これはある種のラブストーリーなのだが、ドラマの形式はここでは一切無視される。
一種の詩のようであって、実はそうではない。
テレンス・マリック監督は、この作品で映像体験をもって愛の移ろいを映し出そうとしている。
登場人物に、ほとんど会話らしい会話もない。
ささやきとモノローグが、わずかにひと続きの愛と生の記憶を物語る。
したがって、これでドラマかといった感じで、ドラマの筋といってもきわめて希薄だ。
俳優たちは、シーンに応じて即興的な芝居を演じ、夥しい転換と省略があり、普通に言われるところのドラマとしての統制は乱れている。
考えさせられるところは多々あっても、それほど敢えて大胆な省略があり、短いカットが幾つもつながる。
観ようによっては、退屈な作品ともなるだろう。
フランス西海岸モンサンミシェル・・・。
ニール(ベン・アフレック)とマリーナ(オルガ・キュリレンコ)はここで出会い、愛し合った。
十代で結婚し、娘のタチアナ(タチアナ・チリン)をもうけたマリーナは、ほどなくして夫に捨てられ、失望の人生を送っていた。
そんな彼女を救ったのが、ニールだった。
光の中で手をつなぎ、髪に触れ、潮騒をききながら愛し合う二人・・・。
しかし、オクラホマの小さな町で生活を始めると、二人の幸せな時間は長く続かなかった。
ニールは、生涯マリーナだけを愛し続けようと心に誓っていたが、彼女は前夫と正式な離婚手続きを済ませていないため、ニールと結婚できないでいた。
ニールはマリーナへの情熱を失い、やがて幼なじみのジューン(レイチェル・マクアダムス)に心を奪われる。
愛とは何か。永遠の愛は可能なのか。
愛は、彼らの人生を変え、破壊し、彼らを新たな人生に向き合わせる・・・。
登場人物の、即興のようなモノローグとささやきと、ときに無言のしぐさが断片的な映像とともに、途切れ途切れに、はかなく寂しく展開する。
ワーグナーやチャイコフスキーの楽曲と詩情あふれる映像、それらのサウンドとビジュアルの中で織りなされる、映像体験にすべて委ねられるのである。
たとえ美しく燃えた愛であろうと、それは次第に熱を失い、義務感や虚無感から後悔へと移ろうさまを、テレンス・マリック監督は容赦なく映し出していく。
観ている方が辛くなるほど、それははかないし、マリック監督の演出もかなり執拗だから、ややもすればその勿体ぶった手法に辟易する。
恐れ入ったものだ。
主役のニールとマリーナは遂に結婚を果たしながら、しかしニールはマリーナの激しい愛を受け止めることができなかった。
幸せとは、永遠には続かないものだ。
映画は時として、監督の独りよがりな演出のために、観客をそしてまた俳優たちまでを戸惑わせ、混乱させる。
が、ロケーションの舞台はいずれも、孤独と虚しさを象徴するかのように、詩情豊かで哀しくも美しい。
アメリカ映画「トゥ・ザ・ワンダー」は、そんな作品だ。
巨匠テレンス・マリック監督に敬意を表しても、この内容で上映時間112分は長い気がする。
[JULIENの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点)