どこか切ない、冬の出会いと別れを綴った物語だ。
物語といっても、静かな映像詩に近い。
渡部篤郎がはじめて撮った映画で、脚本は岡田恵和が書いた。
冬の季節の寒さ、家族のあたたかさ、雪の音や風の音、そして穏やかな恋の始まり、そこはかとなく高まる感情・・・。
余分なものは、極力排除される。
たとえコトバであっても、そして表現までも・・・。
すべてが心優しく、繊細で、抒情的なのだ。
北海道のちいさな町で、黒川冬沙子(高岡早紀)は、単調だが幸せに暮らしていた。
寡黙な父親(北見敏之)と、二人の生活だった。
そこへ、上京してモデルの仕事をしていた妹(未希)が帰省し、近所の食堂のおばさん・丸山みどり(渡辺えり)と、楽しい日常を過ごしていた。
そんなある日、大雪の中、バス停に残された冬沙子は、偶然通りかかった門倉渉(渡部篤郎)に声をかける。
彼は、しかし言葉を発することができないのだった。
渉は、寒さに震える冬沙子に暖をとらせた。
二人の、何気ない出会いであった。
それから、二人の日常に、それこそさりげなく、心地よい癒しのような「時間」が生まれはじめた。
単調な毎日の中に訪れた、どこからともなく湧き上がる感情・・・。
冬沙子は、牧場の仕事をしていた。
ある時、そこで落馬事故を起こした。
彼女は、短期の記憶障害と診断された・・・。
真っ白な雪景色を舞台に、日常のスケッチとある哀しい出来事を、細やかなタッチで描いていく。
渡部篤郎の描く映画「コトバのない冬」は、どこか切なくてもどかしい、小さな冬の童話である。
ドラマといえるような、はっきりとしたドラマではない。
もう少し、ドラマティックな展開が期待されてもと思うが、これはこれで自然と人間の映像詩の趣きがある。
ここでは、誰もが寡黙だ。
ときには笑いもあるけれど、淡々と綴られる映像は、やや哀しく淋しい。
ゆきずりの出会いが、やがてすれ違いとなり、たまたま時の偶然に引き裂かれてしまうといった、一時の男と女の触れあいの時のもどかしさが、ひたひたと寄せてくる。
観ていると、一編の詩のようでもある。
全体に、とくに気張った演出もなく、自然体で、ドキュメンタリーのような小品ともいえる。