元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「猫が行方不明」

2009-02-09 06:25:09 | 映画の感想(な行)
 (原題:Chacun cherche son chat )96年作品。パリの下町に住むメイクアップ・アシスタントのクロエ(ギャランス・クラヴェル)はバカンスに出かける間、飼っている猫を知り合いのおばあさんに預けるが、帰ってみると猫は行方不明。必死で猫を捜すうちに、彼女は今まで知らなかった人々と触れ合うことになる。監督は「パリの確率」や「スパニッシュ・アパートメント」などのセドリック・クラピッシュ。

 黒猫に“グリグリ(灰色)”という名前をつけて一人悦に入っているような自己完結型おたく風スノッブで、男性関係で傷つきたくないためゲイの男と一緒に住む、何とも付き合いきれない性格のヒロインが、猫捜しの途中でいろんな人に会ううちに、少し世界が広がったような気がして一人で喜んだとさ。めでたしめでたし・・・・という映画である。ま、誰でもこういう経験はあるんじゃないかな。普段口をきかないような層と少しばかり仲良くなって、あたかも彼らのすべてを知ったかのように優越感を覚えるというような・・・・。

 もちろんそれが悪いってことじゃない。何もしないより数段マシだ。しかし、そんな些細な、とりとめのない“気分”を主題にして1時間半の映画にするってことが、どうも愉快になれない。本来これは20分程度の、オムニバス映画の一編として製作される予定だった。それがちょっといい話だったんで、長編にしちまった。結果は短編の題材を無理矢理引き延ばした印象しかない。観ていて困った。

 まあ、悪い映画じゃない。名所旧跡が一切出てこないパリの下町の風情は捨て難いし、脇のキャラクターは面白いし、タイトルバックの処理なんかとても洒落ていて好きである。でも、何となく自分を中心に半径3メートルの範囲だけで映画作っているようで、これは当時のフランスの若手監督全般に言えることだったが、雰囲気はいいけど骨太な娯楽性とか、大向こうを唸らせるようなハッタリとは無縁みたいで、それがとても寂しい。要するに小粒なのである。たとえばベッソンやベネックスやカラックスみたいに“オレはオレだ。他の奴なんか知らん”という身勝手な部分も欲しい気がする。
コメント
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