OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ビーチボーイズの向日葵

2009-09-25 10:10:37 | Beach Boys

Sunflower / The Beach Boys (Brother / Reprise)

今日ではビーチボーイズの人気盤ベスト5に入ろうかという評価も眩しい名作ですが、リアルタイムでは日蔭者だったと思われるのが、本日ご紹介のアルバムです。

ご存じのようにビーチボーイズと言えば、サーフィン&ホットロッド♪♪~♪ R&Rのビートにフォーフレッシュメンのようなオープンハーモニーのコーラスをミックスさせた温故知新の音楽性に加え、ブライアン・ウィルソンという天才の作りだす名曲とサウンドプロダクトの素晴らしさは、1960年代前半のアメリカや世界中を熱狂させました。

しかし1967年頃からは、あの世紀の名盤「ペットサウンズ」のリアルタイムでの大コケもあって、本国では落ち目の三度笠……。当然ながらビートルズとの戦いにも敗れ、我国でも急速に人気を失っていったのは、紛れもない事実です。

ただしイギリスでは逆にビートルズを上回る評価と人気があったというのですから、世の中は分かりません。

それでも実際、当時のビーチボーイズが作っていたアルバム群は正直、聴くのが辛いことは否めません。何故ならば、そこには持ち味のオープンハーモニーも無くなり、ロックの力強さを追及しようとしてはガサツな歌と演奏しか残せず、サイケデリックに走れば、チープなデモテープ並みの結果しか……。

まあ、このあたりは今聴くと、それなりに気持良かったりするのですが、少なくとも1960年代末頃の我国では、ビーチボーイズは過去の遺物として、ラジオから流れる曲も夏場のサーフィン物ばかりというのが現実でした。

そして当然、サイケおやじにしても「Good Vibrations」を境にして、ビーチボーイズのレコードを買うことも無かったのです。

こうして時が流れました。

それは昭和46(1971)年の春、私はレコード屋で偶然にも、このアルバムを聴き、久しぶりにビーチボーイズの名前を認識しました。それまでの思い込みで彼等は時代遅れのサーフィン、と決め付けていた私の耳に入ってきたのは、当時人気絶頂だったクロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤングにも負けない爽やかコーラスと、抜群のポップ感覚に満ちた楽曲でした。それはまさしく、時代の先端を行くロックだったのです。もちろん、その場でお買い上げ♪♪~♪ それからしばらく、このアルバムは私の愛聴盤になったのです。ビーチボーイズはイイなぁ~♪ 心底、そう思っていました。

ところが、そこには裏があったのです。

私が買った日本盤にはA面のド頭に「Cotton Fields」が入っていたのですが、これはご存じのとおり、アメリカの有名なフォークソングのカパーですが、ビーチボーイズはこれを2バージョン、公式発表しており、ここに入っていたのは1970年春にキャピトルから出された最後のシングル盤のテイクです。

しかし、このアルバムのオリジナルの発売元はリブリーズですから、当然ながらアメリカ盤にはキャピトルが権利を持つ「Cotton Fields」は入っていないのです。もちろん、そのシングル自体がヒットしていませんでした。

ところが欧州各国では大ヒット! 実際、それはカントリーロックとビーチボーイズならではのハーモニーコーラスが冴えた名演名唱なんですから、全く不思議もないわけですが、このあたりにも本国アメリカでのビーチボーイズの苦しい立場が明らかになっています。

つまりそれまで契約していたキャピトルとは関係が悪化しており、そこにはグループ内のゴタゴタやブライアン・ウィルソンの不調が大きな要因となっていたことは、言わずもがなでしょう。それゆえにプロモーション活動も停滞していましたし、アメリカ国内巡業も手詰まりだったようです。

結局、ビーチボーイズは自ら「Brother」という制作レーベルを立ち上げながら好結果を残せず、このアルバム発表時からリブリーズへと移籍したわけですが、そんな本国での状況とは裏腹に、イギリスやヨーロッパでは人気がさらに高まっていたのですから、現実は複雑です。そして新作発表時には欧州で大ヒットしていた前述の「Cotton Fields」を強引に入れることが出来たのも、配給会社がEMI系列のステイトサイドになっていた所為だと言われています。当時、東芝から発売された日本盤が、それに追従したのも無理からん話だったんですねぇ。

しかし、少なくとも、その日本盤LPに収録の「Cotton Fields」は、明らかに疑似ステレオ仕様でしたし、それはそれで非常に気持の良い歌と演奏だったんですが、アルバムを通して聴いた場合、微妙な違和感があったのは確かです。なにしろオリジナルのアメリカ盤に関する事情を知らなかったのですから……。

