人は誰でも、他の誰かとつながりたいと考えている。
それが生きることであり、その証だからだ。
ジョン・タトゥーロ監督の、脚本、主演三役によるアメリカ映画である。
小粋で笑える、ちょっぴりほろ苦い、大人のファンタジックな物語と言おうか。
人生とはかくも愛おしいものか。
喜びも悲しみも、一切をひっくるめて・・・。
冴えないアルバイトを続けている男性が、ふとしたきっかけでジゴロ(男娼)となり、顧客の女性と心を通わせていく。
14年ぶりに自作以外の映画に出演したウディ・アレンと、ジョン・タトゥーロ監督(主演)の共演が見もので、二人のとぼけたやりとりが絶妙の味を出している。
ブルックリンの本屋店主マレー(ウディ・アレン)は、代々続いてきた店が閉店に追い込まれ、苦悩の日々を送っていた。
そんな時に思いついたのが、定職にもつけずに花屋でアルバイトをする友人フィオラヴァンテ(ジョン・タトゥーロ)をジゴロに仕立て、男娼ビジネスをスタートさせようというものだった。
この迷案(?!)を持って、戸惑う友人を必死で口説き、ジゴロ稼業を開業させるのだが、以外にもクールでダンディなジゴロは、セレブな女性たちをたちまち夢中にさせていく。
フィオラヴァンテの最初の相手は、マレーのかかりつけの皮膚科のパーカー医師(シャロン・ストーン)で、その恋人セリマ(ソフィア・ベルガラ)にも紹介され、、ビジネスは順調に滑り出した。
そして、ジゴロのフィオラヴァンテが、顧客であるはずのある未亡人のアヴィガル(ヴァネッサ・パラディ)と恋に落ちてしまい、厳格なユダヤ教徒である彼女と、二人はお互いに惹かれあい、恋人同士のようにデートを重ねていく。
二人の運命は、思いがけない方向へ転がっていく・・・。
ニューヨークを舞台に繰り広げる、大人のラブストーリーだ。
全編に奏でられる名曲の数々、ウディ・アレンのアドリブの効いたシニカルで粋な会話、一夜限りであろうと本気であろうと、優しいまなざしで女性たちを魅了する(?!)タトゥーロの、ロマンティックで切ない大人の恋が胸にキュンとくる。
失敗もあれば成功もある。それが人生だ。
お世辞にも美男子とは言えないジゴロが、女性たちを魅了してしまうのは、常に女の話の聞き役に回り、女の頭と心がいま何を求めているかを読み解き、彼女たちにどこまでも優しく、人間として扱うように接する術を心得ているからだ。
そんなとき、男は美男である必要はないのだ。
ジョン・タトゥーロ監督がここで描いている、多種多様な女性像が興味深い。
ハリウッドとフランスの誇る、二人の女優の艶やかな共演も楽しい。
無表情のタトゥーロと饒舌なアレンは対照的だが、ここでもアレンの方が場面をさらっている感は否めない。
この人の軽妙洒脱は、年を取ってもいつも変わらない。(さすがに少し飽きてきたが)
敢えて言えば、ドラマはかなり滅茶苦茶な設定だが、アメリカ映画「ジゴロ・イン・ニューヨーク」は、どうしようもない大人たちのその時その時の心のときめきを捉えて、ほろ苦い可笑しさをかもし出している。
「生きるって、いいよね・・・」
そんな声が、どこからか聞こえてきそうである。
小粋で軽快、コミカルな作りがスパイスとなって楽しめる映画だ。
[JULIENの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点)
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この手の作品はフランスが独壇場かと思っていましたが,アメリカ映画なんですね。
アメリカにもいよいよ「小粋」が上陸してきたんですかね。
おそらく違った感じのものになるでしょう。
フフランス映画の「粋」とハリウッドの「粋」では・・・。
ここは、やはりアメリカ映画のアメリカ的な「粋」を私は感じました。
アメリカ的な、ですよ。はい。