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書評「プーチン 人間的考察」(5)人誑(たら)し名人  文科系

2015年07月09日 23時17分25秒 | 文化一般、書評・マスコミ評など
 この本は著者が表題にも、また本書中でも繰り返し語っているように、プーチン個人の人間を描くというもの。それはそれで面白いのだが、その内容的にはまーゴシップ満載というところだ。その点はここまで観てきた通り。それほど今のロシアが腐った国というのを庇うつもりは毛頭ないのだが、それにしてもと考え込んでいた。まるで、ロシアという国もプーチン個人も、全く良いところがないと述べているような。としたらこの著者、なぜこんな本が書けたのだろう。いくら東西のプーチン著作を渉猟した博識の実証的研究をご披露するにしても、こんな週刊誌のゴシップのような記述を集めて来て税抜き5500円もする本を書くことを、ある人にはその一生の集大成の一つのように出来るものだろうか。そんな疑問だ。関連してそもそも、僕みたいな物好きと違って、こんな高い本を誰が買うのだろうという疑問もわく。そこで思ったことだが、多分アメリカの学会や関係の米政治世界で翻訳が出てそれも売れると目論んだのだろう。その証拠に、そもそもこの著者は、京都大学法学部を卒業して、アメリカはコロンビア大学で博士号を取っている。
 そんなことを僕は自問自答していた。
 ともあれ、今回まず一つは、この書に書いてある二つだけのプーチンの異能の一つ、人誑し能力についてまとめてみる。次回には、著者のお望み通り彼のゴシップをさらに集めてみよう。ちなみに、もう一つの彼の異能は、柔道家としての才能と努力。26歳でレニングラード市125ポンド級柔道チャンピオンになっているのだが。
 こうしてつまり、あと一回でこの書評を終わる積もりだ。

 人誑し名人、プーチン

 モスクワ大統領府に勤め始めてたった3年半で、数ある候補を押しのけてエリツィン後継者に選ばれて大統領になったプーチン。著者は、その最大の要因を表題の能力に観ている。こんな短期間でエリツィンとその「ファミリー」に己を信頼させた能力のことだ。著者はこの能力をこう説明している。

 人が人に己を信頼させるには、相手をそのまま受け入れて見せることによって相手と同種の人間であると強く思わせ、相手の熱烈な共感を得てしまう能力と。この説明のために著者は、こんなアメリカのある心理学者の用語を使ってみせる。コミュニケーションの要点は、相手の受容(アクセプタンス)と共感(エンパシー)であって、プーチンはこの力に秀でている、と。
 この能力はKGBで修練した。プーチンが非常に若い頃から関心を持っていて接触を始め、結局そこを職場としたKGBの最大の教養だとも、著者は話を進めていく。KGBではこの能力(養成)を「個人的関係形成能力」と呼んでいるようだ。一言で言えば、相手に影響を及ぼせる人間になれということのようだ。

 因みにこの章とは全く違う「第4章 東独」のところに、東独滞在時代の同僚のこんな証言もある。
「東独市民をソ連の情報提供者に工作する能力は非常に秀でていて、東独時代のプーチンはこれで2回昇進している」
「エモーショナルな人間なのに、必要なときには並外れた自己制御能力を発揮する」
 
 プーチンが3年半で大統領になったのはエリツィン初めそのファミリーを、こういう能力で誑し込んだということなのである。
 また、大統領になってから長くプーチンに会おうとしなかったアメリカ大統領ジョージ・ブッシュがはじめて彼に会わざるを得なくなった機会にプーチンが彼をめろめろにしたというのも、有名な話のようだ。プーチンはブッシュにこんな話をしたと言う。
「幼いとき貧しい母からギリシャ正教の洗礼を受けさせられて、一つの十字架をもらった。以来私はそれを片時も離さず、聖地エルサレムに行ったときには清めてもらいさえした」
 この話によってブッシュが抱いたプーチンへの信頼を、ブッシュがこう語っている。そんな文献が残っているらしい。
「私は、この男の眼をじっと見た。すると、彼が実にストレートで信頼に足る人物であることが判った。私は彼の魂を感じることができたのである」
 こうして、プーチンに会おうとしなかったブッシュが、たった一度会っただけでファーストネームを呼び合う仲になったというのである。凄い! 

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