いくたびも聴いた、あの素晴らしい名曲がまた胸をくすぐる。
最近、めずらしい(?)音楽劇である。
カルロス・サウラ監督の、イタリア・スペイン合作の芸術性の香りが漂う作品だ。
不世出の音楽家モーツァルトの、有名なオペラ《ドン・ジョヴァンニ》の誕生を支えたのは、もうひとりの天才劇作家ダ・ポンテであった。
その傑作オペラの、秘められた創作過程が綴られる。
それも、いささか知的な興奮をともなって・・・。
聖職に就きながらも、放蕩生活に明け暮れていた劇作家ダ・ポンテ(ロレンツォ・バルドリッチ)は、文筆の才能にめぐまれていた。
ダ・ポンテは、ある日カジノで年老いた男に借金を申し込まれる。
あいにく現金を持ち合わせていなかった彼は、身に着けていたペンダントを差し出した。
うたた寝から目覚めたダ・ポンテは、テーブルに残されたメモにしたがって、その男の自宅に赴き、若くて美しいアンネッタ(エミリア・ヴェルジネッリ)を紹介される。
ダ・ポンテは、一目で恋におち、老人の頼みを受け、彼女を守り抜くと誓うのだが、我を取り戻した瞬間、彼は屋敷から走り去ってしまう。
さらに、秘密結社に属し、教会に反逆したかどで、ダ・ポンテは逮捕され、ヴェネツィアから15年間の追放を言い渡される。
1781年、ウィーンに新天地を求めたダ・ポンテは、そこでモーツァルト(リノ・グワンチャーレ)と出会う。
イタリア語のオペラの制作に興味を持つ、モーツァルトの台本を任されたダ・ポンテは、希代の色男“ドン・ジョヴァンニ(ドン・ファン)”伝説にもとずいて、新たな視野で、主人公同様に数多くの女性をとりこにした、自らの体験を反映させる物語を構想する。
モーツァルトは、すでに《フィガロの結婚》の成功で気をよくしていいたが、ダ・ポンテとの共同作業が始まる一方で、妻コンスタンツェ(フランチェスカ・イナウディ)との生活のために個人授業も続けていた。
そのレッスンを受けていた生徒の中に、アンネッタがいた。
彼女もウィーンに来ていたのだった。
ダ・ポンテは妻とも別れ、アンネットへの愛に目覚める中、《ドン・ジョヴァンニ》の制作はいよいよ佳境を迎えることになり、初演の日がやってきた・・・。
1787年、モーツァルトが31歳のときに発表した不朽の名作《ドン・ジョヴァンニ》の誕生は、モーツァルト自身のイマジネーションを刺激し、鼓舞した劇作家ダ・ポンテの大きな存在があったということだ。
舞台シーンを織り交ぜたこの作品を、秀抜な音楽映画と見ることもできるが、劇中劇として登場する《ドン・ジョヴァンニ》のシーンと、ポンテ自身の秘められた愛の物語が交錯して描かれる。
モーツァルトの楽曲がふんだんに散りばめられていて、ここでは現実からオペラの世界へ、実話から架空の世界へとかけめぐる。
スタジオには巨大なセットが組まれ、最新のテクノロジーを駆使し、きらびやかな美術や衣裳が、18世紀のヨーロッパを再現するといった趣向だ。
結構、楽しく観られるから、オペラ好きにはよいかもしれない。
カルロス・サウラ監督の「ドン・ジョヴァンニ 天才劇作家とモーツァルトの出会い」は、音楽の素晴らしさとドラマとを融合させて、華麗な世界を創り上げた、芸術性の高い一作である。
オペラを鑑賞する機会などなかなかないが、こうして映画でオペラを楽しむ気分もまんざら悪くはない。