YS Journal アメリカからの雑感

政治、経済、手当たり次第、そしてゴルフ

島津奔る:池宮彰一郎

2011-09-13 05:31:45 | 書評
池宮彰一郎の盗作問題については、うっすらと知っていたが、この『島津奔る』も既に絶版となっている。(『島津奔る』の他に、『本能寺』と『高杉晋作』を新刊で持っている。後の2冊は、絶版にはなっていない)

歴史書、それも戦国時代から江戸幕府の始まりについては、書かれている事も多く、あらたな資料が出てくる事もないので、ある程度似てくる事は致し方ない様な気もする。

今回『島津奔る』を読み返してみて、後期の司馬遼太郎の様な、くどくどとした "歴史エッセイ" の挿入がないので、簡潔な文体と相まって、心地良くページを進める事が出来た。

朝鮮征伐にしても、関ヶ原にしても、今更という気がするのだが、この話の価値は、全く荒唐無稽に見える朝鮮征伐と江戸幕府の大名の扱い方に共通点、意外に思える経済的な視点を持ち込んでいる事だろう。

つまり、応仁の乱以降100年以上も続いた戦国時代が、太平の世になることで、戦争非常時経済をどのように転換して行くかという話である。戦続きで、活気づき膨らんでいる経済が一気に萎む事を、どうやって避けるかという事である。

石田三成、徳川家康、島津義弘だけが、大転換期を認識しており、そして島津義弘のみが、案を持っていたという設定になっている。石田三成は朝鮮を伐つ事に解決策を求め、思案中の家康に島津義弘が策を示すという筋書きである。

その策とは、城の普請を含む様々な土木工事と参勤交代である。つまり、江戸幕府は、生き残った大名たちに引き続き支出を強いる事で、経済の軟着陸を図ったのである。

実際には、このように劇的ではないと思うが、経済の戦後処理を考える人々がいたのであろう。但し、長い間、この政策をやり続ける事で、結局、大名が貧乏になり、流通の発達などで商人が力を持つ様になった事で、幕府が崩壊していくという皮肉な結末になるのである。

盗作問題で絶版という憂き目に遭っているが、『島津奔る』は読むに値する。

In My Time: Dick Cheney

2011-09-01 10:35:04 | 書評
政治家の回想録は星の数程あると思うが、こんなに面白いのは初めてで、こんなに真剣に読んだのも初めてである。

販売当日の2日前にキンドルで購入したばかりであるが、読み出したら止まらなくなって、キンドルで一万ページもあるにの、読み終えてしまった。

興味は、どうしても自分が知っている2000年ブッシュの副大統領候補になった時から、8年間の副大統領時代に集中してしまう。

フォード大統領の首席補佐官(史上最年少)、その後10年間の下院議員として様々な委員会での活動と両党にまたがるネットワーク、パパブッシュ大統領時代の国防長官として湾岸戦争の指揮等々、政治家としての重厚な実績があったので、激動であったブッシュ政権の8年を支えられたのだ。「史上最強の副大統領」と形容されたのも頷ける。

副大統領になるまで約30年、実務レベルで官僚、議員、軍関係者と幅広く人々と、いろんな案件で一緒に働いており、副大統領時代に彼等が主要官僚になったりして、既に信頼関係が出来ていた。特に軍との関係が深い事が、良くも悪くも、9/11後のアフガン、イラクとの戦争をスムーズ(?)に遂行された大きな要因であるのは間違いない。

ブッシュ大統領との意見の相違もあった事で、影から操っていると根拠のない憶測もあったが、全編を通して、大統領個人、大統領職への尊敬の念は疑う余地が無い。見事に副大統領に徹していたようだ。

日本絡みの北朝鮮問題では、ライス長官とヒル国務次官補が6カ国協議の基本路線から外れ、2国間協議に漂流し、結果的にブッシュが追認して、テロ国家リストから北朝鮮を外す事で、日本の拉致問題解決が出来なくなった事に対しては、忸怩たる思いを吐露している。

北朝鮮の核開発については、シリアに技術提供を行っており、2007年にイスラエルが密かに空爆して破壊している。この事実は暫く伏せられていたが、6カ国協議の枠組みで、この情報を中国と秘密裏に共有する事などの作戦を用いれば、効果的に北朝鮮への圧力を掛けれたのではないかとも述べている。

(このシリア核施設のイスラエル空軍による破壊は、日本では報道も少ない。北朝鮮がシリアに対して技術供与をしている事は、アメリカが切り札として上手く使えなかった事も含めて、非常に重要なポイントであったと思われる。アメリカは、北朝鮮だけでなく、シリア、そしてイランへの核拡散も押さえたいという意図があったが、瓦解している。日本は、この手の情報はどこから入手出来るのだろうか?国務省からだけでなく、ホワイトハウスにも確認をとるとか、複数のパイプは存在したのであろうか?)

(そう言えば、日本では人気のある(?)アーミテージであるが、チェイニーとは仲が良くない様だ。名前はちょくちょく出てくるが、重要な外交案件(日本に関係あるなし無にかかわらず)での影響力はほとんど無い様な感じであった)

ブッシュ政権の末期の影響力が落ちて行く中で、ホワイトハウス内でも統一の取れないまま、国務省の先走りで6カ国協議が形骸化した事は日本にとって不幸であった。結局、北朝鮮問題はその後進展しないばかりか、悪化している様に見える。

控え気味ではあるが、オバマ政権への批判も出てくるのであるが、決して表層的なものではなく、本心でアメリカを憂えている事が良く理解出来る。オバマ就任直後のキューバの収容所閉鎖とか、テロリストを刑事裁判(軍事裁判ではなく)で裁くとか、議論をするのもバカバカしいと言う感じがヒシヒシ伝わる。

この本の内容がどこまで客観的か正しいかは別にして、詳細な資料での回想録なので、過去30年の(あくまでも共和党政権のであるが)アメリカ政治のダイナミズムを理解出来る良書だと思う。

アメリカの政治は、誰か黒幕が操っているとか単純な構図では無く、考えられない様な天賦の才能を持った多くの人々が、想像を絶する様な働きをしながら運営しているのである。悪玉、善玉といった単純な話ではないのである。(それは日本も同じであろう)そして、それは余りにも生々しい人間模様でもあるのだ。

