1981年のフランス映画の大作ドラマである。
恋愛映画の傑作「男と女」(1966年)のクロード・ルルーシュ監督が、流麗な音楽と美しい映像で映像で綴った作品だ。
ヘルベルト・フォン・カラヤン(指揮者)、グレン・ミラー(音楽家)、ルドルフ・ヌレエフ(バレエダンサー)、エディット・ピアフ(歌手)といった四人の国籍の違う実在の芸術家たちをモデルに描いている。
ドラマは音楽&舞踏の芸術劇の様相を呈し、芸術家たちのドラマティックな人生模様に心揺さぶられる。
第二次世界大戦をはさんで、数々の困難を潜り抜けてきた彼らの、奇跡とも思えるコラボレーションを演出したのは、多彩なサウンドを提供したミシェル・ルグランであり、超絶技巧のテクニックで「ボレロ」を舞い踊る天才バレエダンサーのジョルジュ・ドンで、彼らスターたちが繰り広げるアラベスクに陶然とする。
半世紀の時を経て、運命の糸に結ばれた四家族の物語は、名振付師モーリス・ベジャールの“ボレロ”によって、デジタルリマスター版で現代のスクリーンに見事によみがえった。
1936年モスクワ・・・。
ボリショイバレエ団のプリマのオーディションで敗れたタチアナ(リタ・ポールフィールド)は、帰り際に選考委員のボリス(ジョルジュ・ドン)に声をかけられたのをきっかけに、二人は結婚する。
だが、スターリングラードの攻防戦でボリスは戦死、残された幼い息子セルゲイを育てながら、タチアナはバレエを続ける。
そして両親の才能を引き継いで、ボリショイバレエ団の名ダンサーとして成長したセルゲイ(ジョルジュ・ドン二役)は、最高の人気を得るが、60年のオペラ座公演を機に西側へ亡命する。
母のタチアナは、モスクワでセルゲイの成長を見守る。
1937年パリ・・・。
キャバレー“フォーリー・ベルジェール”のバイオリニストのアンヌ(ニコール・ガルシア)は、演奏中にピアニストのシモン(ロベール・オッセン)の熱い視線を感じ、二人はやがて結婚し、幸せな日々を送るのもつかの間、ユダヤ人であったためナチのパリ占領で収容所送りとなる。
乳飲み子を抱いて列車に乗って二人だったが、赤ん坊を助けたいと、ある駅で列車の外に赤ん坊を置いていった。
シモンはガス室で死亡し、終戦を迎えて無事救出されたアンヌは、シモンを失った悲しみを乗り越えて、昔の仲間と作った音楽隊で地方を巡りながら、置き去りにした子供の行方を探すのだった。
子供は捨てられたのちに、その土地の牧師のもとで育てられ、ダビッド(ロベール・オッセン二役)と名付けられ成長していた。
彼はアルジェリア戦争に参加し、除隊ののちパリで作家として成功する。
そして、精神病院に入っていた生みの母アンヌと奇跡の再会を果たすのだった。
同じパリで、ナイトクラブの歌手をしていたエブリーヌ(エブリーヌ・ブイックス)は、ナチの軍楽隊長カール(ダニエル・オルブリフスキ)と出会い彼の子を宿すが、敵に身を許した卑しい女と蔑まれ、パリを追放になり故郷で子供を産む。
そこで私生児として祖父母に育てられたエディット(エブリーヌ・ブイックス二役)は、パリに出て貧乏暮らしをしながらショウガールになり、やがてテレビのニュースキャスターになる。
エディットの実の父であるカールは、1938年ベルリンでヒトラーの前でベートーベンを演奏して認められ、パリでの軍楽隊長としての仕事を終え、妻マグダ(マーシャ・メリル)のもとに帰るが、愛児は戦死していた。
戦後指揮者として成功した彼は、妻とともに、ニューヨークのメトロポリタン歌劇場で米初演を果たすが、ユダヤ人によるチケット買い占めで、観客はわずか二人という屈辱を味うことになる。
1939年ニューヨーク・・・。
人気ミュージシャンのジャック・グレン(ジェームズ・カーン)は、ヨーロッパ戦線に参加後アメリカに戻ってm妻で歌手のスーザー(ジェラルディン・チャップリン)を交通事故で失う。
娘のサラ(チャップリン二役)は、親の血を受けて同じ歌手として成功し、息子ジェイソン(ジェームズ・カーン二役)はサラのマネージャーになる。
そして1981年パリ・・・。
トロカデロ広場には多くのの観衆が詰めかけ、いまから始まるユニセフ・チャリティ・コンサートを待ちわびていた。
テレビの進行役はエディット、踊り手はセルゲイ、歌うのはサラとダビッドの息子パトリック(マニュエル・ジェラン)だ。
運命の糸に操られるように、これらの芸術家たちがいま一堂に会し、ひとつの楽曲「ボレロ」のもとに結集されたのだった。
映画の方は俳優の一人二役もさることながら、登場人物があまりにも多く、ドラマの構成とともに人物をよくのみこんで理解するのはかなり困難な代物だ。
でも、名優がこれだけ揃うと、さすがに見ごたえは十分だ。
映画史上,伝説として残るだろうといわれる最後の15分間は、名曲「ボレロ」をバックに躍動するセルゲイの、息をのむようなその力強い素晴らしさに感嘆する。
この圧巻のラストシーンは、映画冒頭でもちょっと紹介される。
この作品を見ずして、フランス映画を語ることはできない。
1930年代から現代にいたるまでの、波乱に満ちた愛とさすらいの人生を通して、男と女、親子の絆を高らかに謳い上げて、文句なしの大作である。
クロ-ド・ルルーシュ監督のこのフランス映画大作ドラマ「愛と哀しみのボレロ」は、是非とも映画館で観たい逸品だ。
クロ-ド・ルルーシュに「シェルブールの雨傘」(1964年)のミシェル・ルグラン、「男と女」(1966年)のフランシス・レイの音楽、 モーリス・ベジャールの振り付けに天才バレエダンサーのジョルジュ・ドンという、見事なコラボレーションがラストシーンに用意された「ボレロ」の一大スペクタクルシーンに、誰もが大いなる感動を禁じ得ない。
これが映画だ。
もう一度見たくなるような作品だ。
[JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点)
次回はフランス・イタリア・ブラジル合作映画「セバスチャン・サルガド 地球へのラブレター」を取り上げます。
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でも、やっぱり映画は「みてナンボ」ですよね。観ないことにはなんとも。