が所かまわず現れて“この局面でこういう行動が取られる確率は○○%”みたいな説明をしてくれるのだから苦笑するしかない。

 だが、本当はオリバーも“世の中、予想も出来ないことばかりだ”と内心思っている。彼がロンドンに赴いたのは、難病で余命いくばくもない母親テッサの“生前葬”に出席するためだ。オリバーはテッサの“余命”に関する確率をあれこれ考えるが、人生というのは計算ずくで推し量れるものではない。そんな本当のことに向き合っていく彼の心の動きを追うプロセスは、けっこう納得できる。すれ違いを続けるハドリーとオリバーのアバンチュールを綴るストーリーは予想通りで、何ら新味はない。エンディングも型通りだ。しかし、作品の性格上これで良いと思う。

 ヴァネッサ・キャスウィルの演出は派手さはないものの、ドラマ運びはスムーズである。主演のヘイリー・ルー・リチャードソンとベン・ハーディは初めて見る俳優ながら、共に嫌味の無い好演だ。ジャミーラ・ジャミルにロブ・ディレイニー、サリー・フィリップス、カトリーナ・ナレといった脇の顔ぶれも的確な仕事をしている。そして何より、ルーク・ブライアントのカメラによるクリスマス時期のロンドンの風景は本当に美しく、観光気分が存分に味わえる。
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「BAD LANDS バッド・ランズ」

2023-10-28 06:08:03 | 映画の感想(英数)
 さっぱり面白くない。もとより原田眞人監督はアイドル方面(特に旧ジャニーズ界隈)とは相性が悪いことは承知している。しかし本作の実質的な主演は安藤サクラだし、原作は未読だが一応直木賞作家の黒川博行の手によるものだし、それほど酷い結果にはならないだろうと予想したが、甘かった。鑑賞後に気付いたのだが、製作者陣に“あの人”が名を連ねており、さもありなんという感じだ。

 大阪の西成地区に住む橋岡煉梨(通称ネリ)は、ボスの高城政司の下で特殊詐欺の片棒を担いでいた。ある日、血の繋がらない弟の矢代穣(通称ジョー)が出所してくる。彼は姉のために殺人に手を染め、長らく服役していたのだ。ネリはジョーのために仕事を世話しようとするが、そんな中、ジョーは入り込んだ賭場で数百万円の借金を作ってしまう。金策に奔走する姉弟だったが、成り行きで逆に数億円の大金を入手する資格を得る。ところが、金融機関から金を引き出すにはいくつものハードルを越えなければならない。しかも、カネの匂いを嗅ぎつけた悪党どもや警察が2人をマークするようになる。



 黒川博行の小説「勁草(けいそう)」の映画化。登場人物の大半が早口で喋りまくるのはこの監督の作品では御馴染だが、今回は大阪弁(らしきもの)が大々的にフィーチャーされているため、何を言っているのよく分からない。ストーリーラインはさらに混迷を極めており、求心力の欠片もない。

 振り込め詐欺を題材にしているので、その巧妙な手口が紹介されるのかと思ったらそうでもない。姉弟の過去の因縁がエモーショナルに展開されるのかと予想するも、サッと流すのみだ。だいたい、いまどき丁半博打が行われているスポットなんか存在しないだろうし(オンラインカジノならばまだ説得力はある)、高城のバックに控えている暗黒街の大物とやらの造形も“いつの時代の話だ”と突っ込みたくなるレベル。

 ネリとジョーの行状は少しもスリリングではなく、行き当たりばったりに暴れるだけ。それを追う警察の描写に至っては、手抜きも良いところだ。ラストの扱いは茶番の極みで、観る者をバカにしている。しかもこれが2時間20分を超える長尺なのだから閉口するしかない。

