母の日

囲炉裏パーティーの日。

買い物をしていると、かわいい女の子が、母の日にどうぞ、とワインを売っていた。

へぇー、母の日なんだ、と思いつつ、彼女の話を聞いていたら、買っちゃおう、という気になってきた。

黒ぶどう酒って書いてあった。

彼女にペンを借りて、いつもありがとうございます　元気で長生きしてください　と書き、照れくさいので、末尾に、子供、孫一同、と付け加えた。

その女の子には、これで、今日は、お客さんがたくさん来るよ、といって、店を出た。

その黒ぶどう酒ってかいたものは、今でも、妻からのプレゼントといっしょに、仏壇に供えてある。

母親は、とても喜んでくれた。

それ以後、言葉のひとつひとつが、華やいで聞こえる。

母と子のトラウマがどうした、こうした、なんて考えているより、この安物のワインの強力なパワー。

驚くばかり。

母の日のプレゼントで思い出すのは、小学校のころ、妹と一緒に小遣いで買った、カーディガン。

着たきりスズメだった母親を見かねて、ふたりで相談して、買ったんだっけ。

その話を、何十年、母親はしているんだろう、折に触れて、嬉しそうに話してくれるんだよね。

あのお店で、黒ぶどう酒を売ってくれた、あのかわいい娘さんに、今度あったら、御礼を言おう。

おかげさまで、とても喜んでくれたよって。