徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「生きうつしのプリマ」―家族の絆を見つめなおす成熟した大人の女性の物語―

2016-07-28 16:00:00 | 映画


 亡き母の人生を知る旅・・・。
 悩める心は、その謎が解けるとき、時空を超えて解き放たれる。

 ヨーロッパで数多くの映画賞に輝き、日本でも高い評価を受けた「ハンナ・アーレント」(2012年)マルガレーテ・フォン・トロッタ監督が、主演のバルバラ・スコヴァと再び手を組んだ作品だ。
 ドイツとアメリカを舞台に、母と娘の時を超えたサスペンス・ミステリーが展開する感動作だ。













父パウル(マティアス・ハービッヒ)から、切羽詰まった様子で呼び出された歌手のゾフィ(カッチャ・リーマン・・・。
いきなりインターネットで見せられたニュースで、1年前に亡くなった最愛の母エヴェリン(バルバラ・スコヴァとそっくりの女性が映っていたというのだ。
カタリーナ(バルバラ・スコヴァ二役)というその女性は、ニューヨークのメトロポリタン・オペラで歌う著名なプリマドンナだった。
同じ女性歌手でも、ドイツの名もないクラブをクビになったばかりのゾフィとは、住む世界も違うスターだ。

パウルはどうしても彼女のことを知りたいと、ゾフィを強引にニューヨークへ行かせる。
そして、どこかミステリアスなカタリーナに振り回されながら、ゾフィは彼女と母との関係を探っていくのだった。
オペラの人気歌手カタリーナは、個性的だが気まぐれな性格で、最初はゾフィを相手にしない。
だがゾフィが、認知症患者の施設にいるカタリーナの母に会いに行って、彼女がエヴェリンを知っていたことから、カタリーナは自分の出自に疑問を抱き始めるのだった・・・。

ドラマは、家族がもしかすると崩壊しかねない重大な母の秘密を、いとも軽やかに綴っていく。
エヴェリンの秘密が明らかになるにつれ、彼女の経験した愛の喜びと苦悩が浮かび上がってくる。
カタリーナの出自をめぐって謎は膨らんでいくが、一方でドイツにいるパウルは亡き妻の幻影に悩まされていた。
やがて舞台がドイツに戻ると、カタリーナとゾフィが異父姉妹であることがわかる。
では、カタリーナの父親は誰なのか。
愛し合っていたはずの亡き妻に「復讐される」と口走る父、母の墓に供えられる贈り主不明の花束、記憶を知っているカタリーナの母が隠す古い写真など、数々の謎が解き明かされていくとき、そこに母の真実の姿が現われてくるのだが・・・。

演出も脚本も手堅く、サスペンスフルな謎解きに惹きつけられながら、家族とは何かという巧みな問いかけを観るものに訴えてくる。
ゾフィとカタリーナ、エヴェリンとカタリーナの母という、女性たち二組の共闘を描きなつつ、エヴェリンを愛した男たちが見えてくる後半が面白い。

映像美の中で、自分たちの父母の秘密を解き明かしていく、リーマンスコヴァがとても魅力的だ。
ドイツ映画「生きうつしのプリマ」は、また軽妙なユーモアにオペラやブルースなどの音楽を散りばめた映像世界を作り上げ、実に陰影に富んでいる。
謎解きのプロセスを通して、家族に絆と確執、愛の純粋さと恐ろしさを描く。
トロッタ監督の過去の経験がベースとなっており、隅々まで知的なたくらみに満ちた映画といえる。
とりわけ、カッチャ・リーマンバルバラ・スコヴァ両女優の演技は圧巻だ。
ミステリアスで、しかも重厚な上質ドラマとくれば、爽快な感動をもたらしてくれること間違いなしである。
      [JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点
次回はアメリア映画「トランボ/ハリウッドに最も嫌われた男」を取り上げます。