大相撲も東西横綱の対決で優勝が決するというメデタシメデタシ!
しかしショッキリみたいな感じも否めませんが……。
ということで、本日は――
■Bohemia After Dark (Savoy)
ジャムセッション盤は特定のリーダー名を記載していないアルバムがほとんどですが、明らかに新スタアを売り出そうとして企画されたセッションを纏めたブツも少なくありません。
これもそうした1枚で、メンバーはドナルド・バード(tp)、ナット・アダレイ(cor)、キャノンボール・アダレイ(as)、ジェローム・リチャードソン(ts,fl)、ホレス・シルバー(p)、ポール・チェンバース(b)、ケニー・クラーク(ds) という超豪華セッション! しかしこれは当時のニューヨークジャズ界を震撼させていたキャノンボール・アダレイの売り出しを図ったセッションです。
キャノンボールとナットのアダレイ兄弟が注目されたのは、今では伝説化している1955年6月19日のカファ・ボヘミアでの飛び入りセッションで、当夜そこに主演していたオスカー・ペティフォードのバンドは、ホレス・シルバー、ケニー・クラークを入れたリズム隊にジェローム・リチャードソンという布陣だったのですが、なんかの都合でジェローム・リチャードソンがステージに現れず、そこでキャノンボール・アダレイが飛び入りしたと言われています。
もちろんフロリダから出てきたばかりのアダレイ兄弟を知っている者など、その場には誰もおらず、しかし圧倒的な存在感でバリバリに吹きまくったという評判が、キャノンボール・アダレイの鮮烈なデビューでした。
そしてこのアルバムは、その世の伝説を再現すべく企画されたというわけですから、メンバーも極力、その日のギグを意識しているのです。ちなみに録音は1955年6月25日とされていますから、まさに直近の勢いが記録されているのです――
A-1 Bohemia After Dark (1955年6月25日録音)
伝説の店となった「カファ・ボヘミア」にちなんだオリジナルで、残念ながら作者のオスカー・ペティフォードが参加していませんが、一応ここでのバンマスはケニー・クラークのようですから、熱い演奏が迸ります。
まずテンションの高いテーマの合奏からアドリブの先発がドナルド・バード、そして続くのがナット・アダレイですが、真打キャノンボールの露払いという感は否めません。
そのキャノンボール・アダレイは、些か押え気味ながら、独特のタメが効いたグルーヴィな雰囲気が最高です。またリズム隊が抜群に素晴らしいですねぇ~♪ 特にホレス・シルバーのピアノはビートはニュアンスが完全にビバップから飛躍しているようですし、ポール・チェンバースのブンブンべースも圧巻です。
A-2 Chasm (1955年6月25日録音)
アダレイ兄弟が書いた楽しいハードバップで、ケニー・クラークのビシバシドラミングに煽られた快演が聴かれます。
アドリブ先発はジェローム・リチャードソンのテナーサックスで、なかなか硬派な熱演! 続くキャノンボール・アダレイも火の出るようなウネリのアドリブに撤しますから、たまりません。
その夜の因縁も絡んで、これはなんとも凄い共演が、しっかりと記録されているのでした。もちろんリズム隊の煽りも最高!
A-3 Willow Weep For Me (1955年6月25日録音)
これはキャノボール・アダレイが一人舞台で、ブルースに彩られた歌物の名演を聞かせてくれます。う~ん、ほどよい毒々しさはデビュー当時から完成されていたんですねぇ~♪
ハードボイルドなリズム隊との相性も最高です。
A-4 Late Entry (1955年6月25日録音)
これもカッコイイ、アダレイ兄弟のオリジナル曲で、絶妙のファンキーさがミソ♪ アドリブパートはナット・アダレイからジェローム・リチャードソンのフルートに繋がりますが、共に熱演ですし、ホレス・シルバーのクールで熱い伴奏も聴き逃せません。
B-1 Hear Me Talkin' To Ya (1955年6月25日録音)
これまたウルトラファンキーなブルース大会で、初っ端からホレス・シルバーが大活躍♪ ミディアムのグルーヴィなテンポも最高ですし、ギシギシ軋るポール・チェンバースのベースに加えて、生々しいケニー・クラークのハイハット&シンバルにグッときます。
そして呻くようにアドリブするキャノンボール・アダレイ、ややオトボケのナット・アダレイが対照的ですから、キャノンボール・アダレイが再び登場してファンキーに軌道修正! するとドナルド・バードが、これぞハードバップという名演を披露するのでした。
あぁ、この粘っこい雰囲気は、時代の空気というものかもしれません♪
B-2 With Apologies To Oscar (1955年6月25日録音)
このアルバムで一番熱い演奏! アップテンポの陽気なテーマから全員が入り乱れてのアドリブ合戦が痛快です。
それはまずドナルド・バードの流麗な快演でスタート♪ 続くキャノンボール・アダレイも豪快にキメまくり、ナット・アダレイが無節操に吹きまくるというところから、ケニー・クラークとの対決が用意されています。
そしてホレス・シルバーのアドリブが、これまた楽しさ満点♪ まさにハードバップの醍醐味が楽しめます。
B-3 We'll Be Together Again (1955年7月14日録音)
この演奏だけ、ピアノがハンク・ジョーンズに交代していますし、録音は1955年7月14日ということは、キャノンボール・アダレイの初リーダーセッションからの転用です。つまり、この辺りのセッションは、徹底的にキャノンボール・アダレイを録りまくることを第一義にしていたんですねぇ。それだけ注目度が高かった証だと思います。
肝心の演奏は、歌物スタンダードを優しく吹奏するキャノンボール・アダレイの別な顔が見事♪
ということで、ハードバップ上昇期の熱気と勢いが真空パックされたような作品です。しかも単なるジャムセッションに終わらず、前述したような明確な意図が感じられるあたりが、一筋縄ではいきませんが、同時にジャムセッション特有の腕比べ大会という趣も楽しいところです。
そしてバンマスを務めたケニー・クラークが流石の貫禄でメンバーを引き締めているように感じます。
ちなみにこのアルバムのジャケットは何種類か出ていますが、掲載したブツのキュッチュな雰囲気が一番、気に入っております。