 安藤サクラは本作ではツッパリのねーちゃんの域を出ず、旧ジャニーズ所属の山田涼介は頑張ってはいるのだろうが、内面から崩れたようなヤバさが醸し出されることは無い。生瀬勝久に吉原光夫、大場泰正、江口のりこ、宇崎竜童といった顔ぶれもパッとせず、天童よしみの登場なんてギャグとしか思えない。それから岡田准一がゲスト扱いで出てくるのだが、どうも“あの人”に関係したキャスティングのようで、盛り下がるばかりだった。
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「ご存知!ふんどし頭巾」

2023-10-27 06:09:21 | 映画の感想(か行)
 97年作品。先日、財津一郎の訃報を聞いて思い出したのがこの映画。彼はお笑い番組やCMでお馴染みの顔だったが、映画俳優としても実績を積んでいた。とはいえ、私は時代的な関係で実際にスクリーン上でお目に掛かった機会は少ない。その中でも本作は(主演ではないのだが)かなり大きなインパクトを感じた一本だ。映画の出来自体も決して悪くはない。

 大手繊維メーカーに勤める帆立沢小鉄は、あまりにお人好しの性格のため、職場でも家庭でも軽く見られている。実は彼の亡き父は怪獣のぬいぐるみ役者で、不安定な生活を送っていた。小鉄は父のヤクザな人生を嫌い、平穏無事な生き方に甘んじていたのだ。ある日、小鉄はパンツマンと名乗る正義の味方と遭遇する。



 チンピラに絡まれた女性を助けるその勇姿に感動した小鉄だが、後日事故で世を去ったパンツマンの思いを受け継ぎ、父の遺品であるふんどしを被って、ふんどし頭巾を名乗り密かに人助けに勤しむことになる。一方、小鉄の勤務先は汚職事件が頻発し、彼も巻き込まれそうになる。小鉄はクビを覚悟でふんどし頭巾に変身し、不正に敢然と立ち向かう。

 企画と原作は秋元康の手によるものなので観る前は若干の危惧はあったのだが(苦笑)、遠藤察男による脚本が及第点に達しており、ドラマ運びに無理がない。主人公がどうして冴えない生活を送っていたのか、それがなぜヒーローとして覚醒したのか、その段取りが上手く紹介されている。敵役がどこかの犯罪組織なんかではなく、勤務先に関係した小悪党どもだというのも身の丈に合った設定だ。

 小松隆志の演出はスムーズで、挿入されているギャグの数々も鮮やかに決まる。財津一郎は悪玉の一人である高級官僚に扮しているのだが、これがもう最高だ。ひたすら強欲でスケベでありながら愛嬌があって憎めない。財津の持ちネタも大々的にフィーチャーされ、お約束ながら笑いを呼び込む。主演の内藤剛志の小市民ぶりも的確だし、坂井真紀に菅野美穂、蛭子能収、石井苗子、岸部一徳、大杉漣、吹越満、寺田農など脇の面子も粒揃い。大立ち回りの末に主人公が選んだ生き方は感慨深く、鑑賞後の印象は良好だ。

 なお、この映画は当時松竹が展開していたプロジェクトであるシネマジャパネスクの一環として作られている。仕掛け人は名物プロデューサーだった奥山和由で、意欲的な作品を少なからず世に出したのだが、興行成績が低調であったことから98年に奥山は失脚。この試みも終焉を迎えた。もしもあのまま継続していたら、もっと数多くの面白い日本映画に出会えたのかもしれない。
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「熊は、いない」

2023-10-23 06:12:06 | 映画の感想(か行)
 (原題:KHERS NIST)社会派サスペンスとしてハードな題材を扱いながら、そこに映画的な仕掛けを巧妙に組み入れてゆく。まさに一流の作家の仕事であり、鑑賞後の満足感はとても大きい。2022年の第79回ヴェネツィア国際映画祭において審査委員特別賞を獲得した、イラン発の野心作だ。似たような構造のアッバス・キアロスタミ監督の傑作「クローズ・アップ」(91年)に匹敵するほどのヴォルテージの高さである。

