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随筆紹介  万葉からだ歌(十二) 「髪」黒くすがすがしく   文科系 

2015年12月25日 10時06分16秒 | 文芸作品
「髪」黒くすがすがしく   N・Rさんの作品です
 
 朝寝髪我れは梳らし美しき
 君が手枕触れてしものを
 ──朝の乱れ髪、私は櫛を通さず共寝の一夜を大切に思い出しております。なんと甘美な女心の一首──

 万葉集の髪は、胸の想いをきちんと語り伝えてくれる確かなものになっている。「髪の乱れは心の乱れ」、「髪をさかたてる」、「髪の先まで怖い思いをした」等々。面白いのは、頭を詠んだ歌より髪の方が五十余首多いこと。
 そのほとんどが官能的な相聞歌の素材で、植物の山スゲ(ユリ科ジャノヒゲ)がしなやかな髪になぞらえられている。細い青葉のしなやかさが女性の美しい髪だという。”スゲ、スガ”の音から、すがすがしさ、きれいな女性の黒髪を連想させたからだろうか。

 あしひきのヤマすげの根のねもころに
 われにぞ恋うる君の姿に
──草の根がしっかりと絡むように、私はあなたを恋い慕っております──

 嘆きつつますらおのこの恋うれこそ
 我が結ふ髪の清くぬれけれ
──強い男のはずのあなたが、恋しがって泣かれるので、私の髪までが濡れてほどけてしまいましたわ──

 黒髪のやさしさ、恋しさについては『古事記』の仁徳天皇が若い娘子によびかける愛の詩にも「一本スゲは子を持たずや、あたらうるわしき山スゲのごとき美女なのに──」と、女性をたたえている。さらに『上代風土記』にも「スガ山のごとき、しなやかなる娘子よ」という名説話までも。
 これらが、やがて現代短歌集『みだれ髪』にたどりつく。

 罪多き男こらせと肌清く
 黒髪ながくつくられしわれ
 
 みどり髪を京の島田にかえし朝
 ふしていませの君ゆりおこす

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