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「グッバイ、レーニン!」─こういう映画こそ歴史映画かもしれない。

2005-09-09 | └歴史映画
ドイツでは大ヒットした映画だそうです。ヴォルフガング・ベッカー監督。主演はダニエル・ブリュール。ほとんど知らないスタッフとキャスト。おかげで何の先入観もなく見られました。

舞台は旧東ドイツ。というより東ベルリン。物語の中心にいるのは、アレックスとアリアネの姉弟。父親は西ドイツに亡命してしまい、二人は残された母クリスティアーネと暮らしています。アレックス少年の憧れは、ジクムント・イェーン中佐。彼は、1978年、ソ連のソユーズ31号に乗りこみ、東ドイツ最初の宇宙飛行士となった人物です。アレックスは宇宙飛行士になりたいという夢を抱きながらも、成人してテレビ修理店で働いています。アリアネはシングルマザー。母は、小学校教師ですが、夫の亡命後、急進的な愛国主義者となり、社会主義の理想を子どもたちに説き続けていました。

1989年10月7日の東ドイツ建国40周年を祝う式典が終わった夜、反体制デモが町を練り歩いていました。デモ参加していたアレックスは、警官に逮捕される。その場面を偶然見かけた母はショックで心臓発作を起こし、その後8ヶ月もの間、意識不明に陥ってしまいます。

ところが、その間、東ドイツは大きく変わってしまいました。というより、彼女の愛した国は消滅してしまったのです。1989年11月にはベルリンの壁が崩壊、東ドイツ社会主義統一党の党書記長ホーネッカーが解任され、東西ドイツは統一されることになったのです。

彼女が長い眠りから覚めた時、医師は二度と大きなショックを与えないようにとアレックスに告げます。そこからアレックスの涙ぐましい努力が始まります。母さんが愛した国、社会主義体制が消えてしまったということを隠し通そうとするのです。「昔」と同じ部屋を作り、母を迎え入れる。旧東ドイツ時代に食べていたピクルスを食べたいと母が言えば、「昔」のビンを探し出してきてオランダ製のピクルスを入れ替えて母に食べさせる。母がテレビが見たいと言えば、同僚のデニスに頼んで「昔」のニュース番組をでっちあげ、ビデオで見せる。誕生日のお祝いに近所の友だちを招いて、と言われれば、事情を話して「昔」と同じフリをしてもらう。かつての母の教え子たちに「昔」と同じ衣装で愛国歌を歌ってもらう。

ウソをいったんつくと、そのウソを隠すためにまたウソをつかなければならなくなります。誕生日のパーティの際、クリスティアーネがふと窓の外を見ると、東ドイツにあってはならないコカ・コーラの宣伝幕が見える。いぶかしがる母に、アレックスとデニスはその理由づけのでっちあげニュースを撮影するはめになる。

このデニスがとてもいい。彼はスタンリー・キューブリックに憧れる青年です。実はこの映画自体にもキューブリックへのオマージュ的なシーンがたくさん散りばめられていて、ニヤッとしてしまいました。二人が母を迎えるために部屋に家具を運び入れるシーンは、「時計じかけのオレンジ」で「ウィリアム・テル序曲」をBGMにコマ落としで描かれる「あの」シーンそのままだし。

ベルリンの壁崩壊、東西ドイツの統一、それらは歴史上の大きな出来事として語られていくだろうし、世界史の教科書にも載っています。しかし、その本当の事情をどれだけ知っているでしょうか。「歴史は人間が作る」ものですが、「歴史的事実」の背景に横たわる、人間の尊厳や気持ちの高ぶり、家族の絆といったことを、歴史教育はどれだけ教えてきているでしょうか。

この映画は、それらを私たちに示してくれます。「あの時」、ドイツの人たちがどんな気持ちでいたのか、家族のつながりをいかに再確認したのか、死にどう向き合ったのか。こういう映画こそ、もしかしたら本当の「歴史映画」と言えるのかもしれません。

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