YS Journal アメリカからの雑感

政治、経済、手当たり次第、そしてゴルフ

END THE FED: Ron Paul

2010-11-17 07:05:10 | 書評
Ron Paul については、2008年の共和党大統領選への立候補(リーマンショック前)くらいまでは、色物的なリバタリアン政治家の認識しかなかったのであるが、リーマンショックを経て彼の主張を改めてみてみると、保守(というかリバタリアン)の原理原則に則った非常にシンプルで力強い信念に基づいている事が分かる。

(私だけかもしれないが)エキセントリックだと思われていた政治家が、本流になる可能性を秘めている事が凄い。アメリカ政治シーン、アメリカ社会の根本が大きく転換しているのを感じられずにはいられない。

"End The Fed" は、現在の経済だけでなく、外交(戦争)等の問題も、中央銀行システム(政府(もしくは治世者)が不換貨幣を発行出来る)に根本的な原因があるということを、歴史的に解説しながら、金本位制度への回帰を訴える内容となっている。金本位制復活と聞くだけで瞬間的にアナクロな気がするのだが、この本を読んでみると、いかに現在の通貨制度と金融政策に毒されているのかに驚かされる。

ビザンチン帝国の滅亡の原因が戦費調達のために金貨の質を落としたことから始まり、第一次世界大戦の戦費を賄うためにヨーロッパ諸国が金本位制をやめてしまったことは、大きな示唆を与えている。そしてアメリカでは、1910年に FED の構想が(J.P. Morgan と Rockefeller 系の人々が参加している)がまとまり1913年に設立される。1917年にはアメリカはヨーロッパの紛争に参戦するようになるのであるが、これは FED のお陰だと皮肉っている。

FED の設立の大義は、それまで繰り返された景気の大きな振れを防ぐためであったのだが、政策的には失敗続きであり、結果的に1929年の大恐慌を引き起こす事になる。(一方で、1900年にアメリカは金本位制を採用しているが、運用の不手際を原因の一つに挙げている)

19世紀から20世紀に掛けての中央銀行の設立、つまり、政府による通貨管理(乱発)は、結果的に、アメリカでは帝国的な大統領制をもたらし、ドイツではスーパーインフレによるヒットラーの出現を許し、ロシアを社会主義にしたとしている。

アメリカの金本位制度は1971年に終わるのであるが、レーガン大統領のときに復活の可能性があったが、政治的な駆け引きの中で実現していない。但し、当時 Ron Paul も参加していた議会の小委員会の活動の成果として、1985年に何十年も禁止されていた個人による金貨の所有が解禁となったとしている。

ちょっと唐突で中だるみ的ではあるが、下院議員として、FED の実態を知るために公聴会などでの FED 議長とのやり取りなども収めてあるのだが、昔はグリーンスパンが金本位制に賛成していたとか面白い事実も述べられている。 バーナンキのことはコケ下ろしている。

(追記:ボルカー議長と打合せの時のエピソードとして、FED が金相場に非常に敏感である事が出ていた。ドルの通貨量を増やす事はインフレになる事を(当たり前ではあるが)意識しており、そのインディケーターとして金の価格を重視してたとの事だ。FED だけではなく各国の中央銀行は、金価格が上昇すると市場に金を放出し相場を冷やすらしい。非常に高騰している金相場であるが、今後どのような展開になるのか今でも大きい興味が倍増。もう一つ、中央銀行が金市場に介入しているのなら、保有している金の量に変化がどうなっているかと疑問が沸いてくる。Ron Paul が FED の方針や運営が、一切秘密になっていると言う意見も説得力がある。)

後半は、なぜ FED を終わらせなければならないかを、いろんな観点から提案している。FED の存在が、不道徳であり、憲法違反であり、実効性がなく、経済に悪い影響を与え、専制的な政府の道具にしか過ぎず、究極的には個人の自由を奪う事になるとしている。

FED (中央銀行制度)は、戦費を賄うためと、政治の道具(ばら撒き政策用)として生まれたので、結果的に戦争と政治汚職を生む。金本位制に戻れば、そもそも中央銀行は必要なくなるとしている。

聖書にも金貨(金本位制)の価値についての記述とか、もっと古くは紀元前の金貨の事とか、近代の通貨制度と金本位制の関係など、勉強し直す事を迫ってくる。

Ron Paul の歴史解釈、主張に反対、賛成はあると思うが、とにかく考えさせられる本である。現存する制度を当たり前だと思わないと言う解毒効果は抜群である。

ここは騙されたと思って、是非読んでみる事をお勧めする。


数年ほど前に、唐突に世界統一通貨と言う考え方は素晴らしいのではないかと思い、少し関連の本などを読んだ事があるが、もし、現在でも何とか基軸通貨であるドルが金本位制に戻れば、実質的な世界統一通貨ということになる。

世界統一通貨になれば通貨危機はなくなるし、金本位制でのもとでは、実質経済を支える以上の人工的なマーケットは必要がなくなる。所謂マネーゲームと呼ばれる、実物経済を翻弄するだけの金融機能はなくなってしまうであろう。金融、銀行の規制もシンプルなものとなるだろう。中央銀行制度と金融制度規制というマッチポンプ的で、焼け太り的な政府の自己増殖も終焉させられる。

中央銀行(政府)による管理通貨制度が、経済の安定をもたらす為に設立されたのに機能しない事は明らかである以上、金本位制度の復活をを真剣に考える事は経済学者の義務ともいえる。そして、戦費調達用の政府の打ち出の小槌である事が本当であるのなら、不必要な紛争を防ぐためにも研究が必要であろう。