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随筆紹介 「ずぼら日和」  文科系

2011年10月20日 10時18分56秒 | 文芸作品
 今日紹介するのは、S・Hさんの作品。前に紹介した「病院の姥たち」とか「自動車学校」とかの作者です。

   ずぼら日和  S・H
 嵐がやんだ。大掃除をしたように空は青さを取り戻した。
 家と地続きの畑で、強風と撃つような雨に掘り返され、土の上に投げ出された青虫、やとう虫が、家と畑の境にあるブロック塀に打ちつけられ、一固まりになり転がっていた。
 コロコロ太ったメタボ虫は、目をまわし気絶、動く気配が全く無い。今、すぐに集め処分しなきゃ。虫が目覚め畑に戻れば、花の新芽が食われてしまう。ポリ袋を取りに家のなかに入った。
 畑に出ようとして外を見た。開けっ放したくぐり戸の側で、ヒヨドリが猛烈な勢いで転がった虫たちを、胃袋に押し込んでいる。やれやれ、私にとってはやっかいな邪魔者がヒヨにとっては大御馳走のようだ。私と目が合っても、全く動じない〔このおばさんは食事の邪魔はしない〕と、勝手に思い込んでいるようだ。
〔腹一杯食べなはれ〕食事が終わるまで待つことにした。それにしても一羽では食い切れないぞ。食べ残しを片づけるのが私の役目なのかと、網戸越しにちらちらヒヨの様子を見ていた。
 満腹になったヒヨは体を起こし〔ふーう〕と、一息ついた。素早い動作で九段積みのプロック塀のてっペんに飛び移ると、〔ちーよ。ちーよ〕と、大声をあげた。
 畑の隅の桜の大木の青葉の中に隠れていた一羽の雛が、親の声に引きづられ、七メートル程の距離を滑空して、ブロック塀のてっペんにたどり着いた。もう一羽も同じように飛び出してきた。尾バネの短い二羽の雛が、横並びに止まり足場を固めた。それを見届けたヒヨは、塀を上下して雛達の口に、すごい速さで溢れるように、獲物を差し込み食べさせている。
 大御馳走は目の前に転がっている。雛を近くに置けば、効率よく獲物が運べる。労せず食べ物にありつける〔らくちん。らくちん〕と、思ったに違いない
 実に豪快な食事風景だ。ヒヨはこんな大胆なこともやるんだ。
 雛が育つまで、飯と住まいは親の責任だもの。ヒヨにとっては、労せず獲物を手に入れることが出来た〔ずぼら日和〕だ。こんな都合のいいことは滅多にない。
 桜の木に雛を隠し、こまめに餌を運び子育てするヒヨドリを、健気な鳥だと思い込んでいたが、雛の安全を確かめながら、数少ない獲物を探し子を養うあの所作は、健気ではなく、苦労して子育てをしている親の姿だった。
 腹一杯の大御馳走にありついたヒヨの親子は、さっさと飛び去っていった。
 両手のひら一杯ぐらいあった。御馳走は一粒も残っていなかった。
 雛はもうすぐ巣立ちのよう。危険から身を守り、自分で獲物を手に入れることも出来るよう育っている。大盤振る舞いの御馳走は、嵐からヒヨへのご褒美だったと、思いたい。】
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