おっさんひとり犬いっぴき

家族がふえてノンキな暮らし

春の足跡

2024-03-14 11:29:40 | 福島
 いまだによく覚えているのだが、小学校の時、習字が上手な生徒に先生が習字の大会に出品する作品を書いてくるように指示した。学校側も体裁があるのか、書の下手くそな僕のような人間には頼まないのである。先生は「明日までにどういう文字を書くか決めて来なさい」と言い、翌日指名された生徒が何を書くか発表した。

 その生徒は「春の足音」と言ったのだが、僕にはよく聞き取れず、「春の足跡」と聞こえ、「なるほど、いい言葉を選んだなあ」と感心していた。ところが、先生が復唱したのは「春の足音」で、生徒もそう言ったのだった。それを聞いて僕はなぜだかガッカリしてしまった。「絶対、春の足跡のほうがいいなあ。足音ってよく聞く言葉だし、大体遠くから聞こえてくる足音なんて実体がないし、そもそも春が来ていないという意味ではないか」

 もう半世紀も前の話である。そんなことをジジイになった今でも思い出す僕の記憶力に、我ながら感心するのだが、「春の足音」よりも「春の足跡」のほうが、絶対いいよなと今もってそう思うのである。逆に、歳をとった今こそ「音」という予感めいたものより、「跡」というしっかりと存在した証拠のほうがかけがえがないように感じるのである。



 3月になって雪の日が続いたが、ようやく南岸低気圧も通り過ぎたようだ。

 雑木林にはまだわずかに雪が残り、そこに野ウサギやキジが足跡を残している。数年前までは頻繁に姿を見かけていたウサギは、最近では雪の上に残した足跡でしか存在を確認できない。キジのほうはケーンという鳴き声で存在を確認できるが、姿を見かけるのはごくたまにだ。





 空が真っ青なので、いつもより少し遠くまで足を伸ばし、お宮でお参りした。のんびり散歩をして帰ったら、2時間近くも歩いていたのだった。



 家に帰ると日のあたる専用のベッドで、アンがまったりしていた。



 後ろ足をベッドから出し、足の裏をこちらに向けている。「お前の足の裏を見せられても、そこに季節を感じることはないのだよ」
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