元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「CODE8 コード・エイト Part II」

2024-05-26 06:07:32 | 映画の感想(英数)
 (原題:CODE 8: Part II )2024年2月よりNetflixから配信されたカナダ製のSFスリラー。前作(2019年)と同様に特筆すべき出来ではない。しかし、パート1に比べて作品のクォリティは落ちておらず、その点あまり不満を覚えずに最後まで付き合うことが出来た。テレビ画面で鑑賞するには、これぐらいのライトな建て付けの方がフィットしていると思う。

 人口の約4%が何らかの超能力を持って生まれるようになった近未来世界。前作で犯罪組織と警官隊を相手に大立ち回りをやらかしたコナー・リードは、5年の服役を終えてコミュニティ・センターの掃除夫として働いていた。警察は遣り手のキング巡査部長の元で改革を進めていたが、実はキングは違法薬物の売買を営むギャレットの一味と結託して私腹を肥やしていた。



 ギャレットの下っ端の売人であるタラクは、警察犬ロボットK9に追い詰められて検挙されそうになるが、無抵抗の彼をK9は殺害してしまう。その一部始終を見ていたタラクの妹パバニはコミュニティ・センターに逃げ込み、コナーに匿われる。K9のメモリにロードされた事件動画を一般公開して警察の不正を暴こうとするコナーだが、揉み消しを図るキングはコナーとパバニを抹殺しようとする。

 ストーリー自体に新味は無いが、前作に引き続き各エスパーの持つ超能力がバラエティに富んでいて面白い。特にカメレオンのように身体の色を変えるタラクや、システムを無力化するパバニの扱いは悪くないと思う。そして、前作で市民からの苦情を受けて出番が減ったヒューマノイド型のガーディアンに代わって投入されたK9の造型と能力は、けっこうポイントが高い。

 後半は横暴なキングと、そんな彼に嫌気がさしてコナーに加勢するギャレットの一派も交えた賑々しいバトルが展開する。実はキングも“ある秘密”を抱えており、それが明らかになる終盤の扱いは少し興味を覚えた。前回に引き続いて登板のジェフ・チャンの演出は取り立てて才気は感じないが、取り敢えずは破綻無くドラマを最後まで引っ張っている。

 コナー役のロビー・アメルとギャレットに扮するスティーヴン・アメルは前回に引き続いての出演だが、健闘していると言って良いだろう。アレックス・マラリ・Jr.にシレーナ・グラムガス、ジーン・ユーン、アーロン・エイブラムスなどのキャストも手堅い。それにしても、上映時間が1時間40分と短めなのは有り難い。娯楽アクション編は、この程度の尺が一番良いのだ。
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「CODE8 コード・エイト」

2024-05-17 06:08:01 | 映画の感想(英数)
 (原題:CODE 8)2019年カナダ作品。日本では劇場公開されておらず、私はネット配信にて鑑賞した。取り立てて出来の良い映画では無いが、硬派なテイストが適宜挿入されていることもあり、あまり退屈せずに最後まで付き合えるSFスリラーだ。もちろん、映画館でカネ払って観たら不満が残ると思うが、テレビ画面では丁度良い。

 人口の約4%が何らかの超能力を持って生まれるようになった近未来世界。彼らは当初は効率の良い労働力として持て囃されたが、機械化・システム化が進んだことにより実業界では不要の存在になっていった。それどころか差別や迫害を受け、犯罪に走る者も少なくない。しかも、超能力者の髄液から抽出される強力な麻薬が高値で取引され、警察は厳しい取り締まりを断行する。そんな中、超能力を持つコナー・リードは、難病を患う母親の治療費を稼ぐため、違法薬物の売買を営むギャレットの一味に参加して犯罪に手を染めることになる。



 社会から邪魔者扱いされた超能力者たちが違法行為をやらかすというネタは、大して新味は無い。舞台になる都市(ロケ地はトロント)が殺伐とした抑圧的な造型を伴っているのも、まあ想定の範囲内だ。しかし、LGBTQなどのマイノリティの権利がクローズアップされる現時点で接すると、けっこう緊迫感が嵩上げされる。

