徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「この愛のために撃て」―逃走と追跡の圧巻のシークエンス!!-

2011-10-07 21:35:00 | 映画


     フランス気鋭の俊英フレッド・カヴァイエ監督の描く、極上のサスペンスアクションだ。
     昨今のハリウッドの娯楽大作をあざ笑うかのように、小気味よい、ノンストップ、スリングな85分間である。
     とにかく、全編にわたって、手に汗握る緊張の連続だ。
     こちらは興奮されっぱなしで、息つくひまもない。

     パリの市街地で、よくこんな作品が出来たものだ。
     やはり、映画はこうでなくてはいけない。
     そう思わせるに十分な、作品だ。
  
フランス・パリ・・・。
市内の病院に勤務する、看護助手のサミュエル(ジル・ルルーシュ)は、出産間近の妻ナディア(エレナ・アナヤ)と、慎ましくも愛情にあふれる毎日を過ごしていた。
ところがある日、サミュエルは、突然家に押し入ってきた謎の男たちに暴行され、気を失ってしまう。
彼が、携帯電話の音に目が覚めたとき、電話の向こうから、妻の泣き叫ぶ声とともに、「今から3時間以内に、お前の勤める病院から、警察の監視下にある男を連れ出せ。さもないと、妻を殺す」という声が・・・!

その男というのは、昨夜交通事故で、意識不明の重体で病院に運ばれた、ある重要事件の容疑者サルテ(ロシュディ・ゼム)だった。
妻のナディアが誘拐されたのだ。
サミュエルは理由もわからぬままに、必死の覚悟で犯人の要求に従おうとするのだったが、やがて、今度は自分が警察から追われる羽目になってしまったのだ。
自分には、ひとりの味方もいない。
サミュエルは、絶望的な状況下で、再び妻に会うために全てをかけて走り続けた・・・。
そして彼は、やがて衝撃的な真実にたどり着くことになるのだった。

ごく普通の幸せな夫婦を襲った、誘拐事件である。
タイムリミットは3時間だ。
孤立無援の救出劇は、こうして始まった。
パリの街を疾走する男の姿が、サスペンスフルに展開する。
テンポも早いし、パリ市内群衆の中を、追いつ追われつの逃走劇が繰り広げられる。

観ていて圧巻だったのは、パリ市内の地下鉄構内のシーンである。
ここでの長い追跡シーンは7分間にも及び、電車の接近してくる線路の上での逃走シーンは、実にスリリングで、重要な場面だ。
構内の撮影シーンは、行政や支援体制の点でもいろいろと問題もあっただろうが、しかしよく撮ったものだと感心する。
これだけのシーンでも、4日間かけたといわれる。
パリ市街の雑踏のなかでの、緊迫した逃走劇と同様に、失敗の許されないシーンだ。

警察内での、何もかもがひっくり返ったようなドタバタは、ちょっと異常といえば異常だが・・・。
ドラマは、息詰まるようなテンションを持続させつつ、増幅増大し、よくぞ85分間の作品にまとめたと思われる。
強烈なサスペンス、スリル満点だ!
人は、愛する者のために、かくも強くなれるのだろうか。
フレッド・カヴァイエ監督フランス映画「この愛のために撃て」は、無実の罪で獄につながれた、妊娠中の妻を救い出すために、決死、必死の行動に走る中年男を描いて、ドラマの面白さたっぷりのニュー・フレンチ・ノワールだ。
前作「すべて彼女のために」でデビューしたばかりの、カヴァイエ監督は今回の作品でテーマをさらに掘り下げ、斬新な感情ドラマを追求している。
そこに、この映画の面白さがあるのではないか。