徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「エンドレス・ポエトリー」―精神的自叙伝を空想で自由に操り異色の前衛的手法で描いた作品―

2017-11-26 12:35:00 | 映画


 
 チリ出身のアレハンドロ・ホドロフスキー監督の自叙伝的映画は、前作「リアリティのダンス」(2013年)では幼少期を扱っていたが、その続編となるこの作品では、彼自身の青年期の彷徨を描き出している。
 それも、多彩で奔放な想像力を見せて、とどまるところを知らないかのようだ。
 御年88歳、ホドロフスキー監督恐るべしである。





舞台は第二次世界大戦後の1950年代、チリの首都サンティアゴ・・・。

北部の田舎町トコピージャから、家族で移住したホドロフスキー自身の青年期が描かれる。
主人公アレハンドロ(アダン・ホドロフスキー)の父ハイメ(ブロンティス・ホドロフスキー)は、娼婦や酔っ払いがたむろする下町に居を構える。
独裁的に振る舞う父に反抗して、アレハンドロは母の実家に行き、従兄のリッカルドと意気投合し、芸術家志望の仲間たちと勝手気ままな生活を謳歌していた。

そんな折り、真っ赤な髪の豊満な女詩人ステラ(パメラ・フローレンス)と出会い、詩と酒と愛欲の日々に溺れる。
だが、リカルドが親との対立で首つり自殺したことから、真剣に生きることを決意し、詩人エンリケ(レアンドロ・ターブ)との友情を育む。
しかし、エンリケの恋人と関係したことに罪悪感を抱き、サーカスの道化師となって自分の人生を笑いの中で見世物に仕立て上げる。
そして、実家が火事で焼けたことを機に父との関係を清算し、ホドロフスキーはパリへ旅立とうとする・・・。

現実をもとにしていながら、自由な空想で彩り、精神的自叙伝を作り上げており、まあ何とも破天荒、どぎつさにエロスと血の刺激に満ちている。
サーカスとか人形劇といった、大衆的舞台芸能への嗜好もたっぷりと、ホドロフスキー的なテーマはてんこ盛りいっぱいだ。
詩人になることを夢見るアレハンドロだが、権威主義的な父ハイメとは進路をめぐって対立する。
のちに世界的な詩人となるエンリケ・リンなど若い芸術家たちと交流を深めるうちに、父から押し付けられる堅実な生き方という呪縛からも解放され、詩人への道を歩み出そうとする・・・。

極彩色な映像やクラシック音楽を意識し、自分の過去を幻想的に演出し、現在から過去を楽しく生きなおしたような長編映画だ。
現実が幻想と絡み合い、両者の突飛な世界観をたっぷりと、これでもかという風に、面白く見せつけようとする。
まさに、想像が想像を招く、極彩色のスペクタクルへの連打といった感じで、瑞々しさにあふれており、時空を超えた詩人の青春を描き切っている。
その世界は決して楽園のようなものではないから、どこかでいつも、生と死はせめぎ合いを演じている。
矛盾や錯誤も多分にはらみ、それでいて新しい現実を創造し続けようとする、意気込みだけは血気盛んだ。

この種の自伝的映画3作、4作も、ホドロフスキー監督の脳裡にはもう浮かんでいるようだ。
年をとっても生きることを全肯定する、特異な〈魔法〉に満ちた映画の制作欲は、まだまだ進化し続くのか。
これというルールのない、奇妙奇天烈に展開するマジックリアリズムの世界が全編を覆っている。
この作品で主役ホドロフスキーを演じているのは、ホドロフスキー自身の4男アダン・ホドロフスキーだ。
フランス・チリ・日本合作映画、アレハンドロ・ホドロフスキー監督の「エンドレス・ポエトリー」、自由な詩人への道を歩む主人公を描いて尽きない。
映画の好き嫌いが、はっきり分かれるような作品でもあるだろう。
       [JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点
次回は日本映画「最 低」を取り上げます。