 監督ジャファル・パナヒは、トルコとの国境近くの小さな村からリモートで映画を撮っている。彼が取り組んでいるのは、偽造パスポートを使って国外逃亡しようとしている若い男女を主人公にしたメロドラマである。彼はパソコンの画面から現場のスタッフとキャストに指示を出して製作を進めていくが、良好とはいえない通信環境および現場との意思疎通の不全により、撮影の進捗状況は芳しくない。そんな中、彼は滞在先で道ならぬ恋に走ったカップルをめぐる騒動に巻き込まれ、難しい対応を迫られる。



 パナヒ監督自身が主人公として出演しているが、これは単に奇を衒ったポーズではない。彼は実際にイラン政府から目を付けられており、街中で堂々と仕事をするわけにはいかないのだ。村での生活は彼にとって一種の“疎開”であるが、閉塞的な抑圧状態はそんな辺境のコミュニティにも及んでいる。パナヒはやがてサスペンス映画の登場人物のような振る舞いを余儀なくされ、頑迷な村のシステムと対峙してゆく。

 一方、彼が作成しているドラマは、実はフィクションではなく本当に亡命を図っている者たちの現在進行形のドキュメンタリーであることが明らかになる。もちろん、この映画自体は実録ものではなくドラマにすぎない。ただし、その中には確実に作者自身の本当の境遇や葛藤が織り込まれている。国外への渡航を図る映画内映画の登場人物たちも、村の掟に逆らったために辛酸を嘗める若い男女も、現在彼の地では本当に起こっていることの象徴であろう。

 この二重三重の作劇の構成はスリリングで、全編目が離せない。ジャファルの息子であるパナー・パナヒは自身の監督デビュー作「君は行く先を知らない」(2021年)で同じくイラン国民の亡命をテーマとして採用しているが、父親に比べるとまだまだである。ジャファル自身をはじめ、ナセル・ハシェミにバヒド・モバセリ、バクティアール・パンジェイといった他のキャスト的確。ジャファルは本作の完成後に当局側に検挙されているが、印象的なラストは、この逆境においても映画を撮り続ける監督の決意を感じた。
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「バレリーナ」

2023-10-22 06:11:28 | 映画の感想(は行)
 (原題:BALLERINA )2023年10月よりNetflixから配信されている韓国製のアクション編。各キャラクターは“立って”おり、ドラマの流れもスムーズだが、設定上での説明不足の感がある。あまり饒舌になる必要は無いが、それでも最小限の御膳立てはあって然るべきだ。映像処理では見るべき面が多々あるだけに、もう少しシナリオを精査して欲しかった。

 かつて警護の仕事に携わり、腕っぷしの強い若い女子オクジュは、バレエダンサーだった親友のミニがいきなり自殺してしまい、ショックを受ける。ミニはオクジュあてにメッセージを残しており、チョイというヤクザな男から長年暴行を受けており、かたき討ちをして欲しいという。早速オクジュはチョイと接触するが、彼のバックにはドラッグを扱う大規模な犯罪シンジケートが控えていた。彼女は組織を丸ごと叩き潰すため、戦いに身を投じる。



 ヒロインはやたら強いが、プロフィールに関して言及されていないのは納得できない。たとえば元KCIAのエージェントとか、かつて傭兵だったとか、そういう経歴を暗示させても良いと思うのだが、実に残念だ。この点「イコライザー」や「トランスポーター」といったハリウッド製の活劇シリーズには一歩譲る。

 そして、これだけ大々的バトルが巻き起こっているのに警察・公安当局が出てこないのは噴飯ものである。敵の首魁にはもっと見せ場があった方が良かったし、唐突に“武器商人”が出てくるのも失笑するしかない。まあ、ギャグのつもりで挿入したのだろうが、バックグラウンドが紹介されていないので効果はイマイチだ。