 また、各エスパーはそれぞれ能力が異なっており、ドラマ全体に意外性が醸し出される。警察サイドにも強硬派もいればリベラル派もいて、そのあたりの葛藤が紹介されるのも悪くない。モチーフとしては警察が装備している攻撃型ドローンと、アンドロイド型の実戦型マシンのエクステリアが面白く、市民生活の隣にこんなメカが跋扈している光景は興味を惹かれる。

 ジェフ・チャンの演出は特段才気走った点は無いが、安全運転に徹していてストーリーが停滞することは無い。主演のロビー・アメルは健闘しており、切迫した主人公の内面は過不足無く表現出来ていたと思う。スティーヴン・アメルにサン・カン、カリ・マチェット、グレッグ・ブリック、カイラ・ケイン、ピーター・アウターブリッジらその他のキャストにも演技に難のある者がいないのも気持ちが良い。なお、続編がNetflixから配信されており、近々チェックする予定である。
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「12日の殺人」

2024-04-15 06:07:18 | 映画の感想(英数)
 (原題:LA NUIT DU 12 )似たようなテイストを持つジュスティーヌ・トリエ監督「落下の解剖学」よりも、こっちの方が面白い。同じフランス映画であるだけでなく、物語の舞台も共通しているのだが、題材の料理の仕方によってこうも出来映えが違ってくるのだ。諸般の事情で米アカデミー賞には絡んではいないが、2023年の第48回セザール賞で作品賞をはじめ6部門で受賞しているので、世評も決して悪くはない。

 10月12日の夜、フランス南東部の山間部の町で、女子大生クララの焼死体が発見される。何者かが彼女にガソリンをかけ、火を付けたらしい。捜査を担当するのは、昇進したばかりの刑事ヨアンとベテラン刑事マルソーだ。2人は早速被害者の周囲の者たちに聞き込みを開始するが、何とクララはいわゆる“お盛んな女子”で、交際範囲はけっこう広いことが分かってくる。



 当然のことながらクララと痴話ゲンカの間柄になる男も複数存在しており、計画的な犯行であることから遅からず容疑者が特定されると思われた。だが、決定的な証拠が出てこない。捜査が行き詰まり、ヨアンの表情も焦りの色を濃くしてゆく。2020年に出版されたポーリーヌ・ゲナによるノンフィクションを元ネタにしている。

 冒頭、この事件が未解決であることが示される。ある意味ネタバレなのだが、何かあると思わせて実は何も無かった「落下の解剖学」に比べると実に潔い。それどころか映画自体がミステリー的興趣を否定していることにより、観客の興味を別の方向へ誘導させる仕掛けが上手く機能している。それは何かというと、事件の“背景”である。

 この山あいの町は風光明媚ではあるものの、かなり閉鎖的で多様な価値観を認めない。特に男女差別は深刻で、後半にヨアンの同僚となる女性刑事はそのポストに就くまでに辛酸を嘗めた。劇中、関係者が洩らす“クララはどうして殺されたか。それは女の子だったからだ”という身も蓋もないセリフがシャレにならない重さを伴ってくる。また、社会の一般的なレールから外れた者に対する仕打ちも酷い。

 マルソーは家庭の問題を抱えているが、誰も救いの手を差し伸べない。終盤に重要参考人と目される者が現われるが、当人の境遇も哀れなものだ。ヨアンはスポーツバイクに乗ることが趣味で、暇を見つけては屋内の競技用施設で汗を流している。だが、屋外やオフロードに出向くことは無いのだ。そもそも彼はいい年なのに独身で、交友関係も充実しているとは言えない。この、どこにも捌け口が見出せない状況こそが事件の核心であるという作者の視点は、高い普遍性を獲得していると思う。

 ドミニク・モルの演出は堅牢で、作劇に余計なスキを見せない。ヨアン役のバスティアン・ブイヨンをはじめ、マルソーに扮するブーリ・ランネール、またテオ・チョルビやヨハン・ディオネ、ムーナ・スアレム、ポーリーヌ・セリエ、そしてクララを演じるルーラ・コットン=フラピエなど、馴染みは薄いが皆良い演技をしている。ヨアンがそれまでとは違う生活スタイルに踏み込むことを決断するラストは、強い印象を残す。
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「π(パイ)」