アメリカ政治に詳しい人の翻訳で、日本語版が出る事を切望する。

The Big Short: Michael Lewis

2011-08-15 11:59:43 | 書評
"The Big Short" は、「世紀の空売り」 という題名で翻訳され、日本でも出版されている。

アメリカに来たばかりの頃、ベストセラーになっていたマイケル・ルイスの "Liar’s Poker" (邦題も、ライアーズ・ポーカー)を買ったのだが、 全く歯が立たなかった。(結局読んでいない)一方で、今年9月にブラピ主演で公開される映画の原作 "Moneyball" は、 メジャーリークが題材だったので楽しく読んだ。

"The Big Short" は、2008年のリーマンショックによる金融界の『大崩壊』ではなく、その前年に崩壊したサブプライムローンの『崩壊』を予感しショートに掛けた人々の話である。極々限られたこの人達は、普通にサブプライムローンのデータを分析し、その派生のデリバディブのいかがわしさを理解した結果として、崩壊を予言した形になった。極論すれば金融業界全体を敵にしたため、成功までに大変な辛い思いをし、大成功後も、自分たちが生きている金融業界自体が崩壊するかもしれない虚脱感に苛まれたりしている。

2005年から2008年に掛けての背景については、全く部外者である私も、住宅ローンの借り換えをしようとして住宅価格の下落で出来なかったり、2007年に、当時の勤め先の 401K の一番安全な選択肢(!)である資産の裏付けのある債券ミューチュアルファンドが、いきなり10%も下落したりして、自分の経験としての鮮やかな記憶がある。

金融業界のまるっきり外側で、ボンヤリと何か起きているのではないかと言う思いがあっただけに、真っ直中で主流に対抗する形で、ハッキリと意識していた人がいたことに救われる気持がある。サブプライム崩壊で一番儲けた John Paulson も出ては来るが、アメリカ金融業界で無名に近い人々が、どのようにしてサブプライムをショートする事になったかという経緯を通じて、理解し難い金融商品自体も自然に分かってくる。(ショートで儲けた人々にしても、最初はサブプライムやデリバティブについては良く分かっていなかったのだ)

何事も複雑怪奇になった為に、金融業界では、エリートされる人々が、普通の人々とかけ離れた所で、超真面目に変な事をしているのが目立つ様な気がする。マイケル・ルイスは、20年前にアメリカの投資銀行が、パートナーシップ制から株式会社になった時に、金融業界はコントロールを失った事をハッキリ意識していたのである。金融業界は、その時の教訓を活かせてないのだ。行政は理解も出来ず、間違った規制を行ったり、これかもやろうとしている体たらくである。

そしてまた波乱の種がまかれていく。

さて、次の "The Big Short" は何であろうか?私は、明らかに金(Gold)だと思う。イタズラ心で、2年後の Future Put Option を調べてみたが、素人の悲しさで、数字の意味がイマイチ理解出来ず。John Paulson は、金についてはロング(値上がり)に掛けているが、往復ビンタは出来るのだろうか?

価値と価格、自分の価値観を信じる事の難しさと尊さという人間ドラマとして、抜群の読み物だと思う。お勧めします。ついでに、サブプライムローンの事も学べます。

思想としての近代経済学:森嶋通夫

2011-07-25 07:01:49 | 書評
経済学をちゃんと理解しておきたいという思いが常にあり、数年前に偶然、再読した小室直樹の「経済学をめぐる巨匠たち」が結構役に立ったのだが、その中で紹介してあった、当時一番ノーベル経済学賞に近い日本人と言われていた、森嶋通夫の「思想としての近代経済学」を読んだ。(森嶋と小室は師弟関係にある)

残念ながら、森嶋通夫は2004年に亡くなっており、日本人のノーベル経済学賞受賞は遠い夢になりそうだ。

「経済学をめぐる巨匠たち」は、基本的に「思想としての近代経済学」の二番煎じである。そして、一番茶の味は格別であった。

本書は、近代経済学を最も重要なのは、「セイの法則」(供給はそれ自身の需要を創造する)を公理とするかどうである、という事を軸に、代表的な経済学者を紹介する形の内容となっている。公理とすれば古典派になり、否定すればケインズ派となる。

森嶋は、「セイの法則が成立する経済」から「セイの法則が成立しない経済」への転換がいかにして起こるのかを、「耐久財のジレンマ」で説明している。消費財にも生産財にも、消耗財と生産財があり、耐久財は数回、数年に渡り、繰り返し使える財と定義する。耐久財は生産した分だけ売れる事が無い上に(セイの法則が成立せず)、所有とレンタル市場が存在し、この市場が同時に均衡しないので、価格の市場調整機能が上手く働かない。セイの法則を公理としないので、彼自身はケインズ派に近いのだが、2つの学派を飲み込んでいるのが凄い。

数式が登場せず、シンプルなモデルで説明してあるので、理解しやすい。又、経済学を、社会学、歴史学と一体として考えており、それぞれの理論背景の考察が鋭く、現代をどのように理解するか切り口が随所に示唆されており、使える経済学(本来の姿)としての輝きがある。

私自身がケインズを全く分かっていない事を思い知らされたインパクトも強かった。ケインズは、イノベーション等で投資ブームが生ずれば、投資の国家管理を中止して経済を自由化させるべきだと考えており、投資が旺盛であればセイの法則が完全復活し、古典的な経済理論が正しいと述べている。政治的な保守派の立場で、ケインズ的な政策に批判的であったが、政治として一時回避的な政策提言と考えれば筋が通っている。(但し、深い経済的な認識が無ければ、上手く機能しない事は日本が証明している)

ケインズは、第一次世界大戦後ヴェルサイユ平和会議にイギリス代表団の一員として出席しており、賠償金問題を通してのヨーロッバの平和問題への提案などの解説を読むと、経済問題としての戦争を正しく認識しており、事後処理についても、平和の為に(経済的にも)バランスをとろうとしており、経済学という狭い領域に留まっていない事も刺激的である。

