徒然草

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映画「王の運命(さだめ)~歴史を変えた八日間~」―朝鮮王朝最大の謎にせまる―

2016-07-11 16:00:00 | 映画


 韓国公開初日に、26万5000人の観客を動員したといわれる。
 「王の男」(2006年)イ・ジュニク監督は、国王と王子の悲劇的な父子確執として語られる、李朝の史実を新しい歴史的解釈で映画化した。

 1762年に実際に起きた、悲劇的な父子の確執は、イ・サンの祖父との間で起きた「米櫃事件(壬午士禍)」として有名な話である。
 この作品は、新たな視点で紐解かれる、芳醇な時代劇の様相を呈していて、見応えも十分だ。













朝鮮第二十一代国王英祖(ソン・ガンボ)は、40歳を過ぎて授かった息子世子(王子)を跡継ぎとして、学問と礼法に秀でた王に育て上げようとする。
だが、芸術と武芸を好む自由奔放な青年へと育つ王子(思悼世子)ソン(ユ・アイン)に、英祖は失望と怒りを募らせていく。
英祖の抱いていた期待はかなえられず、世子もまた親子として接することのない王に、憎悪にも似た思いにとらわれて、二人の関係は悪化の一途をたどるのであった。
父子はすれ違いのまま、英祖はついに世子に自害を迫るまでに至る・・・。

英祖はいつも家臣の前で世子を罵倒し、何かといえば苛立つ冷酷さを見せる。
それは、全て王となるべき息子への愛情の裏返しであったと、死にゆく息子を前に本心をのぞかせる場面は、理解できぬでもない。
お互いに分かり合えない父子の悲劇は、そこから生まれる。
王と王子という立場や、礼節という枠にとらわれるあまり、相手の心に分け入って真摯に向き合うことを怠った結果は、現代にも通じる部分だ。

そもそも、親子、夫婦といえども、権力は分かちえない。
父と子と聞けば、いつの時代も競争関係を生み、洋の東西を問わず悲劇のドラマとなる。
英祖の時代考証は、華美を退け、悲劇的な雰囲気を突き詰めている。
世子が、精神的に錯乱に至っていたというのは新解釈だが、事実だという説もある。
しかし、結局親子に戻れなかった二人である。
親が子供に過分な期待をかけるのもどうか。

イ・ジュニク監督韓国映画「王の運命(さだめ)~歴史を変えた八日間~」は、家臣の派閥抗争を背景に、王妃ら女性たちの思惑を取り込みながら、登場する人物の心情に細やかに寄り添って、描写も的確だ。
権力闘争の中で孤独にさいなまれながら、父ではなく王としてしか生きられなかった名君を演じるソン・ガンは、韓国の国民的俳優だし、父の渇望する世子役を熱演したユ・アインは、「青龍映画賞主演男優賞」を受賞した人気俳優だ。
のちに、「思悼世子」と呼ばれる世子の死後、遺児となったサンがこのあと「イ・サン」の物語へと引き継がれていくわけである。
ドラマは、過去と現在が並行し、混在する場面もあり、朝鮮王朝史を少しでもひも解いていないと理解しずらい部分もある。
でも、十分に楽しめる底力を感じさせる映画で、激動の歴史を駆け抜けた者たちの、史劇を超えた家族史でもある。
2016年の、アカデミー賞外国語映画賞韓国代表作である。
     [JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点
次回はフランス・トルコ・ドイツ合作映画「裸足の季節」を取り上げます。