意外性のある、一風変わった面白い作品だと思った。
官能の香り漂う、パステル画のようだ。
それが、永遠の愛でなければならなかったとは・・・。
公開から20年を経て、今でも色褪せることのない愛の形を描いている。
パトリス・ルコント監督のフランス映画が、デジタル・リマスター版でここに甦った。
椅子に座って、髪を切られているのは、中年男性アントワーヌ(ジャン・ロシュフォール)だ。
女性理髪師マチルド(アンナ・ガリエナ)の美しさに、心酔いしれている。
彼は、ある日マチルドに唐突なプロポーズをする。
少しためらったのち、アントワーヌのプロポーズをこともなげに受け入れるマチルド・・・。
二人は結婚する。
それは、ずっと少年の頃から、彼の思い描いていた夢だったのだ。
その日から、理髪店は二人の生活のすべてとなった。
結婚式も、お酒を飲んで酔っ払うのも、時にはお客さんがいるにもかかわらず、愛の行為を行うのも・・・。
この店が、愛し合う二人の世界のすべてだった。
そして、この満ち足りるほどの幸せな日々は、誰の目にも、永遠に続くかのように見えたのだったが・・・。
初公開が20年前だから、いうなれば旧作なのだが、男と女の謎めいたロマンティシスズムが、一味変わった描かれ方で、くすぐるような笑いが話題をさらった。
パトリス・ルコント監督というと、「仕立て屋の窓」「橋の上の娘」などで知られる“愛の名匠”だが、このフランス映画「髪結いの亭主」も、当時、6万人を呼ぶ大ヒットとなったとはとても思えない、小さな幸せな作品だ。
店先の窓から注がれる太陽の光まで、淡いパステル画のような色調で描き出され、撮影監督エドゥアルド・セラによる映像が、また美しい。
この色彩に、陰影をつけるように、マイケル・ナイマンの穏やかな弦楽が心地よい。
スパイスのように使われるアラブ歌謡も、ピリッと効いていて、一編の短編小説のような味わいを見せる。
少年時代から、ずっと女性理髪師に憧れ、結婚まで夢見てきた、大人になったアントワーヌの子供のような歓びが、何ともおかしく、いとおしくほほえましく思えてくる作品だ。
幸せすぎる愛の形を、永遠に愛の形のまま残したい。
そういう切なる願いが、あまりにも突然の悲劇を呼ぶあたりは、にわかには理解し難いところだが、そこがまた映画なのだろうか。
ヨーロッパ、とくにフランス映画は、こうした思いがけない展開で、あっと言わせるのが得意なようで・・・。
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もちろん実家はこんなにエロティックじゃありません。ええ。
うちの両親がこの映画を観たらどう思うのかなぁ・・・。
存じませんでした。
まあ、この作品もコミカルなおとぼけがあって、監督の悪戯(いたずら)ごころで遊んでるっていう感じで・・・。
でも、いまどき女性の理髪師さんてあまり見ないような気がしますが、どうなのでしょう。