経済学とは何ぞやという事が俯瞰出来るので、計量モデルでコンピューターをオーバーヒートさせる様な事をしている研究者から、私の様な数学が苦手なアマチュアまで、一度は読んだ方が良いのではないかと思える名著である。

この本を手に取ったのは、全くの偶然であった。日本人補習校図書部が不必要(多分貸し出しが無いという事だと思う)になった本を、無料配布と言う形で処分するブックフェアで入手した。誰かが、補習校に寄贈した本の様だが、それがこうして、私の手にあるのも、何とも不思議なものである。

東電 OL 殺人事件:佐野眞一

2011-07-22 05:53:45 | 書評
「東電 OL 殺人事件」は、佐野眞一だけでなく、私も激しく「発情」したのである。(在外日本人としては、当時の日本での雰囲気分からず)その証拠に、この本をわざわざ日本で購入しており、挙げ句の果てに、桐野夏生の『グロテスク』まで買っている。

今回、DNA 鑑定の不備で冤罪の可能性が高く、再審になりそうだと言う事で話題になっているが、時期も時期だけに、東電に勤務していた事に「発情」している可能性が高いと思われる。

ネパール人が有罪か無罪かと言う事には、最初から全く興味が無い。この本は、一審での無罪判決時点で書かれたと言う事あり、裁判傍聴の部分を読んでも、有罪を立証する事は難しいと思っていた。状況証拠だけで有罪とした高裁は、司法の自殺行為だ。疑わしきは罰するという、全くの素人判決であろう。90年代はイラン人や外国人が急激に増えており、漠然とした不安感が、司法にも出たのではかと(そう言う意味では、検察も)思ったりもする。

佐野眞一は、ジャーナリストと呼ぶには情緒的すぎて、私の好みでは無いが、思い入れの激しい所が、時々ツボにズッポシ嵌まってしまう事がある。戦後経済成長のしわ寄せを引き受けている翻弄される田舎の心理風景を、日本の悲劇全ての土壌と考えているようで、思わず引き込まれてしまう。(最新の『津波と原発』もそんな感じがする)「御母衣ダムー電力ー東京電力」。「御母衣ダムー水没ー円山ラブホテル街」など、全く事件とは関係無いのだが、思わず引き込まれてしまう。個人的な経験から「ダムー水没」などは、思わずグッときてしまう。

そんな事より、被害者の女性が、東京電力での総合職エリート(挫折していたという話もあった)でありながら、夜鷹(職業的と言う意味でピッタリの表現だと思う)を両立させていた凄みを、誰も理解出来ない所に、「発情」があるのだ。

世代が近いのだが、当時残念ながら、女性で総合職を目指す人に出会った事が無い。(落ちこぼれていた私は、そんな男とも縁遠いのだが)本を読みながら、もの凄く近くにいたはずなのに、自分にとって幻の様な存在で、その上、凄まじい精神力で売春を続けるこの女性に圧倒されっ放しであった。

日本に出稼ぎに来て冤罪で無期懲役で服役中のネパール人より、路上で客引きする女とアパートの一室で事に及んだ後絞め殺した真犯人がいる事より、永遠に解明されないであろう彼女の心の方にばかり心が奪われる。

冤罪、再審の可能性、そして東電と言う事で、不思議な再登場となった事件であるが、彼女の心の闇の強烈さを改めて思う。

The 4-Hour Workweek: Timothy Ferriss

2011-07-12 10:17:30 | 書評
"The 4-Hour Workweek" は、ここ2-3ヶ月程、出張に幾度にバックの底に放り込んで、読まなくてはならないと思いつつ、そのままになっていた。おかげで、外観だけは読み古したようになってきた。

著者の Timothy Ferriss は、Life Design を定め、それを遂行出来る時間と機動性を持っている人を New Rich と定義して、そのようになる為の心構えを説き、具体化する為の手法を紹介している。当然、経済力が必要なのだが、お金を一杯稼ぐという目標は無く、あくまでも、自分の描いた人生を楽しむ為に必要な糧を得る事、そのための労力を最小限にするかが、メインテーマである。自分を例にとり、タイトルズバリの週4時間の労力で達成出来ると言うのである。誰も彼もにも、起業しろと言っている訳ではなく、普通に勤務していも、自分の時間、自由度を増す為の例なども取り上げている。(勤めていると週4時間という訳にはいかないが)

既成の一般的な人の考え方にショックを与え New Rich を理解させる為の課題(これはちょっとナンセンスな感じがあるが、人と違う事に平気という感覚を取得する為に必要なのだろう)、Life Design をそれを支えるお金を具体的に考えながら作成、彼自身がやっているネットでの栄養補助品の実例を出し、所謂 E-Commerce のノウハウ、改訂版という事で、ベストセラー作家になった事の顛末や読者の例、そして、作者の人生哲学というのが、主な内容である。

Life Design, New Rich の考え方に関しては、真新しいという事はないが、それを心底信じて、徹底してやるという大切さは思い知らされる。誰にでも実践出来るという前提で書いているのだろうが、彼はいろんな意味で才能豊かで、努力をしている(嬉々として)姿には、やはり圧倒される。人生哲学については、そんな考え方もあるだろうといった感じである。

個人的には、E-Commerce のノウハウが詳細に説明してあるのが一番役に立った。まあ、自分が考えている事が同じ類いという事もあるが、"Start Small, Think Big" などと書いてあるとグッと引き寄せられる。ニッチマーケットを狙う事や、殆ど全てのオペレーションをアウトソースして自動にしてしまう事(なにせ、週4時間しか働かないのだから)などは、種々のサービスプロバイダーを具体的に紹介してあり、資料としても大変参考になる。(日本語にも翻訳されて、『「週4時間」だけ働く。』として出版されている。一番役に立つサイト情報が、アメリカのものそのままなのか、日本の同じようなサービスを紹介してあるのか、ちょっと気になる所である)

この本の中に、"Thinking outside the box" では無く "Acting outside the box" とあるのだが、正に、その通りである。

起業しようが、勤務してようが、時間だけでなく、いろんな事をフリーアップ出来るヒントが沢山詰まっているので、読んで損のない本だ。(英語版についてです、念の為)特殊な形のハウツー本と言う事でベストセラーになったのだと思うが、私にとっては、E-Commerce のノウハウの方がインパクトが強かった。

絆回廊(新宿鮫 X ):大沢 在昌 最終回

2011-04-23 11:24:11 | 書評
何かの間違いではないかと思い、未だに読める後半の最初から読み返してみたが、錯覚ではない様だ。

ネットでの連載は一体なんであったのか?