 それでも、オクジュに扮するチョン・ジョンソの身体能力には瞠目させられる。チョイをはじめ敵方との立ち回りは、かなりの盛り上がりだ。彼女はイ・チャンドン監督の「バーニング 劇場版」(2018年)にも出ていたが、あまり良い印象は受けなかった。ところが本作では打って変わった好調ぶり。役柄さえマッチすれば、俳優の長所が引き出されることを痛感する。脚本も担当したイ・チュンヒョンの演出は荒削りだがスタイリッシュでスピード感があり、観る者をあまり退屈させない。特にラストのショットは印象的。キム・ジフンにパク・ユリム、シン・セフィといった他のキャストも申し分ない。
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「コンフィデンシャル 国際共助捜査」

2023-10-21 06:05:57 | 映画の感想(か行)
 (英題:CONFIDENTIAL ASSIGNMENT 2:INTERNATIONAL )前作「コンフィデンシャル 共助」(2017年)よりも面白い。とかく続編というものはヴォルテージが落ちるものだが、本作ではパート1とはまた違ったネタが次から次へと繰り出されており、最後まで飽きさせない。各キャラクターも十分に濃く、鑑賞後の満足感は大きい。

 犯罪組織のリーダーであるチャン・ミョンジュンがニューヨークで逮捕され、本国の北朝鮮に引き渡される運びになるが、途中で脱走。行方不明の10億ドルと共に韓国に潜伏し、南北高官会議を狙ってテロを仕掛ける。北朝鮮の捜査当局は刑事リム・チョルリョンを韓国に派遣するが、その相棒になるのが前回チョルリョンと組んでの大暴れで左遷されていたベテラン刑事カン・ジンテだ。加えてアメリカからFBI捜査官のジャックも韓国へやって来て、共にミョンジュンを追う。



 チョルリョンとジンテの掛け合いは前回を踏襲しており新味はないが、ここにジャックが加わることによって、ジンテの嫁と娘そして義妹のミニョンの興味がそっちに行ってしまうという玄妙な展開が楽しめる(笑)。また、捜査官3人のそれぞれの意図がまるで違い、皆それを隠して事に当たるのも面白い。

 ミョンジュンは単純な悪役としては設定されておらず、ある意味本当にあくどいのは別の者であったり、南北融和政策は建前でしかないという割り切りが挿入されるのは秀逸。アクション場面はとてもよく練られており、序盤のカーチェイスから中盤の銃撃戦、そしてクライマックスの格闘シーンと、手を変え品を変え楽しませてくれる。後半の活劇の段取りにおいて前半の伏線が回収されているのも感心する。

 前回に引き続いてメガホンを取ったイ・ソクフンの仕事ぶりは好調で、少々御都合主義的なモチーフが垣間見えるものの、淀みないストーリー運びの中に効果的なギャグを盛り込み、退屈するヒマがない。ヒョンビンとユ・ヘジンのコンビネーションは言うことなし。それにジャック役のダニエル・ヘニーが上手く絡んでくる。

 敵役のチン・ソンギュも存在感たっぷりだが、ミニョンに扮するイム・ユナ(少女時代)がめっぽう良い。品のあるコメディエンヌとして、これからも仕事が途切れることはなさそうだ。本国では前作に引き続いてヒットしているらしいが、三作目も製作してもらいたい。
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「成れの果て」

2023-10-20 06:13:58 | 映画の感想(な行)
 2021年作品。先日観た加藤拓也監督の「ほつれる」との共通点が多い。2本とも男女間の恋愛のもつれを題材にした舞台劇の映画化であり、上映時間が80分台と短い。そして何より、両者とも登場人物すべてが人間のクズであることが印象的だ。しかし、映画のクォリティは圧倒的にこの「成れの果て」の方が高い。作り手の力量により、似たようなネタを扱ってもこれだけの差が出るものなのだ。

 東京でファッションデザイナーの卵として暮らす河合小夜は、故郷で暮らす姉のあすみから近々結婚する旨の連絡を受ける。ところが、その相手は8年前に小夜を酷い目に遭わせた布施野光輝だった。思わず逆上した小夜は、男友達の野本エイゴを連れて帰郷する。事前連絡無しの小夜の出現に狼狽するあすみと光輝だったが、戸惑っているのは光輝の先輩である今井や、幼なじみの雅司、居候の弓枝も同様だった。そして事態は思わぬ方向へと転がってゆく。



