気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

歌集 矩形の空 酒井佑子

2007-05-12 00:05:52 | つれづれ
ハズといふ語も夙(と)くに死語何処へ行つたあなたのハズあのかはいい男

去年死んだ猫よおまへの匂ひが顔のへにまつはりついてゐる五月闇

死なうか死なうよ長き春日を飽かず言ひくり返し言ひ死なざりき昔

抱き合ふばかり矩形の空を寝てひきあけ深き青潭に落つ

がらんどになりたる胎(はら)に何かよき詰物をせむ木の実草の実

(酒井佑子 矩形の空 砂子屋書房)

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葛原妙子賞受賞の歌集『矩形の空』を読む。
短歌人会で、酒井佑子の名前で作品を発表される前からのキャリアの長い方らしい。歌は独特の雰囲気がある。この歌集に収められた作品を作っている途中にご自身の病気療養があり、矩形の空という題は、病室から見た空ということ。
一首目。なんとも味わいのある面白いうた。四句目の「あなたのハズ」は「あなたの筈」と言いたいのだろう。ずらし方が絶妙。旧かなで通して、文語も口語も自在に使うのが、好ましい。

世に五月病というのがあって、わたしは新入生でもないのに何となく憂鬱。青葉わか葉が押し寄せるように明るいのを見ていると、気が沈む。だからと言って、ひどく落ち込んで何もしないというわけではなく、まあ以前と同じように生活はしている。ただ、面白い歌が出来にくいなあ・・・と思う今日このごろ。