大沢 在昌、『連載を終えて』で、殊勝な事を言っているが、おちょくられた気持になっている読者もいる事を忘れてもらっては困る。「本で一気に読むと別の面白さが味わえますよ!」との宣伝文句は、何なんだ!

出来としては普通に良いので、そう言う意味では文句の付け様がない。最終回がちょっとあっけないが、毒猿や前回のように、ドンパチやって終わりじゃ芸が無さ過ぎるか?

その上で、鮫島は生き残ったし、握っている秘密もまだ有効そうだし、香田もいるし、樫原の息子の陸永昌(ルー・ヨンチャン)も無事に御帰国なさった様だし、まだまだ続けられる。

勝手に期待を巨大に膨らました自分が悪いだけなのか?糸井重里、大沢在昌、ほぼ日のスタッフ、誰でも良いから総括してもらいたい。何でも良いから、アッと言わせてほしい。

ただ単に、30代の女性とか、ハードボイルドを読まない層(ほぼ日の常連はそんな感じ)に、読んで貰いたかっただけなのか?なら、読ましといてどう料理しようと言うのだ?

新宿鮫、安心して楽しく読めるだけでは飽きられるぞ。晶と別れた事だし、続けるのなら路線変更でもしたらどうだ。

一体全体、私はなぜにこんなに熱くなっているのであろう。わからん。

(因に、今回のエントリーはそのまま感想メールとしてほぼ日に送ってみました)


後半は、暫く読める様だ。(5/9の午前11時までだそうだ)

過去のエントリー
絆回廊(新宿鮫 X ):大沢 在昌 来週末で完結 (4-17-11)
絆回廊(新宿鮫 X ):大沢 在昌 ここまで来たら一気に読みたい (1-12-11)
絆回廊(新宿鮫 X ):大沢 在昌 10月15日で前半終了 (9-27-10)
絆回廊(新宿鮫 X ):大沢 在昌 (3-20-10)

絆回廊(新宿鮫 X ):大沢 在昌 来週末で完結

2011-04-17 12:30:31 | 書評
内容的に唐突な感じなのだが、来週末で完結だそうだ。

「マンジュウ」こと桃井が死に、鮫島を狙う中国人の殺し屋が鮫島のマンションを張り、狂言回し的な役割の暴力団幹部の松沢(吉田)敏夫が、日本人的な神妙なケジメをつけようと鮫島に接触している。

考えられる最終回は次の3通りか?

1)鮫島のマンションで、香田や晶が必然的に鉢合わせでドンパチやって、鮫島以外皆死ぬ
2)鮫島だけ死ぬ
3)1)と2)のコンビネーションで、主要人物の誰かが生き残る(鮫島も例外では無く、生き残るかも、死ぬかも)

全てのパターンを網羅しているが、これじゃあ、読んでみなけりゃ分からないという事ではないか。(もっとまともな予想は出来ないのか、私は)

一月頃にスピード感が出てきた頃に一気読みしたかった。やっぱり、ネットだろうが、雑誌だろうが、続き物は嫌いだ。

関心はただ1つ、鮫島が死んで新宿鮫が終わるのかどうかだけだ。以前にもシリーズの主人公を殺した事があるらしい。絆回廊(新宿鮫 X )連載前の糸井重里との対談で語っている。そして、シリーズは続いた(?)ようである。とすると同じパターンはなさそうなので、死ぬと終わりだろう。(生き残って終わりというパターンでは、ファンが許さないだろう)

なぜ、ネットでの連載なのか、最初から疑問なのだが、最終回を残すのみとなっても、さっぱり分からず。完結後、何か意味の有る事を理解したとしても、過小評価しそうな勢いである。

ほぼ日の掲載サイトは、こちら。こうなったら、最終回を同時進行で私と一緒にスリリングに楽しもうではないか。


追記(4-18-11):見逃していたが、掲載サイトに「6月初旬、光文社より『絆回廊 新宿鮫 X 』単行本発売決定!」とオッタマゲーションまで付けて発表してあるではないか!!一体、どういう了簡なのだ!!!これでは普通だろう、普通。


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絆回廊(新宿鮫 X ):大沢 在昌 ここまで来たら一気に読みたい (1-12-11)
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日本国勢図会〈2010/11年版〉、世界国勢図会〈2010/11年版〉

2011-04-05 00:32:50 | 書評
この春、下の娘が目出たく、デトロイトりんご会補習授業校の小学校に入学したのだが、先週4月2日の入学式に併せて、義母がお祝いのランドセル(その他、いろいろ文房具も)を背負って来てくれました。(来米はほぼ毎年なのだが、上の娘の入学式も来たので、不公平のないようにという事で、今年はこのメインイベントに合わせて)有り難い事だ。

ブログを書くようになって、故事やことわざの知識が非常に怪しい事の気が付いた。ネットで調べたりしていたのだが、辞書を引くのに比べて効率が悪すぎる。昨年暮帰国した時に、ことわざ辞典を探したのだが、大きな本屋へ行く機会が無かった事もあり、しっくりくるものが無く結局買わずじまいであった。義母が来る事が決まっていたので、その時買って来てもらおうと、その後もネットでいろいろ探したが、結局、ピンと来るものはなかった。でも、どうしても欲しい辞典なので、一応実物も触っている「新明解故事ことわざ辞典 」を頼んでいた。

頼み次いでに、重い本で大変だと恐縮しながら、思い立って、日本国勢図会〈2010/11年版〉世界国勢図会〈2010/11年版〉もお願いしていた。

データフェチの領域に到達するのには程遠いのであるが、数字を眺めるのは大好きである。慣れているせいか、本の持つ便利性、直ぐ引けるし、一覧性があり、なにより、思わず目指していたものと違うデータが目に入り、迷宮に入ってしまう楽しさがあるので、日本国勢図会と世界国勢図会は、10年に一度くらい揃えて購入していた。(直前は、2003/04版)

