第5回目は、2010年10月20日の連載17回目を再掲する。韓国戦が終った段階での標記のことを。まず、サッカー守備文化なら世界一の伝統を有するイタリアから、こんな肩書きが突いている人の文章から、以下の文を始めた。「イタリアのサッカー戦術アナリスト」。そして、相手国の一つサッカー大国アルゼンチンや、韓国のサッカージャーナリズムからも。
イタリアもアルゼンチンも、香川と岡崎について最高の評価を与えているのが目立つ。だが、その評価観点が日本サッカージャーナリズムとは全く違っていて、彼らの守備を評価したのだ。各サイド高くに居るはずのこの2人が、守備の時にはボランチの位置まで下りてくる勤勉さを評価するとして、彼らにチーム中最高の評価を与えていた。
韓国は韓国で本田と長谷部を高く評価するのだが、そこにはこんな特徴があると言える。韓国選手に当り負けないプレーをよく見ている、と。その点、得点場面ばかりをいつも見ている日本には、こんな特徴があると言えよう。野球観戦に慣れ親しんだスポーツ記者や新米記者が多いのだ、と。そして、日本のサッカージャーナリストたちも暗黙のうちに、彼らの影響を受けてきたのではないか、と。
【 前置き・守備に脚光が!
先回は、アルゼンチン戦、韓国戦を完封したセンターバック2人の記事を書いた。日本のサッカーマスコミが点取り屋や司令塔以外をクローズアップし始めたのが好もしかったからだ。そして今回は、この2戦のディフェンス構造の解説をやってみたい。折良く最新号のサッカーダイジェスト誌が100人の識者によって大小の実に細かい分析を行っているので、そのいくつかを種本にして。最も参考になったのは、「イタリアのサッカー戦術アナリスト」と肩書きがあったマッシモ・ルッケージによる、アルゼンチン戦守備分析。これは、秀逸だと思った。
(中略)
ある守備分析
さて、ルッケージの分析を、僕流に要約してみる。
①通常の陣形4-2-3-1が、完全防御体制では4-4-1-1へと変わる。サイドアタッカーの岡崎、香川がボランチの位置近くまで下りてくることと、岡田ジャパンよりも4-4の位置が高いこととが、重要ポイントだ。
②この岡崎または香川がボランチやサイドバックと連携して、敵ボール保持者をサイドに追い込んでいく。その際、もう一方のサイドなど他選手は、自分のマーク相手がパスを受けられないように厳密な警戒態勢を取る。
③敵ボール保持者は、ドリブルなどで中央に流れるか、苦し紛れにロングボールを蹴ることになる。これに対しては、中央ではDFとボランチとが接近しあった2本のラインの網に引っかかることになり、他サイドへのロングボールはやはり3人ほどの網に引っかかる。
④こうして敵ボールを絡め取る場所が比較的高い位置で、8人が密集した地域だから、スムーズなショートパス攻撃に移りやすい。この論文とは別に、こんな資料もあった。この2ゲームの1ゲーム当たり総パス数もショートパス数も、南ア大会に比べて5割以上増え、成功率もかなり上がっている。前方に構え、ボールキープ力のある本田にボールを当ててなだれ込む攻撃も前と同様に多かった。
この守備の諸結果数字など
さて、上記②③のように両サイドに押し込まれたアルゼンチン、韓国は、別のダイジェスト誌資料によれば、それぞれボール喪失総数の内の45%近くを両サイドで失った。そこからの逃れ道は各々、こうだった。アルゼンチンは中央に流れ、韓国はロングボールに逃れた。アルゼンチンがショートパス攻撃を得意とし、韓国は近年こういうロングボールで体力勝負を挑んで日本を苦しめてきたからであろう。この結果は、こうだ。アルゼンチンは日本ゴール前中央突破ができず、韓国はこのロングボールを日本に取られた。栗原、今野、長谷部たちに。韓国戦の日本が実に59%のボール保持率だったのは、このせいである。近年珍しいことだと思う。
相手国メディアなどは
アルゼンチンのメディアは、活躍選手を実にきちんと見ていたようで、三つのメディアの選手採点表の記事が別にあったが、岡崎と香川がダントツなのである。上記ルッケージと同様に「攻『防』に最もよく働いた」と褒めていた。あれだけ頻繁に下りてくる日本人らしい勤勉さを評価したわけだが、岡崎はもちろん、香川も走れるのだろう。
韓国戦については編集部の採点表があったが、長谷部と本田が最高点だった。韓国が挑んだ体力勝負に堂々と応えて、中盤では長谷部が、前戦では本田が勝っていたということに違いない。韓国は、二人が引っ張った日本のこの「激変」に驚いていたようだ。
(以下略) 】
イタリアもアルゼンチンも、香川と岡崎について最高の評価を与えているのが目立つ。だが、その評価観点が日本サッカージャーナリズムとは全く違っていて、彼らの守備を評価したのだ。各サイド高くに居るはずのこの2人が、守備の時にはボランチの位置まで下りてくる勤勉さを評価するとして、彼らにチーム中最高の評価を与えていた。
韓国は韓国で本田と長谷部を高く評価するのだが、そこにはこんな特徴があると言える。韓国選手に当り負けないプレーをよく見ている、と。その点、得点場面ばかりをいつも見ている日本には、こんな特徴があると言えよう。野球観戦に慣れ親しんだスポーツ記者や新米記者が多いのだ、と。そして、日本のサッカージャーナリストたちも暗黙のうちに、彼らの影響を受けてきたのではないか、と。
【 前置き・守備に脚光が!
