(原題:NON NEGOTIABLE)2024年7月よりNetflixから配信されたメキシコ製のサスペンス編。チャラい邦題とは裏腹に、けっこう骨のある作品だと思った。なおかつ、筋立て自体が陰惨にも残酷にもなっておらず、鑑賞後の印象は悪くない。また、この国が抱える問題をも垣間見せているあたりもポイントが高い。
メキシコシティの警察署に勤務するアラン・ベンデルは人質解放の交渉人としてキャリアを積んでいたが、精神科医である妻のヴィクトリアとの仲はしっくりいかず、小学生の娘との関係も万全ではない。ある晩、本署から彼に呼び出しが掛かる。愛人宅を訪ねた大統領が誘拐され、しかも偶然居合わせたヴィクトリアも人質になっているというのだ。早速現場になったマンションを取り囲む特殊急襲部隊と合流したアランだが、何と犯人はかつての同僚だったことを知り愕然とする。
序盤で価値観が合わないアランと妻とのやり取りが描かれるが、これがけっこう笑わせてくれる。それでも彼は窮地に陥ったヴィクトリアを救うために奮闘するのだが、その段取りはスムーズで違和感が無い。犯人の行動は無謀だが、動機は決して欲得尽くのものではなく、それなりの“大義”があるというのが出色だ。
庶民派をアピールして当選した大統領だが、実は裏で阿漕なことを多数やらかしており、国益を侵害している。事情を知る犯人はそれを明るみにするため、実行に及んだのだ。その真相が一つ一つ示されるプロセスは、スリリングでけっこう見せる。さらに、事件をもみ消すために現職の閣僚たちが大統領の口を塞ごうとするくだりは、驚き呆れるしかない。
これだけの騒ぎにもかかわらず、無駄な血が流れることがなく良い案配で事が終息するという作劇の処理も見上げたものだ。解決後のエピローグはライトな扱いだが、背後にはメキシコ社会に存在しているであろう格差の問題をも炙り出して、手応えを感じる。
フアン・タラトゥトの演出はテンポが良く、1時間26分というコンパクトな尺も相まってストレス無くドラマを見せる。主演のマウリシオ・オフマンは決して二枚目ではないが、悩みを抱えた中年男を上手く表現している。ヴィクトリアに扮するタト・アレクサンデルは好演で見栄えも良く、エノック・レアーニョやレオナルド・オルティズグリスといった脇の面子もイイ味を出している。