絶妙なタイミングだったと我ながら思ったのは、今回の版がプレ3・11最後という事である。今後出版されるもの、特に日本国勢図会の方は、過去のデータを掲載しても、今回の震災のによる断層のバイアスが微妙に出てくるのではないかと思う。過去のデータが変わる事は無いのだが、スケールや解説が歪む可能性は高い。

なにかの経済指標を調べていた時に、アメリカのデータが19世紀からは継続的に存在しているのに、日本は終戦で一旦ご破算になっていて奇妙な感慨を持った事がある。戦後から今回の震災までを連続的な固まりとして理解する必要が出てきたとき(そんな必要があるのかと聞かれたら、?と答えるしかないが)のために、穢れの無いプレ3・11のデータは、貴重かもしれない。

(上の娘が同じく補習校で5年に進級したので、教科書を貰って来たのであるが、社会科の教科書に水産業の項目があり、東北の漁港の水揚げ量が載っていた。宮古、気仙沼、女川、これらの数字、来年の教科書はどうなるのだろう)

偶然にも思い立って購入出来たのは、全くのラッキーであった。街角の普通の本屋に、普通には置いて無い様だが(わざわざ取り寄せてもらったとの事)、日本国勢図会〈2010/11年版〉だけでも買っておいて損は無いと思う。

今回の震災以来、国債やらディフォルトの事を話題にしていたので、泥縄式に昨晩から財政のページを寝床で繰っていたのだが、気になっている特別会計の数字を見ていると、サッパリ理解出来ない事もあり、直ぐに眠気が襲って来た。(一般会計より大きな特別会計って得体が知れないが、ネットで調べたりしながら勉強する予定)

そう言えば、まだ電力の所を読んでいない。

プリズンの満月:吉村 昭

2011-01-29 10:01:39 | 書評
吉村昭は多分一番好きな作家なので、このブログでも彼の本の書評が多い。(といっても、随分と限られた数だが)いつか全集(出るのだろうか?)を揃えるつもりでいるのだが、去年は『アメリカ彦蔵』、『大黒屋光太夫』と読んでいる。

週一回のペースで飛行機での出張があるのだが、新聞、雑誌、購入したまま積読となっている英語の本を読む事が多い。今週はメキシコ出張で時間も取れるので、日本語の本を読了してやろうと思い『プリズンの満月』を持っていった。飛行時間の半分ぐらいは寝てたと思うが(なぜ飛行機に乗るとあんなに眠いのだろう?)、行き帰りでちょうど読み終えた。

この本は、巣鴨プリズンの事を書いた小説あるが、あとがきで著者自身も変則と書いている様に、主人公の刑務官、鶴岡は全くの想像人物で、プリズンを中心とした出来事はすべて真実との事だ。

変則2階建てだが、それぞれは非常に良く書けている。鶴岡は、妻との肉体関係をも含めて非常にストイックな人物像や引退後の日常生活の描写が鋭い。巣鴨プリズン、特に戦犯者の行動ついては、いつもの様に資料や証人への取材が丁寧にされており、出来事やエピソードなどが具体的である。

しかし、鶴岡が巣鴨プリズンで刑務官として勤務している中核の部分は、取って付けたような印象である。鶴岡が刑務官を退職後、巣鴨プリズン跡地に建設中の警備会社に勤務すると言うアイデアは良かったが、巣鴨プリズンの事実が重くて、切実なために、想像された架空の主人公、鶴岡の影が薄い。8年間巣鴨プリズンに勤務した事が定年退職しても心に重くのしかかるのは理解出来るが、その間の出来事がなぜ鶴岡への心理的圧迫感になるのかの描写が甘く、今一ピンと来ない。

小説としては、巣鴨プリズンでの出来事の詳細や歴史的を描いているものの、比較的簡単にまとまっており、気軽(?)に読めた。

巣鴨プリズン、同様に東京裁判に関しての私の知識は皆無と言って良い。刑務官として勤務する鶴岡の話なので、裁判の事についてはバックグラウンドとしてしかでてこない。収容されている戦犯についても軍の役職で表しており、実名をほぼ使っていない。出来事が真実であるだけに、特定個人と罪状(?)に興味が湧く。

殆どの巣鴨プリズンの戦犯達に戦争責任は無く、終戦から時間が経つに連れ、東京裁判自体が不当なものなのだという事を、連合国側、日本政府、世論が認識していく変化が、大きな流れとして横たわっている。

俄然、東京裁判、巣鴨プリズンについての興味が湧いてきた。折しも、アメリカは対テロ戦争中(?)なので、キューバの収容所に200人近い戦犯(?)が、もう10年も裁判を待っている。Military Tribunal (軍事裁判)とは何ぞや、そしてその意義と目的。東京裁判が不当であるなら、今後テロリストはどのような審判が下されるべきか、東京裁判を過去の出来事としてではなく、考えていけそうだ。

巣鴨プリズン跡地に建設された高層ビルは、池袋サンシャインである。大学が近かったので、展望台に上ったりした事もある。処刑台のあった所に置かれた『永久平和を願って』の碑なども、当時は、全然知らなかった。何処までも救いの無い、馬鹿学生であった。

絆回廊(新宿鮫 X ):大沢 在昌 ここまで来たら一気に読みたい

2011-01-12 08:14:21 | 書評
クライマックスに向けて、テンション、スピード感ともドンドン上がってきているのに、毎週チョボットしか読めないのは辛い。なんとかして欲しい。

なぜウェブ連載なのか、やっぱり、さっぱり、理解出来ない。

もうそこまで来ているのだから、我に一気に読む快楽を与え給え。


こちらでチンタラ続いてます。


過去のエントリー
絆回廊(新宿鮫 X ):大沢 在昌 10月15日で前半終了 (9-27-10)
絆回廊(新宿鮫 X ):大沢 在昌 (3-20-10)