先回は、アルゼンチン戦、韓国戦を完封したセンターバック2人の記事を書いた。日本のサッカーマスコミが点取り屋や司令塔以外をクローズアップし始めたのが好もしかったからだ。そして今回は、この2戦のディフェンス構造の解説をやってみたい。折良く最新号のサッカーダイジェスト誌が100人の識者によって大小の実に細かい分析を行っているので、そのいくつかを種本にして。最も参考になったのは、「イタリアのサッカー戦術アナリスト」と肩書きがあったマッシモ・ルッケージによる、アルゼンチン戦守備分析。これは、秀逸だと思った。
(中略)
ある守備分析
さて、ルッケージの分析を、僕流に要約してみる。
①通常の陣形4-2-3-1が、完全防御体制では4-4-1-1へと変わる。サイドアタッカーの岡崎、香川がボランチの位置近くまで下りてくることと、岡田ジャパンよりも4-4の位置が高いこととが、重要ポイントだ。
②この岡崎または香川がボランチやサイドバックと連携して、敵ボール保持者をサイドに追い込んでいく。その際、もう一方のサイドなど他選手は、自分のマーク相手がパスを受けられないように厳密な警戒態勢を取る。
③敵ボール保持者は、ドリブルなどで中央に流れるか、苦し紛れにロングボールを蹴ることになる。これに対しては、中央ではDFとボランチとが接近しあった2本のラインの網に引っかかることになり、他サイドへのロングボールはやはり3人ほどの網に引っかかる。
④こうして敵ボールを絡め取る場所が比較的高い位置で、8人が密集した地域だから、スムーズなショートパス攻撃に移りやすい。この論文とは別に、こんな資料もあった。この2ゲームの1ゲーム当たり総パス数もショートパス数も、南ア大会に比べて5割以上増え、成功率もかなり上がっている。前方に構え、ボールキープ力のある本田にボールを当ててなだれ込む攻撃も前と同様に多かった。
この守備の諸結果数字など
さて、上記②③のように両サイドに押し込まれたアルゼンチン、韓国は、別のダイジェスト誌資料によれば、それぞれボール喪失総数の内の45%近くを両サイドで失った。そこからの逃れ道は各々、こうだった。アルゼンチンは中央に流れ、韓国はロングボールに逃れた。アルゼンチンがショートパス攻撃を得意とし、韓国は近年こういうロングボールで体力勝負を挑んで日本を苦しめてきたからであろう。この結果は、こうだ。アルゼンチンは日本ゴール前中央突破ができず、韓国はこのロングボールを日本に取られた。栗原、今野、長谷部たちに。韓国戦の日本が実に59%のボール保持率だったのは、このせいである。近年珍しいことだと思う。
相手国メディアなどは
アルゼンチンのメディアは、活躍選手を実にきちんと見ていたようで、三つのメディアの選手採点表の記事が別にあったが、岡崎と香川がダントツなのである。上記ルッケージと同様に「攻『防』に最もよく働いた」と褒めていた。あれだけ頻繁に下りてくる日本人らしい勤勉さを評価したわけだが、岡崎はもちろん、香川も走れるのだろう。
韓国戦については編集部の採点表があったが、長谷部と本田が最高点だった。韓国が挑んだ体力勝負に堂々と応えて、中盤では長谷部が、前戦では本田が勝っていたということに違いない。韓国は、二人が引っ張った日本のこの「激変」に驚いていたようだ。
(以下略) 】