そして私が、その事実を知ったのは2年ほど後のことです。

またビーチボーイズの内部事情や、それまで聴いていなかった、その間のアルバムやシングル曲について興味を抱くようになったのも、同時期でした。愛聴盤となっていた、この「サンフラワー」のアメリカ盤を買い直したのも、その頃です。

 A-1 Slip On Through
 A-2 This Whole World
 A-3 Add Some Music To Your Day
 A-4 Got To Know The Woman
 A-5 Dairdre
 A-6 It's About Time
 B-1 Tears In The Morning
 B-2 All I Wanna Do
 B-3 Forever
 B-4 Our Sweet Love
 B-5 At My Window
 B-6 Cool, Cool Water

まずジャケ写のとおり、陽だまりの中にいるメンバーと子供達の和みが、そのまんまビーチボーイズの歌とコーラスに表現されたかのようなアルバム全体のムードが最高です。

曲メロの豊潤さ、卓越したコーラスワークの素晴らしさ、またロックの新時代に対応した力強さも印象的で、それは冒頭の「Slip On Through」で既に全開! 短いのが残念なほどの充実度は、何時までも聴いていたい欲求へと繋がり、それは続く「This Whole World」での、ハッとするほど鮮やかな曲展開、さらにせつなくて爽やかな和みの世界を現出させる「Add Some Music To Your Day」という流れの中で、これぞ至福のポップスワールド♪♪~♪

しかし、これは明らかに一般的なビーチボーイズのイメージとは異なる世界です。

それはビーチボーイズといえばブライアン・ウィルソン&マイク・ラブという基本から、バンド全員による集団指導体制に移行したという結論なんですが、実際、メンバー各々が曲作りに深く関わり、特にデニス・ウィルソンとブルース・ジョンストンの活躍が尚更に顕著です。

例えばソウルフルな「Got To Know The Woman」やモータウン系の「It's About Time」、壮大な思わせぶりが素晴らしい「Forever」はデニス・ウィルソンの才能が見事に開花した証でしょうし、一方、ブルース・ジョンストンは甘酸っぱい大名曲「Dairdre」やビートルズっぽい「Tears In The Morning」で流石の心情吐露♪♪~♪

そしてアル・ジャーディンも得意のフォークタッチを活かした「At My Window」で、夢見るような世界を聞かせてくれますよ。

気になるブライアン・ウィルソンも久々に天才ぶりを披露して、泣きそうになるほどに胸キュンの「All I Wanna Do」は、サイケおやじの永遠のテーマソングになっているほどですが、そうしたマイク・ラブとの共作トラックは、実は幻となったアルバム「スマイル」の残滓に手を加えたものという真相が、哀しくもあります。

その意味でオーラスの「Cool, Cool Water」は、まさにサイケデリックとドリーミーポップスの理想的な融合として、私は大好きです。まあ、このあたりは賛否両論が渦巻くとおり、凝り過ぎと理想のアンバランスな部分は認めざるをえませんが……。

ただし、この曲も含めて、全篇で楽しめるビーチボーイズならではのコーラスの快感は唯一無二! これがある限り、ビーチボーイズは不滅だと思いますねぇ~♪

そしてサイケおやじは以降、リアルタイムでビーチボーイズの新作アルバムを聴くことになり、次に出た「サーフズ・アップ」で更に瞠目させられるのですが、それは別の機会に譲ります。

ちなみに最初に買った日本盤「サンフラワー」のLPは所謂赤盤でしたから、後に某コレクターに高値で引き取られていきました。私にしては珍しく「帯」も残していたのが結果オーライだったようですね。

まあ、それはそれとして、このジャケットに写る6人組こそが、実はビーチボーイズ最強の時代だったと今は思っています。演奏についてはスタジオミュージシャンが関与しているのは明らかですし、ライプの現場では、もう少し後のブロンディ・チャップリンやリッキー・ファターが在籍していた時期が最高だと思いますが、如何にも「らしい」音作りとポップス王道の路線が、まだまだビーチボーイズの現役としての存在感を力強く示していたのは、このアルバムから3年間位だったと思います。

しかし残念ながら、アメリカでは全く売れなかったんですよねぇ……。もちろん日本でも全くの無視状態でしたし、人気が継続していたイギリスでさえ、中途半端な売れ行きだったのですから、本当に世の中は不条理です。

それが近年、どうして人気盤となったのか、それすらも私は理解していません。というか、リアルタイムで愛聴していたサイケおやじは、そんな時代の変化や流れについていけないオールドウェイヴを自覚するばかりなのでした。

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