大黒屋光太夫:吉村 昭

2010-11-29 11:04:34 | 書評
大黒屋光太夫』は、吉村昭作品という事と、司馬遼太郎の『菜の花の沖』との関連で興味があったのだが、同じロシアでも内容は全く別物であった。時代としては、大黒屋光太夫が先で、彼の活躍(ロシアへの情報提供、幕府への情報提供やロシア語理解への貢献)が、高田屋嘉兵衛の事件を誘発したとも考えられる。これだから歴史物を読むのは止められない。(『大黒屋光太夫』の最後の方に高田屋嘉兵衛の事件(ゴローニン事件)が出てくる)

『菜の花の沖』は江戸末期の日本の海運業や松前藩や幕府による北海道開発に詳しく、『大黒屋光太夫』は日本との外交への意欲が強いロシアの状況が理解出来る。

吉村昭が得意とする漂流物であり、全部で6編ある漂流記の最後の作品だ。文庫版のあとがきで、今後漂流記を書く事はないと宣言している。(その後数年で亡くなった)

以前読んだ『アメリカ彦蔵』に比べて、早いペースで読み終えた。読書としては快適であったが、ちょっと物足らない感じがあった。原因は、ロシア取材(光太夫の軌跡)を取材していない事にある様な気がする。年齢、健康上の問題で取材が難しかったのではないだろうか?(私の推測があたっているとすると)チョピリ残念。もうひとつの要因としては、遭難から帰国まで10年間なのだが、当時のロシアの移動は時間が掛かるだけで、本当に退屈なのではないかとも思う。

吉村昭は、光太夫の出身地三重県白子浦港で、遭難した17人中たった2人(3人いたがもう1人は北海道で死亡している)帰国がかなった光太夫のほかのもう1人の水主、神蔵の私的な見聞録に触れた事を大事に考えている。光太夫の幕府公式見聞記録との複眼がで来た事で、書ける確信が出来たそうだ。それだけにロシア取材がないのが本当に悔やまれる。

江戸時代から幕末の漂流記を読んでいつも感動するのは、ロシア、アメリカ等の漂流者を救った方の善意である。漂流者にかかわる人々の善意の相乗効果で、光太夫は女帝エカテリナ、アメリカ彦蔵はリンカーン大統領にまで謁見している。それぞれの国が日本との国交を探っていた時代背景はあるが、バラバラに発展してきた日本を含めたこれらの国々が、一気に絡み合う歴史のダイナミックスさがある。

それにしても、ロシアの役人や商人はタフだ。シベリアを横断しカムチャッカやアリューシャン列島の西の端に、何年も住むのである。それだけこの界隈穫れるラッコの毛皮等がヨーロッパで高価だったという事であろう。冬期には過酷なシベリアの陸路も整備されているのには驚く。

ロシアでの苦労話が大半なのだが、帰国してから幕府や洋楽者への情報提供者となったところが面白い。明治維新では賊軍となった幕府であるが、光太夫のような博学で貴重な体験をしたものをキチンと厚遇している。幕僚による諸外国の分析も正確であるが、鎖国しているので外交政策を立案する事は無かった。明治維新以来近代国家の基礎造りで、外交面で多くの幕臣の知識や実務能力が活かされているように思われる。

吉村昭の入門編としては取っ付き易いが、ファンとしてはちょっと物足りない感じ。それなりに有用だったがインパクトがなかった。

END THE FED: Ron Paul

2010-11-17 07:05:10 | 書評
Ron Paul については、2008年の共和党大統領選への立候補(リーマンショック前)くらいまでは、色物的なリバタリアン政治家の認識しかなかったのであるが、リーマンショックを経て彼の主張を改めてみてみると、保守(というかリバタリアン)の原理原則に則った非常にシンプルで力強い信念に基づいている事が分かる。

(私だけかもしれないが)エキセントリックだと思われていた政治家が、本流になる可能性を秘めている事が凄い。アメリカ政治シーン、アメリカ社会の根本が大きく転換しているのを感じられずにはいられない。

"End The Fed" は、現在の経済だけでなく、外交(戦争)等の問題も、中央銀行システム(政府(もしくは治世者)が不換貨幣を発行出来る)に根本的な原因があるということを、歴史的に解説しながら、金本位制度への回帰を訴える内容となっている。金本位制復活と聞くだけで瞬間的にアナクロな気がするのだが、この本を読んでみると、いかに現在の通貨制度と金融政策に毒されているのかに驚かされる。

ビザンチン帝国の滅亡の原因が戦費調達のために金貨の質を落としたことから始まり、第一次世界大戦の戦費を賄うためにヨーロッパ諸国が金本位制をやめてしまったことは、大きな示唆を与えている。そしてアメリカでは、1910年に FED の構想が(J.P. Morgan と Rockefeller 系の人々が参加している)がまとまり1913年に設立される。1917年にはアメリカはヨーロッパの紛争に参戦するようになるのであるが、これは FED のお陰だと皮肉っている。

FED の設立の大義は、それまで繰り返された景気の大きな振れを防ぐためであったのだが、政策的には失敗続きであり、結果的に1929年の大恐慌を引き起こす事になる。(一方で、1900年にアメリカは金本位制を採用しているが、運用の不手際を原因の一つに挙げている)

19世紀から20世紀に掛けての中央銀行の設立、つまり、政府による通貨管理(乱発)は、結果的に、アメリカでは帝国的な大統領制をもたらし、ドイツではスーパーインフレによるヒットラーの出現を許し、ロシアを社会主義にしたとしている。

アメリカの金本位制度は1971年に終わるのであるが、レーガン大統領のときに復活の可能性があったが、政治的な駆け引きの中で実現していない。但し、当時 Ron Paul も参加していた議会の小委員会の活動の成果として、1985年に何十年も禁止されていた個人による金貨の所有が解禁となったとしている。

ちょっと唐突で中だるみ的ではあるが、下院議員として、FED の実態を知るために公聴会などでの FED 議長とのやり取りなども収めてあるのだが、昔はグリーンスパンが金本位制に賛成していたとか面白い事実も述べられている。 バーナンキのことはコケ下ろしている。