2024-04-06 06:09:26 | 映画の感想(英数)
 (原題:Π PI )98年作品。鬼才として知られるダーレン・アロノフスキー監督作品はけっこう観ていると思っていたが、長編デビューになる本作は未見だった。今回デジタルリマスター版として再上映されたので、鑑賞してみた。率直な感想だが、外観のエキセントリックさに比べれば中身は意外と薄味である。最初の作品ということで好き勝手やっている先入観があったものの、肩透かしを食らった感じだ。

 マンハッタンのチャイナタウンに住むマックス・コーエンは突出したIQの持ち主で、特に数学に関しては他の追随を許さないレベルに達していた。彼はこの世の全ての現象は数式で説明できると確信し、自作のコンピューターで株式市場の予測などに没頭していた。ある日、コンピューターが正体不明の216桁の数字をはじき出す。彼の師匠であったソルもかつて研究していたその謎の数字に、マックスはのめり込んでいく。



 全編モノクロのざらついた画面、手持ちカメラの多用による不安定な構図、耳をつんざくクリント・マンセルの音楽と、エクステリアは結構キレている。しかし、主人公の行動は大したことはない。株価予想は実益を兼ねるために仕方がないのかもしれないが、深い考察もなく宗教関係に興味を持つのは安易だ。おかげでマックスは正体不明の組織から狙われるようになるが、話が単純化するのは否めない。

 ドリルを持ち出して自傷行為に走るのかと思ったら、決定的な破局には至らず何となく済まされてしまう。そもそも、舞台をチャイナタウンに設定したメリットがあまり見出せない。人種間の確執などが織り込まれるわけでもなく、単なる“背景”としか扱われていないのだ。やりようによっては高度な異常性を伴うカルト映画にも仕上げられたかもしれないが、いささか不十分である。やっぱりこの監督の異能ぶりが真価を発揮するのは、「レクイエム・フォー・ドリーム」(2000年)あたりからなのだと思う。

 とはいえ主演のショーン・ガレットはよくやっていると思うし、マーク・マーゴリスにスティーヴン・パールマン、ベン・シェンクマン、サミア・ショアイブという顔ぶれもマイナーながら印象は強い。そして上映時間が85分と短めなのも良い。こういうタッチで長時間引っ張ってもらうと、かなりキツかったところだ。
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「PLAY! 勝つとか負けるとかは、どーでもよくて」

2024-03-31 06:08:10 | 映画の感想(英数)
 作品の題材と出演者たちの面構えから、よくあるライトでウケ狙いの内容空疎な青春ものという印象を受けるかもしれないが、そこは若者像の描出には定評のある古厩智之監督、見応えのある仕上がりだ。特に各キャラクターを取り巻くリアルな状況の扱いには、感心するしかない。もちろん日本の実写版の劇映画で初めてeスポーツを本格的に取り上げたという意味でも、存在価値はある。

 徳島県の阿南工業高等専門学校に通う田中達郎は、1チーム3人編成で競い合うeスポーツの学生全国大会“ロケットリーグ”の出場メンバーを募集していた。そこに応募してきたのが一学年下の郡司翔太だ。ゲームは好きだが熟達者ではない翔太は、ベテランの達郎のスキルに付いていくのがやっとである。続いて達郎はVtuberに夢中の同級生である小西亘にも声を掛け、何とか人数を揃えることが出来た。オンラインで実施される予選を勝ち抜いた3人は、東京で開催される決勝トーナメントに参戦する。実在の男子学生をモデルに作られたドラマだ。



 落ちこぼれ共が頑張って大舞台で活躍するという、スポ根もののルーティンは外見上はクリアしているが、中身は様子が違う。これはタイトル通り“勝つとか負けるとかは、どうでも良い”のである。ただ彼らがプレイ出来ること自体が、大きな“成果”なのだ。彼らの不遇な日常が、eスポーツによってほんの少し変わってくる様子を地に足がついたタッチで綴っていく。それだけ普遍性が高い。