 小夜が被った災難に関しては具体的に言及されていないし、そもそもあすみが過去に妹とトラブルを起こした男と一緒になろうとする明確で切迫した動機が分からない。しかし、本作ではそれが作劇上の瑕疵になっていない。事の真相を明かすことよりも、それに関わった者たちの言動を描くことによって、その一件の外道ぶりを観る者に想像させようというあくどい作戦だ(苦笑)。

 物語の中心である姉妹はもとより、光輝や今井(およびその恋人の絵里)、雅司に弓枝にエイゴに至るまで、見事なサイテーぶりを披露する。ただし、ダメ人間たちを漫然と映しただけの「ほつれる」とは違い、わくわくするような面白さを醸し出しているのは、登場する連中のダメさ加減の描写が尋常ではないからだ。

 何より、誰もが心の奥底に持っているであろう負の感情に共鳴してしまうことが秀逸だ。結果として、スペクタクル的な興趣を呼び込み最後まで目が離せない。元ネタは劇作家のマキタカズオミによる同名戯曲だが、これを「ほつれる」のように原作者が映画の演出にまで手を出していないことも大きいのだろう。監督の宮岡太郎の仕事は堅実で、インモラルな題材を前にしても決してスタンドプレイに走らない。

 小夜を演じる萩原みのりは近年台頭してきた若手女優の中では、その硬質な手触りと強い目力が特長だが、ここでもその魅力は十分に発揮されている。柊瑠美や木口健太、田口智也、梅舟惟永、花戸祐介、秋山ゆずき、後藤剛範ら他のキャストは地味だが曲者揃い。皆楽しそうにクズを演じきっている。ロケ地はどこなのか明示されていないが、山に囲まれた小さな町で、それが各キャラクターの心理的鬱屈を象徴している。岡出莉菜による音楽も良い。
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「福田村事件」

2023-10-16 06:05:25 | 映画の感想(は行)
 この題材を取り上げたこと自体は評価する。今まで映画関係者の誰もが興味を示さなかった“日本の負の歴史”に果敢に切り込んだ、その姿勢は見上げたものだ。しかし、ネタの秀逸さと映画のクォリティとは、別の話である。端的に言って、この作品は掘り下げが足りない。ヘヴィな素材に対峙するためには強靭な求心力を持って臨まないと良好な結果には繋がらないはずだが、本作はどうも煮え切らないのだ。

 1923年(大正12年)に千葉県東葛飾郡福田村(現在の野田市)で起こった、香川県から来た薬の行商団15名が関東大震災後に狼藉をはたらいていたとされる朝鮮人と間違われて地元の自警団に襲われ、うち9名が殺害されるという凄惨な事件を描くこの映画。最も重要なモチーフは、この出来事の背景であることは論を待たない。



 なぜ一般市民が凶行に走ったのか、どうして朝鮮人が悪者扱いされていたのか、そのあたりをテンション上げて描かないと絵空事になってしまうのだが、本編ではほとんど言及も考察もされていない。ただ群集心理によって流言飛語に惑わされてしまったという、ありきたりな構図が差し出されるだけだ。

 登場人物たちの造形の粗さも愉快になれない。悪さをするのは最初から思慮が浅い無教養の連中で、犠牲者を庇おうとするのは元々リベラルなスタンスを持った人間であるという、大雑把な見解が罷り通るのみ。たとえば普段は善良そうな者がイレギュラーな事態に直面するとインモラルな本性を現すとか、反対に素行の良くない奴がいざという場合に頼りになる行動を起こすとか、そういう映画的に盛り上がりそうな展開は一切出てこない。

