韓国気鋭のホ・ジノ監督が手がけた中国映画である。
原作は1782年に発表された、フランスの作家ピエール・ショデルロ・ド・ラクロの文学作品で、これまでにも幾度となく映画化されてきた。
今回は、1930年代の上海に舞台を置き換え、男と女の背徳的な戯れが本気の愛に変わっていくというおなじみの物語で、流麗な映像美がこのメロドラマの情感をいっそう盛り上げている。
豪華絢爛なセットと衣装、鮮やかな色彩も特筆ものだし、「四月の雪」のホ・ジノ監督としては珍しい大作で、恋愛の機微を繊細にかつ生々しく描いており、十二分に楽しむことができる作品となっている。
1931年、上海の社交界・・・。
夫を亡くした貞淑なフェンユー(チャン・ツィイー)を誘惑するプレイボーイ・イーファン(チャン・ドンゴン)と、貴婦人ジユ(セシリア・チャン)の危険な‘ゲーム’を描く。
女性実業家のジユと、裕福なイーファンはある賭けをする。
フェンユーは、亡き夫の遺志を継いで奉仕活動をしているが、彼女をイーファンが誘惑することに成功すれば、ジユはイーファンのものになる。
もし失敗したら、イーファンの土地がジユのものになるというのだ。
しかし、三人の間で繰り広げられる、危険な愛の駆け引きの行く手には、予想のできない衝撃的な結末が・・・。
純愛あり、嫉妬あり、駆け引きあり・・・、めくるめくような愛の世界に登場する俳優三人が、とても魅力的だ。
色気と気品たっぷりに、それぞれのキャラクターになりきった彼らの駆け引きに、目を奪われる。
色男イーファンの、手練手管に絡められていくフェンユーの困惑と激情を、震えを帯びた瞳や唇で表現するチャン・ツィイーの素晴しさも・・・。
そして、チャン・ドンゴンのプレイボーイぶりも、この作品の見どころのひとつだ。
作中の台詞は北京語だそうだが、北京語をちゃんと話せるのはチャン・ツィイーだけで、正確なイントネーションを彼女は自由に操る。
もともと、中国の映画会社から持ち込まれた企画だったが、現代中国は経済的に繁栄を享受しており、物質文明はいずれ衰退していくものとみられており、戦争直前の上海の華やかさと同時に退廃的な空気も描かれ、そこから現代社会の問題も見えてきそうだ。
ホ・ジノ監督の中国映画「危険な関係」は、愛を弄び、運命に弄ばれる女を描いて飽きさせない。
フランス文学の名高い傑作が、ここでまたアジアの地で花開いたか。
香港の青春恋愛映画で大人気を博し、スターダムに登りつめたセシリア・チャン、一見いかにも貞淑を絵に描いたような風情でも、深い色香を漂わせるチャン・ツィイー、男臭さの匂い立つようなチャン・ドンゴンがそこに絡んでくる。
それだけで、まさに危険な雰囲気は濃厚だが、そこに一種の至純な香りが漂っているのも、ホ・ジノ監督の真骨頂か。
ラストに大きな変更が加えられているが、それは、悲劇ののちに独り立ちを目指して一歩を踏み出すヒロインの姿である。
ホ・ジノ監督の切ない優しさとでもいおうか。
舞台は変わっても、文学的な香りとともに楽しめる一作だ。
[JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点)