 翔太の家庭は悲惨だ。乱暴者で甲斐性無しの父親と、酷い扱いを受ける母親。翔太とその兄弟たちは、ひたすら首をすくめて耐えるしかない。達郎の父親も何をやっているのか分からず、母親は家計を支えるために過労で倒れそうである。亘にしても家族を信用しておらず、ネット上のキャラクターにしか興味を持っていない。どこにも明るい青春ドラマは無く、それがまた実際ありそうなシチュエーションであるのが辛い。

 プレイ場面は私のようなゲームの門外漢にも十分にスリルが伝わってくるほど巧みだ。しかしながら、大会での彼らの活躍は一過性のものであり、それが終われば改めて厳しい現実に向き合わなければならない。このリアリティには納得してしまう。

 3人を演じる奥平大兼と鈴鹿央士、小倉史也は好調。特に奥平のパフォーマンスは万全だ。山下リオに花瀬琴音、斉藤陽一郎、唯野未歩子、山田キヌヲなどの脇の面子もイイ味を出している。古厩監督は「ロボコン」(2003年)に続いて高専を舞台にしたわけだが、高校とも大学とも違う独特の雰囲気は、かなり効果的かと思う。
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「ARGYLLE アーガイル」

2024-03-24 06:07:58 | 映画の感想(英数)
 (原題:ARGYLLE )これは面白くない。快作「キック・アス」(2010年)や「キングスマン」(2015年)を手掛けたマシュー・ヴォーン監督の手によるシャシンなので一応は期待したのだが、悪ふざけが過ぎてシラけてしまった。何よりキャラクター設定が低調で、感情移入がまったく出来ないのは痛い。しかも尺は無駄に長く、愉快ならざる気分で映画館を後にした。

 謎の国際シンジケートに立ち向かう凄腕エージェントのアーガイルを主人公にした痛快娯楽小説「アーガイル」のシリーズを執筆している売れっ子作家のエリー・コンウェイは、愛猫アルフィーと共にマイペースな生活を送る中年女性だ。新作の構想を練るため列車で取材旅行中の彼女は、突然に命を狙われる。それを助けたのがエイダンと名乗るスパイ。何でも、エリーの小説が偶然にも現実のスパイ組織の行動とシンクロしているとのこと。未来予知みたいな能力があるらしい彼女を抹殺するため、謎の組織は次々と刺客を送り込んでくる。エリーはエイダンと一緒に世界中を逃げ回りつつ、事態の打開を図る。



 とにかく、主人公の2人には魅力が無い。エイダンはスパイらしく身体はよく動くものの、何をやっても冴えないオッサンの域を出ない。エリーには実は重大な“秘密”があったのだが、それが明かされる後半は華麗に変身する・・・・と思ったら、最後まで垢抜けないオバサンのままだ。しかも、その“正体”とエリーの容貌とのギャップが却って広がり、観ていて痛々しくなってしまう。

 これはひょってして劇中フィクションの「アーガイル」の世界とのコントラストを狙ったのかもしれないが、アプローチが根本的に間違っている。架空のハナシとの“落差”を強調するには、エリーとエイダンの造型をリアリズムに振るべきだ。ところが本編は劇中劇以上にチャラけているので、ドラマにメリハリが無い。

 ヴォーン監督の仕事ぶりは低調で、テンポは悪くギャグは上滑り。CG処理画面は奥行きが無い。とにかく荒唐無稽なモチーフを繰り出せば、それだけでウケると思っているようだ。主役のブライス・ダラス・ハワードとサム・ロックウェルはミスキャストだろう。もっと見栄えの良い面子を持ってくるべきだった。

 ブライアン・クランストンにキャサリン・オハラ、デュア・リパ、ジョン・シナ、アリアナ・デボーズ、そしてサミュエル・L・ジャクソンと顔ぶれは多彩ながら、上手く機能していない。唯一良かったのがアーガイルに扮するヘンリー・カヴィルで、一時は“次期ジェームズ・ボンド役か”と噂されたように、颯爽と敏腕スパイに成り切っている。彼を本当の主役に据えた活劇編を作ってもらいたいと思う。
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「Gメン」

