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サイケおやじの生活と音楽

荒木一郎のほろ苦い魅力

2009-09-19 12:12:35 | Singer Song Writer

君に捧げるほろ苦いブルース / 荒木一郎 (Trio)


昭和の大衆芸能界にあって、荒木一郎の存在は今も強い印象を残しています。

一番有名な活動は昭和40年代後半にヒットを連発していた元祖シンガーソングライターの時代かもしれませんが、同時に俳優としても名演を多数残しています。

と言うか、荒木一郎の芸歴は名女優の荒木道子の長男として、その素晴らしい資質を受け継いだ俳優業がスタートでした。そして東映ヌーベルバーグともいうべき「893愚連隊(昭和41年・東映・中島貞夫監督)」でのクールで軽妙なチンピラ役が絶賛され、以降は東映や日活を中心に活躍していくのです。

しかし同時に、その音楽的な才能も各方面から注目され、ラジオでのレギュラー番組「星に唄おう(ニッポン放送)」で披露されるオリジナル曲は次々にレコード化され、例えば昭和41(1966)年のレコード大賞新人賞を獲得した「空に星があるように」、エレキ歌謡の大名曲「今夜は踊ろう」や「いとしのマックス」等々は、まさに皆様が一度は耳にしたことがあろうと思います。

そうした経歴や活動は同時期の加山雄三との比較が連想されますが、加山雄三が明るく屈託の無い雰囲気であるのに対し、荒木一郎はどちらかといえば陰の魅力が大きいというところでしょうか。しかしそれは、決してマイナーということではなく、資質の違いというだけで、その才能は勝るとも劣らないのです。

いや、むしろスクリーンで演じる独特の屈折感やオトボケが絶妙のカッコ良さに結びつく個性は、歌の世界でも唯一無二の魅力になっています。

さて、本日のご紹介は昭和50(1975)年に発売された、如何にもそんな荒木一郎らしい自作曲のシングル盤で、B面の「ジャニスを聴きながら」が、あおい輝彦の大ヒットとしてお馴染みの自演バージョンというのも、嬉しいカップリングです。

で、A面の「君に捧げるほろ苦いブルース」は極言すれば当時流行のせつない系歌謡フォークなんですが、そこは荒木一郎ですから、自嘲と屈折、さらに昨日と明日がそこにあるから今日、この時があるというような、実に心に染み入る和風ハードボイルドな名曲だと思います。

そのアレンジもまた、シミジミとした歌い出しからチンドン屋系の陽気なオールドジャズ風味が、尚更にせつないムードを演出していますから、荒木一郎が特有の鼻歌のような歌いっぷりがジャズトミート♪♪~♪

個人的にも昭和50年当時の、幾分やるせない気分が、聞く度に蘇ってくるのです。

またB面の「ジャニスを聴きながら」は、あおい輝彦のそよ風のようなバージョンとは異なり、粋と倦怠が両立したようなムードの、これも荒木一郎でなければ醸し出せない味わいが最高のシティ派ポップス♪♪~♪

ちなみに両曲とも、同じ頃に発売された久々のオリジナルアルバム「君に捧げるほろ苦いブルース」からのカットですが、そこにはもうひとつの名曲名唱となった「りんどばーぐスペシャル」が入っていますから、このあたりは、ぜひとも聴いていただきとうございます。

ちなみに荒木一郎は様々なスキャンダルや多芸多才、楽曲提供やプロデュースの仕事も多数やっていますが、中でも東映ポルノ女優として大ブレイクした池玲子や杉本美樹のマネージメントやプロモーションでの功績は忘れられないところです。もちろん自らも出演しているわけですが、それらの映画作品でのサントラ音源制作も無視出来ないと思います。そして、このあたりが現在、各種のDVDやCDで楽しむことが出来るのは幸いです。

ということで、近年は全くの沈黙期に入っているのが惜しまれますが、やっぱり荒木一郎は昭和の芸能界を大いに面白くした才人として忘れられないのでした。

コメント (13)
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