YS Journal アメリカからの雑感

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Foreign Affairs: Manufacturing Insecurity

2010-11-22 02:01:41 | 新聞、雑誌から
定期購読を始めたものの、敷居が高くて既に2冊(隔月なので4ヶ月分)も積んだままになっている Foreign Affairs をめくってみた。次の号で頑張ってみようという決意だけは新たにしたのだが、11月/12月号に比較的短くて興味がある記事(論文と言うべきか?)があったので、紹介しておく。

William Pfaff という保守系の人による "Manufacturing Insecurity" という記事である。要点は以下の通り。

世界中に1000以上あるアメリカ軍の軍事施設が、果たしてアメリカを守る事に役にだったのかという疑問から始まっている。現在のアメリカ軍の世界中での展開は、第二次世界大戦後の撤収過程で冷戦が勃発したので、戦闘を前提としたソ連の侵攻に備えるという体制である。(ベトナム戦争でアジア地区の基地拡大はあった)この体制自体は上手く出来ており、1990年の湾岸戦争での素早い展開と撤収で実証されている。

この湾岸戦争での成功が、アメリカ軍の自信回復と繋がり、Nato 軍としてのユーゴスラビアの活動をへて、コソボに新しい基地を建設したりして、軍の勢力拡大がなされ、結果として、外交も国務省より軍の影響力が強くなっている。ブッシュ政権のラムズフェルド国防長官は、軍による軍コントロールという信念のもと、軍の外交機能であるタンパ(フロリダ州)の U.S. Central Command を強化している。

外交政治的にも、軍の力を過信し、アメリカが民主主義を世界に広げるという傲慢な考え方が大勢を占めてきている。偶発的であったイラクでのバグダッド占領はアメリカ軍によるイラクの国家再興を余儀なくさせたが、その結果はまだ不透明だし、アフガンでも地方でのアメリカ軍設備の設営がテロを誘発する結果になったりしている。

第二次世界大戦、冷戦勃発に対応すると言う事で出来上がった戦略は機能していない。現在のアメリカ軍は、説明責任を持たされないまま拡大を続けており、市民の軍隊からプロの軍隊へ変容してきている。国防産業はアメリカ製造業の一番需要な部門になってきており、軍事関係の企業は議会と未熟な政権を取り込んでいる。この戦略による世界での軍事展開、朝鮮戦争、ベトナム戦争とカンボジア侵攻、レバノン、グレナダ、パナマ、ドミニカン共和国、エルサルバドル、ソマリア、2回のイラク、アフガニスタンにおいて、最初の湾岸戦争以外では成功を収めていない。別の例として、日本帝国海軍に対抗するために未だに11隻の空母を運用している例を挙げている。(戦略的には原子力潜水艦の方が有効)

アメリカ国境で戦争に負ける事は考えられないが、だからといって世界でアメリカ軍の行動が成功するとは限らないのである。アメリカを守るという事から考えると、イラク、アフガンからの規律ある撤退のみならず、世界各地の紛争からの撤退が得策である。アメリカと無関係な社会の争い事の解決は、その地域に任せれば良い。(イスラム原理主義との戦いも、アラブと教徒人口が多いアジアの問題があるので、一括りでは扱えないと言う考察も述べている)

このような大きな戦略変更には、政治的(内政、外交とも)な犠牲を伴うが、そろそろ考え始める時期に来ている。


保守的なコラムニストからこのような論点が提示される所がアメリカ保守の多様性を示しており、アメリカの保守回帰がアメリカ軍の世界展開の延長、拡大に単純につながらない事を認識しておく必要がある。先日紹介した Ron Paul の主張と基本的に同じであり、著作では経済的な観点からの考察もされている。

単純に言うと、アメリカも無い袖は振れないのである。アメリカが自国の繁栄のために自国の事だけ考える方が、世界的に繁栄と平和をもたらすという、これまでのアメリカの路線とは正反対の、ちょっと都合の良すぎる主張である。でも、アメリカ国民の支持は得られる可能性も高そうなきもする。一方で、ローカル紛争の当事者の責任は大きくなるので、否応無しに当事国(日本も含めて)準備をしなければならないだろう。紛争がローカルで、メリットが小さいと紛争も小さいという気はする。

問題は、2つあると思う。1つは天然資源、特に石油。アメリカは中東依存を減らしているので、大丈夫と言う事だろうか?もう1つは核兵器。今のところイランだけが懸念だが、将来においても、開発途中で工場を叩くとか、発射を察知して原子力潜水艦から先制攻撃出来るという自信があると言う事か?(そう言う意味でも、もうすぐ完成と言われているイランの核兵器への対応は注目される)

どちらにしろ、日本は悲しいかな、アメリカの経済、国家予算、軍関係の予算、保守回帰(多分に主観的だが)の流れとそれに伴う外交戦略の転換を注意深く観察、分析しておかないと、読み違えが連発して、外交面で益々取り残されて行く事になるであろう。