2024-03-02 06:10:18 | 映画の感想(英数)
 2023年作品。普段ならば絶対に観ないようなタイプのシャシンで、実際に映画館での鑑賞は遠慮したのだが、本作が何とキネマ旬報誌の2023年邦画ベスト・テンにおける読者投票で第一位になったのを知り、今回ネット配信ではあるがチェックした次第だ。結果、本来は鑑賞対象にならないという認識はまったく変わらず(笑)、どうしてこれが高評価になったのかは謎のままである。まあ、世の中たまに不可思議なことが起こるものだと、自分に言い聞かせるしかない。

 東京都下にある私立武華男子高校は当初は低偏差値のヤンキーが集まる学校だったが、周囲に女子高が4つも開校し、色気づいた優等生が大量に志願した結果、偏差値が爆上がり。高校1年生の門松勝太も“彼女を作りたい”という不純な理由だけで転校してきたのだが、彼に振り分けられたクラスは落ちこぼれの不良だらけの1年G組だった。クセの強いクラスメイトたちに辟易しながらも、何とか馴染むことが出来た勝太だったが、いつの間にやら凶悪組織である天王会との抗争の矢面に立たされてしまう。小沢としおの同名コミックの映画化だ。

 本作の配給元は東映だが、この映画は東映系の小屋で昔やっていた「ビー・バップ・ハイスクール」のシリーズと大差ない、いわゆる“不良高校生もの”だ。この手のシャシンは現在に至るまで各社でずっと作られていて、それなりの市場を獲得しているようだ。かく言う私も映画「ビー・バップ・ハイスクール」は全作品観ていて(笑)、それなりに楽しかったことを覚えている。ただし、それはあくまで若い頃の話だ。現時点で鑑賞して感銘を受けるとは思わないし、実際この「Gメン」も従来型の“不良高校生もの”と建て付けは一緒でまったく面白いとは思えなかった。

 テレビでよく見かける面子ばかりを集め、楽屋落ちみたいな(笑えない)ギャグの連続。演技面で評価出来る者もあまり見当たらない。まあ、乱闘シーンは頑張って撮っているのは分かるが、手練れの映画好きを唸らせるレベルにはとても達していない。監督は瑠東東一郎なる人物だが、パフォーマンスはバラエティ番組のディレクター並だ。ただ、おそらくは“固定客”がいるタイプの映画としては、マーケティング的にはこの程度で良いのだろう。

 しかしながら、あの「ビー・バップ・ハイスクール」でもキネマ旬報のベスト・テンで上位に入るなんてことは無かったし、そんなのは誰も期待していなかったはずだ。しかるに、今回の本作の“快挙”はとても信じられない。一説には主演の岸優太のファンによる“組織票”ではないかとも言われているが、それは無理があるとは思う。竜星涼や矢本悠馬、森本慎太郎、小野花梨、高良健吾、大東駿介、吉岡里帆、尾上松也、田中圭、間宮祥太朗など面子は多彩だが印象は薄い。良かったのは衣装が可愛い恒松祐里ぐらいだ。
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「Lift リフト」

2024-01-20 06:07:31 | 映画の感想(英数)

 (原題:LIFT)2024年1月からNetflixで配信。監督が「ワイルド・スピード ICE BREAK」(2017年)や「メン・イン・ブラック:インターナショナル」(2019年)などのF・ゲイリー・グレイなので、本作もライトな活劇編であることが予想されたが、実際観てもその通りである(笑)。過度な期待は禁物ながら、最初から割り切って接すれば退屈せずにエンドマークまで付き合える。配信で観るにはちょうど良い。

 世界を股に掛けて活動する大泥棒のサイラスが率いるチームは、美術品を奪い高値で取引をするという手口で荒稼ぎしていた。しかもこの犯行には作者にもキックバックが生じるため、結果として誰も損しないという巧妙なもの。そんな一味を追っているのがインターポールの女性捜査官アビーで、実は互いの素性を知る前にサイラスと恋仲だったことがある。

