それは働き盛りの30代。今頃の忘年会だった。山形県の宿に到着して。そこは炉端焼きの囲炉裏のある、仕切られた宴会場だった。
万年幹事なので、まず風呂に入る前に準備に掛かった。一人ひとりの逸話に関わる面白おかしい短冊を、鴨居に貼っていった。人数分は準備したので15人内外はあったと思う。貼り終わる前に、気分が悪くなった。オレは人より高い場所の空気を吸っている。まだ火を起こしたばかりで、炭が不完全燃焼していたんだろう。
万年幹事なので、まず風呂に入る前に準備に掛かった。一人ひとりの逸話に関わる面白おかしい短冊を、鴨居に貼っていった。人数分は準備したので15人内外はあったと思う。貼り終わる前に、気分が悪くなった。オレは人より高い場所の空気を吸っている。まだ火を起こしたばかりで、炭が不完全燃焼していたんだろう。
本能が、その場を離れろと言っている。その旅行中に、あれはCO中毒だという認識は無かった。ただ、この場に居ちゃダメだと思った。それからずっと雲の上を歩いているようだった。足元がふわふわする。頭から魂が抜けそうだった。頭が上下しているのか。魂が行ったり来たりしているのか。とにかくふわっふわだった。
自分の部屋に戻って横になった。宴会の時間になっても、気分は変わらず、先に始めてくれと言って寝ていた。結局、宴会場に行くことは無かった。誰かが短冊を読んで、宴会は進んだようだ。
そうやってふわふわしたまま、夜が明けた。朝メシの会場に行った時もふわふわだった。一応、お膳のものを食べた。そして帰りのバスに乗った。帰りもふわふわだった。「大丈夫か」と聞かれた時は「うん、大丈夫」と答えたんだろう。外から見て、魂が出入りしているのが見えるはずもない。オレはオレで、せっかくの旅行を台無しにしたくなかった。管理職が全員、居るからね。
で、帰って来て、正気に戻った時、あーあれはCO中毒だ。と分かった。宿を責めるわけにもいかない。しゃがんで、せっせと支度する従業員は、きっと何ともないだろう。高い所の空気を吸った者だけが分かる話だ。しかも普通、不完全燃焼している間に長い事、天井の空気を吸う人間は居ない。
ただ、おかしいと思った瞬間に、「離れろ」と誰かに言われたような気がした。「戻っちゃダメだ」と言われた気がした。多分守護神さまが、教えてくれたんだろう。