(追記:ボルカー議長と打合せの時のエピソードとして、FED が金相場に非常に敏感である事が出ていた。ドルの通貨量を増やす事はインフレになる事を(当たり前ではあるが)意識しており、そのインディケーターとして金の価格を重視してたとの事だ。FED だけではなく各国の中央銀行は、金価格が上昇すると市場に金を放出し相場を冷やすらしい。非常に高騰している金相場であるが、今後どのような展開になるのか今でも大きい興味が倍増。もう一つ、中央銀行が金市場に介入しているのなら、保有している金の量に変化がどうなっているかと疑問が沸いてくる。Ron Paul が FED の方針や運営が、一切秘密になっていると言う意見も説得力がある。)

後半は、なぜ FED を終わらせなければならないかを、いろんな観点から提案している。FED の存在が、不道徳であり、憲法違反であり、実効性がなく、経済に悪い影響を与え、専制的な政府の道具にしか過ぎず、究極的には個人の自由を奪う事になるとしている。

FED (中央銀行制度)は、戦費を賄うためと、政治の道具(ばら撒き政策用)として生まれたので、結果的に戦争と政治汚職を生む。金本位制に戻れば、そもそも中央銀行は必要なくなるとしている。

聖書にも金貨(金本位制)の価値についての記述とか、もっと古くは紀元前の金貨の事とか、近代の通貨制度と金本位制の関係など、勉強し直す事を迫ってくる。

Ron Paul の歴史解釈、主張に反対、賛成はあると思うが、とにかく考えさせられる本である。現存する制度を当たり前だと思わないと言う解毒効果は抜群である。

ここは騙されたと思って、是非読んでみる事をお勧めする。


数年ほど前に、唐突に世界統一通貨と言う考え方は素晴らしいのではないかと思い、少し関連の本などを読んだ事があるが、もし、現在でも何とか基軸通貨であるドルが金本位制に戻れば、実質的な世界統一通貨ということになる。

世界統一通貨になれば通貨危機はなくなるし、金本位制でのもとでは、実質経済を支える以上の人工的なマーケットは必要がなくなる。所謂マネーゲームと呼ばれる、実物経済を翻弄するだけの金融機能はなくなってしまうであろう。金融、銀行の規制もシンプルなものとなるだろう。中央銀行制度と金融制度規制というマッチポンプ的で、焼け太り的な政府の自己増殖も終焉させられる。

中央銀行(政府)による管理通貨制度が、経済の安定をもたらす為に設立されたのに機能しない事は明らかである以上、金本位制度の復活をを真剣に考える事は経済学者の義務ともいえる。そして、戦費調達用の政府の打ち出の小槌である事が本当であるのなら、不必要な紛争を防ぐためにも研究が必要であろう。

LIGHTS OUT! : Spencer Abraham

2010-10-27 16:59:19 | 書評
"lights Out!" は、ブッシュ政権で2001年から05年までエネルギー長官であった Spencer Abraham が、エネルギー問題を巡る10迷信(と言うか妄想)を切り口に、エネルギー、主に電力の現状と現実的な解決方法を提案している本である。

今年読んだ本の中では、一番面白い本であった。アメリカ事情が中心なのであるが、エネルギー問題はグローバルにならざるを得ないので、是非日本でも翻訳が出版されて欲しい。もしくは、日本のエネルギー事情をこの本のように総括的に理解出来、政策提言にまで踏み込んだ本が出版される事を願う。

まず、10の迷信である。

1)アメリカはエネルギー自給が出来る
2)ガソリン価格の急激な上昇は石油会社の陰謀である
3)地球温暖化は全く事実無根である
4)原子力発電は危険である(スリーマイル島発電所のように)
5)再生エネルギーは環境に負荷を掛けない
6)石炭、石油の時代から天然ガスの時代に突入している
7)CAFE Standard (燃費総量規制)を30%厳しくすれば、石油消費が30%が減る
8)高圧電線はガンの原因である
9)政府が正しいエネルギー技術を選び、補助金を出すべきである
10)マンハッタン計画(原爆製造)のような画期的なプロジェクトでエネルギー問題は全て解決する

彼自身は共和党出身であるが、事実をもとにエネルギー問題を論じているし、10の迷信も政治的な偏重はなく非常に冷静である。

まず、過去、現在、予想される未来の分析から始めている。例えば、1960年に20%であった石油輸入は2009年は63%、現在21%である発電の原子力の割合は2050年には0%、2005年から2030年でグローバルのエネルギー消費量は38%増える事等が述べられている。

エネルギー市場でも経済原則が働く事(当たり前ではあるが)、地政学上の問題、環境問題を危機として捉え、なぜ過去のエネルギー政策が上手くいかなかったのかを、議会、行政、環境団体、マスコミ、実業界、エネルギー省、最後に人々と、多方面に渡り複雑に絡み合った問題点を的確に指摘している。その上で、夢のような解決策はなく、現在実用若しくは実用確実な全ての技術を有機的に発展さす事で解決を図ろうと提案している。

2030年の発電量として、原子力発電30%、再生エネルギーと効率化で30%(水力5%、再生エネルギー15%、スマートグリッド等の効率化で10%)、石炭、天然ガス25%、クリーン石炭5%でバランスを目指す事を提言している。それぞれ利点と限界を明らかにし、提案の根拠を示している。

再生エネルギー、風力や太陽電池については環境にやさしいというイメージとは裏腹に、環境を含めて問題が多く、限界が示されている。

逆に、原子力の安全性と将来性について詳しい。(個人的に勉強になったので、不必要なまでに詳しく書いておく)

まず、危険性についてだが、原子炉自体の安全性、原子力発電所へのテロの危険性、核兵器への転用、核廃棄物の問題(但し、再処理をすれば核廃棄物は限りなく少ないとしている)を挙げている。地震の心配をしていないのはアメリカらしいが、これは原子炉自体の安全性と関連する。

まず、原発用の濃縮ウランの話から始まる。ウラン鉱石の濃度は0.7%、原発用として利用するためには3%に濃縮する必要がある。核爆弾にするためには90%まで濃縮する必要がある。これには莫大な電力と年月が必要である。イランが何年も核の濃縮に掛かっているのは、こういう事情がある。

原子炉は構造的に暴走できないように出来ている。最悪の事態となったスリーマイル島の事故でも、近辺で検出された放射線はチェルノブイリ事故で同じ場所で検出されたそれより少なかった。これは原子炉を守る構造と核反応の媒体(スリーマイルでは水)の違いによるものである。(チェルノブイリは全く違う構造であった。今ではロシアさえも暴走出来ない構造になっている)日本では原発からの排水の放射能について心配しているが、その話は全然出てこない。(日本の心配は的外れか?)