 あるとき、大物テロリストのヨルゲンセンと国際的ハッカー組織“リヴァイアサン”の取引のために大量の金塊が旅客機でロンドンからスイスに運ばれることを、アビーは上司のハクスリーから聞かされる。彼女はこれを阻止するためにサイラスの一味と共同し、途中で金塊を強奪することを持ち掛ける。

 ハッキリ言ってしまえば、本作は冒頭で展開されるヴェネツィアでの水上チェイスが一番盛り上がる。それに続いて始まるメインの金塊奪取の建て付けは、大したことはない。もっとも、サイラスたちが立てた計画は別のステルス航空機を利用する等、けっこう作り込まれていることは分かる。だが、リアルな物件(?)が疾走するヴェネツィアにおけるシークエンスに対し、大空でのスペクタクルはほとんどがCGだ。いくら奇想天外なシーンが繰り出されようと、所詮CGだという印象が拭えない。あと、チームのメンバー以外にも“別のスタッフ”が複数付いているという設定も、少し違う気がする。

 とはいえ、グレイ監督の仕事ぶりはスムーズで、最後のオチまで淀みなく観る者を引っ張ってくれる。主演のケヴィン・ハートは元々お笑い要員で、タフガイではないものの飄々とした雰囲気で犯罪ドラマをこなしている。相手役のググ・ンバータ=ローをはじめ、ヴィンセント・ドノフリオやウルスラ・コルベロ、ビリー・マグヌッセン、キム・ユンジ、サム・ワーシントン、そしてジャン・レノと、けっこう役者は揃っている。

 あと印象的だったのが、サイラスたちが序盤でターゲットにしているNFTアート(非代替性トークンの技術を活用したデジタル作品)で、最近はこういうものが出回っていることは聞いてはいたが、映画のネタとして取り上げられた例を初めて見た。今後もスクリーン上で頻繁にお目に掛かるようになるのだろう。
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「NO 選挙,NO LIFE」

2024-01-01 06:45:45 | 映画の感想(英数)
 興味深いドキュメンタリー映画だ。一応“主人公”は選挙取材歴25年のフリーランスライターである畠山理仁なのだが、それよりも彼が取材対象にしている選挙戦の様相と候補者たちの主義主張の方が断然面白い。もちろん選挙というのは国民の参政権の主体になるものだが、同時に堪えられないほどのエンタテインメントであることが強調され、その意味では存在感のあるシャシンだ。

 劇中で描かれている畠山のターゲットは、2022年7月の参議院選挙における東京選挙区だ。ここは定員6に対し、立候補者は34人にも達している。だからかなりの数の泡沫候補も含まれるが、畠山は全員に取材を敢行している。候補者の中にはかなり怪しい人物も複数交じっており(笑)、主義主張もけっこうイッちゃっている例もあるのだが、面白いのは彼らの言っていることが“徹頭徹尾トンデモ”ではないことだ。どこかほんの一部に、既成政党の候補者も思い至らないほどの真実がある(ように見える)。だから彼らは、政治に参加しようとすることを止めないのだ。



 聞いている者がほとんどいない路上に立ち、彼らは切迫した口調で自らの政策を訴える。与党候補や名の知られた野党の公認者も(約1名を除いて)必死だが、支援組織も何もない泡沫候補は唱える公約だけが拠り所だ。それだけに、曖昧な態度は許されない。反面、それを取材している畠山や、この映画の鑑賞者にとっては、大いに手ごたえを感じることになる。

 なお、くだんの“必死さが見えない約1名の候補”というのは、与党公認の元アイドルの“あの人”である。基本的な政治課題さえ知らずに大胆にも議員になることを希望し、さらには知名度だけはあるので当選してしまうという、何とも脱力してしまう状況がそこにはあった。

 次に畠山は2022年9月の沖縄県知事選を取材する。米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設計画で揺れ動くこの地域の選挙は、本土とは比べものにならないほどヴォルテージが高い。断っておくが、私はこのネタに関してイデオロギー方面から言及する気は無い。選挙の去就を決めるのは沖縄県民だ、それだけに、畠山の執筆動機および映画の題材としてはもってこいだろう。

