徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「その土曜日、7時58分」ー最大の誤算!ー

2008-10-17 07:00:00 | 映画

アメリカ映画、シドニー・ルメット監督のこの最新作は、スリリングで重厚な人間ドラマだ。
ここで語られるのは、家族の崩壊劇であると同時に、身内に起こる心理劇でもある。

いままで楽をしてもうけて来た兄弟が、金でつまずき、安易に犯罪に手を染める数奇な運命を、親子の因果関係を絡めて描いている。
現在84歳のシドニー・ルメット監督は、まことに緊迫したドラマを作り上げた。

ニューヨークで、大きな不動産会社の会計士を任されている、アンディ(フィリップ・シーモア・ホフマンは、一見誰もがうらやむような優雅な暮らしをしていた。
アンディは、離婚され娘の教育費も払えない弟ハンク(イーサン・ホーク)に、危険な企てを持ちかける。
それは、自分の両親が地道に営む宝石店に強盗に入ることだった。
盗む宝石には保険がかけられていて、盗品を闇でさばけば、誰一人として損をする者はいないという筋書きであった。

しかし、犯行を実行に移した、その土曜日、7時58分、最悪の事態が待ち受けていた。
いや、それこそは最大の誤算であった。
兄弟の考えた犯行のシナリオは、完全に狂ってしまったのだ・・・。

最悪の誤算をきっかけに、次々と家族の闇が暴かれていく。
妻の裏切り、親子の確執・・・、行き場を失った運命の二人は、もう元にはもどれない・・・。
誰をも傷つけるはずのなかった完全犯罪は、たったひとつの誤算のために、悲劇の連鎖へと姿を変えて、一気にクライマックスへ突き進む。


シドニー・ルメット監督の演出は冴えている。
何が、彼らを駆り立てたのか。
人物の、重層的な掘り下げ方がうまい。シャープである。
全く先を読むことの出来ない緊迫した展開、登場人物の意外な人柄と心情、それらがフラッシュバックの手法で、次第に明らかにされていく。
この作品のストーリーは、時系列や視点が、断片的に入れ替わりながら語られる。
斬新で、巧みな構成である。
ドラマの終盤は、まさに暗澹とするしかない展開で、この映画の<重さ>がひしひしと伝わってくる。
複雑に入り組んだカットバックの連鎖は、ドラマが進むにつれて、アンディ、ハンク、そして父親チャールズの心理的な葛藤や、置かれている立場を徐々に解き明かしていくことになる。
心理描写にまで、ミステリー手法が昇華されている。

ねじれた兄弟関係の修復に立ち上がる厳父チャールズ(アルバート・フィニー)の、いぶし銀の演技が光っている。
アルバート・フィニーはこう語っている。
 「ほんの一秒ですべてが変わる。人生で何が起きるかは、誰にも分からない」と。


アメリカ映画「その土曜日、7時58分は、人間の持つ脆さと弱さが容赦なくあぶり出されて、なかなか見応えのある作品となっている。
ニューヨーク批評家協会賞をはじめ、6つの映画賞に輝く。