現在では、原発技術者さえ暴走できないような構造になっているので、万が一テロリストが原発を占領したとしても、そういう意味では心配ない。飛行機や船での体当たりも考えられるが、コンクリートの防護壁が強くてジャンボジェットが当たっても大丈夫らしい。(この映像でコンクリートの丈夫さがわかる)

使用済燃料には、核爆弾の原料となるプルトニウムが生成されて残る。(原子炉を活発に5ヶ月ほど運転すると比較的大量に出来る。北朝鮮はこうして核爆弾用のプルトニウムを取り出した)再処理されるとMOX燃料となり、高速増殖炉の燃料となる。現在、高速増殖炉に実用性が確立されていない。アメリカは、再処理自体をやめているので、使用済燃料は原発敷地内のプールで保管されている。(日本も結構、原発内に保管されている)再処理では医療用の放射線物質もとれる。(アメリカは医療用の全量をカナダからの輸入に頼っている)

アメリカでは再処理をしないので、使用済み核燃料を一括管理するためにネバダ州の地下に巨大な洞窟を掘り、氷河期が来ても大丈夫になっているのだが、未だに使用許可が下りていない。

現在アメリカでは104基の原発が稼動中だが、安全性の面から言えば今日のものに見劣りする。2030年に発電量の30%を賄おうとすると、50基の原発が新たに必要となる。スリーマイル事故以来、新規の原発建設がないので、アメリカでは製造技術がなくなってきている。これは行政側も同じあり、特に建設許可の経験者がいなくなってきている。

今後のことを考えると、同じ重量なら化石燃料の2百倍のエネルギーを発する核エネルギーを利用することは不可欠な事を強調し、エネルギーの現状、増え続ける需要、現在確立している技術、バランスの取れたエネルギー政策を迅速める事を強く訴えている。

"lights Out!" の日本語訳が出る事を期待するのと、資源エネルギー庁長官経験者なりが、同様な啓蒙的な本を出版する事を義務と感ずるべきだと思う。Spencer Abraham もエネルギー長官として、アメリカのみならず世界各国の事情を見ていること、公聴会での経験等を反映させており、そのことが現状分析、提言に深みと幅を与えている。

エネルギー問題を考える上で非常に参考になる一冊である。英語の読める人は是非。

アポロ 13:ジム・ラベル&ジェフリー・クルーガー

2010-10-27 08:35:48 | 書評
デトロイト郊外に日本人向けの雑貨屋さんっぽい店があり、古本も扱っている。漫画の方が多いくらいで、たいした品揃えではないのだが、文庫本に時々私のツボにはまる本がある。マイナーなものは価格設定も低めである。

先日書評エントリーした『ただ栄光のために』とか、今回の『アポロ13』は、2週間前に娘にせがまれて学習帳を買ったついでにそこで購入したものだ。『ただ栄光のために』が$0.49、『アポロ13』が$0.99、申し訳ないような値段だ。

さて、映画 "Appolo 13" を見たときから原作の "Lost Moon" を読んでみたいと思っていたが、ひょんなきっかけで翻訳本を先に読む事となった。随分昔に立花隆が訳した『アポロ13号 奇跡の生還 』を読んで、原書を探したのだがかなわず、読むアポロ13号は、不完全燃焼のままであった。

さて、『アポロ13』だが、会話や専門用語で訳のこなれていないところが多々あるものの、内容の重厚さに支えられて読み応えがあった。

原作は、アポロ13号の船長であった Jim Lovell とジャーナリストの共著になっており、Jim Lovell 本人も一人称での登場ではなく、事故全体のドキュメンタリーとなっている。

出だしの毒薬の錠剤(宇宙飛行士がいざと言うときに飲むと言う噂が常にあった)の話から、Jim Lovell の孫娘がアポロ13号の記念品を壊しそうになる最後まで、彼自身の個人的な経験や家族の事も上手く挿入されて、時代背景を上手く映し出している。

アポロ計画は、巨大なプロジェクトの割りに手作り感がある。Jim Lovell も高校生のとき手作りロケットを友人と一緒に打ち上げたりしている。アポロ13号が帰還した要因に NASA の素晴らしいチームワークがあったことは間違いないが、究極的には危機に直面したときの的確な咄嗟の判断をするクルーの力量も大きい。宇宙船の設計から関与しているからこそ次々に持ち上がる問題点に対応可能なのが、ひしひしと伝わってくる。

技術的な詳細とは別に全く知らなかった事実があった。月着陸船には、月面に設置する各種の計測機器の電源として小型の原子炉が搭載してあった。打ち上げに失敗して地球に墜落することも考えて頑丈な耐熱性のセラミック容器に封入してあったのだが、司令船の救命ボートとして地球の引力圏内まで戻ってきたために、地球に墜落する事となった。容器は衝撃に充分耐えれる設計であったが、念の為にニュージーランドの沖の深海に沈むように起動修正を行っている。(結果は書いてない。追記:フィージーの沖で漏れずに沈んでいる。詳細は、コメントで頂いたリンクで)月着陸船に載る位の小型原子炉の出力がどの様なものかは不明だし、原子力発電所から出た使用済みウランがどの位危険なのかは知らないが、究極のリサイクルとして電気自動車の電源に使えないものであろうか?

アポロ11号が月に着陸した夏、漠然と月に行けると思っていた小学2年生であった。アポロ17号以来、人類は地球の引力圏からもう40年近く抜け出せていない。今では考えもしないような事で人工衛星の恩恵に与っているのだが、宇宙開発も、実現しなかった21世紀の夢の一つになりそうだ。

火星は、もっと遠い。