 監督は前田亜紀でプロデューサーは大島新。言うまでもなく「なぜ君は総理大臣になれないのか」「香川1区」などのスタッフだが、今回は立場を逆にしての製作。このチームの仕事ぶりは今後も注目したい。なお、畠山は沖縄取材を最後に引退を決意しているらしいが、ジャーナリズム魂が消えるはずもなく、また現場に復帰するかもしれない。
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「PERFECT DAYS」

2023-12-30 06:29:12 | 映画の感想(英数)

 良く出来た映画で、感心してしまった。正直に言うと、監督がヴィム・ヴェンダースだということで観る前は若干の危惧があった。何しろ彼は傑作「ベルリン・天使の詩」(87年)を撮り終えてから現在まで、ロクなシャシンを作ってこなかったのだ。80年代には才気溢れるタッチでコアな映画ファンを魅了していた演出家が、長らく才能が涸れたような状況に甘んじていたというのは何やら寂しくもあった。しかしこの新作では見違えるような仕事ぶりを披露している。やはり一度は高評価を獲得した作家は、近年は不調でも突然“化ける”可能性を持ち合わせているのだろう。

 主人公の平山は、東京スカイツリーの近くにある古いアパートで独り暮らしをする、初老の清掃作業員だ。彼の主な仕事は都内の公衆トイレの掃除で、決まった時間に起床し、身支度して“出勤”する。仕事帰りには銭湯に足を運び、その後は馴染みの安酒場で一杯引っかける。毎日がその繰り返しだ。そんなある日、若い姪のニコが彼のアパートに転がり込んでくる。親とケンカして家出したらしい。さらに、同僚のタカシが急に辞めたり、行きつけのスナックのママの様子が気になったりと、すべてが平穏無事とは言えないのも確かである。

 この作品に対し、主人公の造型が浮世離れしているとか、トイレ清掃員の仕事は凄まじく3Kで本作は綺麗事に終始しているとかいった批判をぶつけるのは容易い。しかし、この映画はそんな一種下世話(?)なネタを取り扱う次元には位置していないのだ。ここで描かれているのは、文字通り人生における“完璧な日々”である。それは決して得意の絶頂が続く賑々しい日々のことではない。地味なルーティンの中に散見される微妙な哀歓を見出し、それを味わうことである。これがまさしく人生の機微だろう。

 そんな意味で極端に抽象化された平山のキャラクターは、実に的確だと思う。彼はスマートフォンを持っておらず、部屋にはテレビも無い。だが、移動中に聞く古い洋楽のカセットテープや、古本屋で見つけた文庫本など、楽しむものはちゃんと持っている。フィルムカメラで撮る神社の境内の木漏れ日や、絶えず変化する空模様など、この“完璧な日々”は“単に平穏な日々”ではないことも表現される。

 そんな彼が思わず感情を露わにするスナックのママの境遇や、実の妹に対する複雑な思いも挿入されるのだが、それらも包括してやがて“完璧な日々”の中で消化されてゆく。その達観した視線が心地良い。映し出される東京の風景の、何と魅力的なことか。その即物的かつ深みのある捉え方は、やはり日本の映画作家とは一線を画するものがある。

 この映画で第76回カンヌ国際映画祭で優秀男優賞を獲得した役所広司のパフォーマンスは、前評判通り素晴らしい。本当は平山のような男は実在しないのかもしれないが、かなりの存在感を醸し出している。柄本時生に中野有紗、アオイヤマダ、麻生祐未、三浦友和、田中泯、甲本雅裕、犬山イヌコ、芹澤興人、安藤玉恵などの多彩なキャストを集め、さらに石川さゆりに歌わせたり、研ナオコやモロ師岡、あがた森魚といったワンポイント出演もあって本当に楽しませてもらった。パティ・スミス、ルー・リード、キンクス、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド、ニーナ・シモンといった選曲もセンスが良い。
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