OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

昭和40年代末の音がする

2008-01-04 16:40:45 | Jazz

新年の挨拶まわりで、どうしても思い出せない相手から親しく言葉をかけられました。はて、ダレだっけ……。

知らない相手に話を合わすという芸当が出来ない私は、大いに困惑したのですが、ふとした事から気がつくと、私が十代の終り頃に通っていたジャズ喫茶で、サラ回しをやっていた人でした。

あぁ、懐かしいなぁ♪ 今はもうジャズ関係の仕事ではないそうですが、何となく感慨深くて、当時流行っていた、こんなアルバムを聴いてみました――

Tune-Up / Sonny Stitt (Cobblestone)

モードもフリーも煮詰まって、電化ジャズにも馴染めない1970年代前半のジャズ喫茶に、突如として熱気をもたらしたのが、このアルバムでした。

リーダーのソニー・ステットは、ビバップ魂溢れる正統派のサックス奏者でありながら、実はコテコテ系ソウルジャズや電化物にも手を染めていたという物分りの良いミュージシャンでしたが、やはり本領は4ビートの真っ向勝負!

このセッションでは見事にそれを実証していますから、忽ちネオパップとか呼ばれて、ハードバップがリバイバルするきっかけとなった1枚です。

録音は1972年2月8日、メンバーはソニー・ステット(as,ts)、バリー・ハリス(p)、サム・ジョーンズ(b)、アラン・ドウソン(ds) という、激動の1960年代を生き抜いてきた、本気でしぶとい面々です――

A-1 Tune-Up
 マイルス・デイビスが書いたことになっているハードバップの定番曲を豪快に吹きまくるソニー・ステット! テナーサックスで淀みないフレーズを連発してくれますから、バックのリズム隊が逆に引っぱられる感じです。もちろん、そうした必死さが好演に繋がっているのは、言わずもがなです。

A-2 I Can't Get Started
 一転して悠然と吹奏される有名スタンダード♪ このメロディの節回しが実にジャズ喫茶に合っていたのですねぇ。サム・ジョーンズの力強いサポートも素晴らしく、ソニー・ステットもアルトサックスで熱演しますが、決してヒステリックにならない歌心優先主義♪ バリー・ハリスも追従しますが、実はサム・ジョーンズのベースにばかり耳が行ってしまうのでした。

A-3 Idaho
 またしてもテナーサックスで豪快に吹きまくるソニー・ステットの名演です。ただしブレイクでちょっとミスってから、最初は調子がイマイチ……。そこから快調なアドリブに盛り返していくあたりが、ジャズの醍醐味かと思います。
 ラストテーマの変奏は、まさに名人芸でしょうねぇ~♪

A-4 Just Friends
 これもモダンジャズでは定番のスタンダードということで、手慣れた感じもするのですが、あまりテーマメロディをしっかり吹かず、最初っからアドリブっぽい展開に進めていくソニー・ステットは流石です。
 それとバリー・ハリスの和みのピアノ、電気のアタッチメントがあるものの、それでもサム・ジョーンズがビンビンにベースの軋みを聞かせてくれますから、たまりません。

B-1 Blues For Prez And Bird
 タイトルどおり、レスター・ヤングとチャーリー・パーカーに捧げたブルースで、ソニー・ステットはテナーサックスを吹いています。
 まずスローな展開でじっくりとブルースを醸造させていくハンドの一体感が素晴らしく、グッとくるイントロから絶妙の伴奏まで、バリー・ハリスの活躍が目立ちます。もちろん「間」を活かしてインタープレイの妙技を聞かせるサム・ジョーンズ、地味ながらビートを完璧にキープするアラン・ドウソンが実に良い雰囲気です。
 そして後半はジワジワと情熱を発散させて山場を作っていく、ソニー・ステットが十八番の展開に! ただし決して大袈裟な事はしていなんですねぇ。それでも気持ちよくノセられてしまうのでした。

B-2 Groovin' High
 ディジー・ガレスピーが書いたビバップの聖典曲ですから、ソニー・ステットもアルトサックスでチャーリー・パーカーに迫っています。しかし結果はエキセントリックな恐さよりも、楽しいジャズになっているのですから、これこそがソニー・ステットの資質と魅力なんでしょう。
 実際、ほとんどマイナースケールを吹かないソニー・ステットは、それ故に我国ではイマイチ人気がないと感じます。もちろん抜群のテクニックと流麗なフレーズ、楽器の鳴りっぷりは超一流なんですけれど……。

B-3 I Got Rhythm
 オーラスはジャズ創成の秘密が込められた循環コードの名曲ですから、ソニー・ステットはテナーサックスでレスター・ヤングへのトリビュートに撤しています。あぁ、イタダキのフレーズが次々と流れてきますよ。
 そして後半はアルトサックスに持ち替えての大熱演! リズム隊とのコンビネーションも最高潮ですし、アラン・ドウソンの緊張感満点のドラミングは、やや録音が悪いので勿体無いです。

ということで、古い演目を新しい録音でという目論みから、まず、ソニー・ステットのサックスの鳴りが、素晴らしく記録されています。ただしドラムスが少し引っ込み気味で、これは本来パワー派のアラン・ドウソンにしては拍子抜けかもしれませんが、反面、繊細でビシッとキマるドラミングが、意想外に楽しめます。

結局、こういうアルバムは大音量のジャズ喫茶が一番似合うという皮肉があって、ますます我国で人気を集めたようです。

もちろんソニー・ステットは何時も一生懸命なミュージシャンですが、極論を言えば、このアルバム1枚持っていればOKという感じもするんですねぇ。つまり傑作であり、代表作だと思います。

う~ん、これを聴いていると、私は間違いなく昭和40年代末のジャズ喫茶にタイムスリップするのでした。

コメント
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