 そもそも、当時は日本統治下にあった京城(現・ソウル)で教師をしていたが事情によって故郷の千葉県福田村に帰ってきた澤田智一とその妻のメロドラマ的なパートや、プレイボーイを気取った船頭の“武勇伝”や、旦那の出征中に舅と懇ろになる嫁の話など、映画の本題とは直接関係のない話が必要以上に多い。かと思えば、正義感あふれる若い女性新聞記者に理想論を語らせるといった、取って付けたようなネタまである。

 極めつけは、クライマックスとなるべき凶行場面の描写が生温いことだ。あからさまな残虐描写はマーケティング上(?)不利だと予想したのかもしれないが、そこを避けてしまっては何もならないだろう。監督の森達也はドキュメンタリー畑の人材であり、劇映画を手掛けるのは初めて。作劇がぎこちないのはそのためかもしれないが、この起用は承服しかねる。

 そして気になるのは、映画の企画担当で脚本にも参加している荒井晴彦の存在だ。彼がこういうテーマを扱うと、団塊世代らしい(左傾の)ルーティンに陥りがちだが、今回もその轍を踏んでいる。井浦新に田中麗奈、コムアイ、向里祐香、カトウシンスケ、木竜麻生、ピエール瀧、水道橋博士、豊原功補、柄本明ら多彩なキャストを集め、東出昌大に深い演技をさせていないのも的確だが(苦笑)、映画が思わぬライト級に終わってしまったので、評価は差し控える。
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「ペギー・スーの結婚」

2023-10-15 06:59:26 | 映画の感想(は行)
 (原題:Peggy Sue Got Married )86年作品。70年代はまさに無双だったフランシス・フォード・コッポラ監督だが、80年代に入るとネタが出尽くしたかのごとく大人しくなり、並の演出家へとシフトダウンした。本作もその流れによる一本で、全盛時の彼からは考えられないほどのお手軽なシャシンだ。しかしながら、今日も少なくない数が撮られている“(個的な)タイムスリップもの”を先取りしているという意味では、存在価値はあるかもしれない。

 アメリカ西部の地方都市(ロケ地はカリフォルニア州北部のサンタローザ)に住む中年女性ペギー・スーは、電気店を営むチャーリーと結婚して2児をもうけたが、最近ダンナが別に女を作ったため離婚を考えている。そんな中、高校の同窓会が開かれることになった。会場には懐かしい面々がいっぱいで、気分はもう高校生。しかも、彼女はパーティでその夜のクイーンに選ばれ、興奮のあまり卒倒してしまう。ところが目が覚めたら25年前のハイスクール時代にタイムスリップしていた。この際だから失われた青春をやり直そうと思った彼女は、当時は同級生だったチャーリーを遠ざけて文学好きのインテリ男子マイケルに接近する。



 主演を務めたキャスリーン・ターナーは、本作での演技が認められアカデミー主演女優賞にノミネートされており、なるほど達者なパフォーマンスだとは思うが、当時すでに30歳をとうに過ぎていた彼女が若い頃まで演じるというのは無理がある。しかも、高校時代に戻った彼女の周りの者たちも、一様に老け顔で苦笑するしかない。この点、前年に封切られた「バック・トゥ・ザ・フューチャー」に後れを取っている。

 主人公が遭遇するエピソードも、大して面白味が無い。元の時代に戻ろうとして祖父たちの時間旅行の儀式を参考にするものの、インパクトは弱い。それでも、60年代初頭の古き良きアメリカの風俗描写は楽しませてはくれる。やっぱりこの時代は、誰が取り上げてもサマになる。ただし、コッポラの演出は可も無く不可も無し。

 ニコラス・ケイジにジョアン・アレン、ジム・キャリー、バーバラ・ハリス、ドン・マレー、モーリン・オサリヴァン、ヘレン・ハント、ジョン・キャラダインなど、共演陣はけっこう豪華。ヒロインの妹にソフィア・コッポラが扮しているのは珍しく、唯一実年齢が役柄とマッチしているケースである(笑)。音楽はジョン・バリーで、さすがのスコアを提供している。
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