徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「よりよき人生」―たとえ過酷な現実でも新しい明日を信じて―

2013-04-23 16:00:01 | 映画


 どんな困難にも屈しない。
 国境も血縁も越えた、強く新しい愛のかたちがある。
 弱いものへの風当たりが、強い現代社会への反発から始まり、家族の在り方を問いながら、若いカップルとひとりの子供の姿を丁寧に描いていく。

 若き名匠と呼ばれるセドリック・カーン監督が描く人間ドラマである。
 希望を捨てない。
 明日をあきらめない。
 未来はきっと開かれる。
 ドキュメンタリー映画を想わせる、臨場感のある心地よい作品だ。











     



ヤン(ギョーム・カネ)は、シェフを目指す35歳だ。

採用面接を受けにいったレストランで、ナディア(レイラ・ベクティ)と出会った。
二人はすぐさま恋に落ち、一夜を共にする。

翌朝ナディは、自分がシングルマザーだと打ち明ける。
彼女には、9歳になる息子のスリマン(スリマン・ケタビ)がいた。
ヤンはスリマンとすぐに打ち解け、、友達のように仲良くなる。

ある日、3人で出かけた湖畔でヤンは廃屋を見つけ、それが素敵なレストランになると直観がひらめく。
二人の手持ち金は少なかったが、なんとかその物件を抑えようと、金融業者などに掛け合うが世間はそう甘くはない。
そんなときに、ヤンに協力的だったナディアが、突然ヤンとスリマンを残してカナダへと飛び立ってしまったのだ・・・。

ヤンとナディア、そしてスリマンの3人が過ごす、湖畔の情景がいい。
しかしその幸福感は、一気に母に置き去りにされてしまった、少年スリマンの孤独と悲しさに変わる。
スリマンは、血のつながりこそない新たな父親ヤンを得て、世界を相手に格闘する彼の酷薄な物語は、ゆっくりとときに性急に紡がれていく。
それにしても、ナディはいかに生活が苦しかったとしても、何故突然遠いカナダまで脱出しなければならなかったのか。
そうではないか。
耐えることも、ひとつの人生だとすれば・・・。

この映画では、頭金がないのにヤンが開業資金を借入金で支払い、毎月の返済額を確実に用意できず、多重債務状態に陥る。
いつの時代にも、どこの社会でも、お金は暮らしていくうえでの大きなテーマで、フランスでは、多重債務については社会福祉政策の一環として行政が行っているのだそうだ。
だから、日本のように高利のサラ金は存在せず、各県に設置されている多重債務委員会が、債務者の救済にあたっているという。

現代社会がどこでも抱える貧困の問題を提起しながら、セドリック・カーン監督の作品は、思うように生きることの難しい今を、現代のパリの現実を見据えている。
ナディアの息子スリマンを演じるスリマン・ケタビは、映画初出演とは思えないが、天才子役として生き生とした存在感を見せている。
人間の心はいつだって優しさに満ちており、悲しみの涙がうっとりするような笑顔に変わる。
このフランス映画「よりよき人生」は、その一瞬の輝きが感動的だ。
上映館は少ないが、小品ながら爽快感のある人間賛歌である。
      [JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点