徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「ある愛へと続く旅」―時を超えて紡がれる真実の愛の記憶―

2014-01-15 08:15:00 | 映画


 ペネロペ・クルスの演技
が光る一作だ。
 この作品で、ペネロペと二度目のタッグを組んだ、セルジオ・カステリット監督の演出もまた素晴らしい。
 本編の日本語タイトルはいただけないが、内容は折り紙つきで、監督の妻であるマルガレート・マッツァンティーニによる小説が原作で、世界35カ国で翻訳された。

 まだ記憶に新しいヨーロッパを背景に、男と女の普遍的な愛、母性や父性といった、人間の根源的な愛の深さを緻密に描写している。
 そこには、むき出しの愛もあれば、怒りと悲しみも熱い。
 しかも、この物語で起きていることは、心を震わせるようなドキュメンタリーの要素を多く詰め込んでいて、登場人物たちの心理描写が精緻だ。
 素直に感情移入できる。
 胸にしみるラストシーンに、魂までが浄化されそうで、大きな感動を抑えることができない。
 どうも邦題に憎らしいほど(!?)中身が伴わず、このタイトルでは秀作も台無しなのが、残念でならない。

イタリア・ローマに暮らすジェンマ(ペネロペ・クルス)のもとに、以前青春時代を過ごしたサラエボに住む旧い友人ゴイコ(アドナン・ハスコヴィッチ)から、電話がかかってきた。
ジェンマは、16歳になる息子ピエトロ(ピエトロ・カステリット)との、難しい関係を修復するためにも、彼を伴って自らの過去を訪ねる旅に出ることを決意する・・・。

・・・サラエボで、出会った瞬間に恋に落ちた若き日のジェンマと、アメリカ人写真家ディエゴ(エミール・ハーシュは、幸せな結婚をした。
仲睦まじい二人だったが、子供を熱望するが願いはかなわず、1992年のサラエボ包囲の最中に、代理母候補としてムスリム系の女性アスカ(サーデット・アクソイ)を見出し、子供を授かった。
ほどなくして、ジェンマと生後間もないピエトロは戦禍の街を逃れたが、父親であるディエゴはひとりその地に残り、後に命を落としていたのだった。

・・・ジェンマは長い月日を経て、もう一度過去の記憶をたどるうちに、恐るべき衝撃の事実が次々と分かってくる。
すべては、勃発した激しい内戦が、ジェンマとディエゴの人生を変えてしまったのであった。
そうして、立ちはだかる思いがけないディエゴとの真実と、癒されることのない重い傷を負って、とてつもなく大きく深い愛と赦しを求めるジェンマの旅の終わりは・・・。

華々しい活躍を見せる、スペインを代表する世界の女優の名をほしいままに、ペネロペ・クルスが、本作では初々しい学生時代から高校生の息子と向き合う母親まで、女性としての長い年月をリアルに体現した。
そこには、恋する女性の笑顔、愛する人を失った悲しみ、残酷過ぎる現実に向き合い、もう一度深い愛を知った時の涙が、観る者を驚嘆させる。

イタリア、ボスニア、クロアチアと舞台は変わりつつも、不倫や代理母の問題を主としてサラエボの地を舞台に描いている。
ここでは、サラエボ冬季オリンピックがあった時代、戦闘とサラエボ包囲があった90年代、そしてジェンマが旅に出る時代という、三つの歴史的時代が再構築されている。
物語は、英語、ボスニア語、イタリア語が絡み合い、あっと驚くどんでん返しが続く中、見事な感動作に仕上がっている。
いやあ、ひえ~っと本当に驚きの最終場面なのだ。
これだから、ドラマなのだ。
難しいドラマを、練りに練られた脚本が秀逸な作品に押し上げている。
この脚本の作成作業は、さぞかし難しかっただろうと思われる。
物語のキーとなるディエゴの息子ピエトロ役は、カステリット監督の実の息子である。

様々な国のキャストが、文化や人種や原語の違いを乗り越えて、よい作品を作りあげた。
登場人物のひとりひとりが魅力的で、ドラマティックなラブストーリーではあるが、ドラマの演出方法、表現方法、場面転換の妙、過去と現在の交錯、人物描写、心理描写にまで細やかな配慮が行き届いており、2時間余りでまとめた力作として高く評価したい。

セルジオ・カステリット監督の、このイタリア・スペイン合作映画「ある愛へと続く旅」(原題/VENUTO AL MONDO)は悲劇的なドラマではある。
でも、その最終章にわずかな祈りに似た希望と赦しがある。
それが救いであり、感動的だ。
つまり、愛と赦しの物語なのである。
      [JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点