この年末年始は忙しい思いをしました。「春ウコン」のほかに「文芸春秋」一月号「抗がん剤は効かない」(近藤誠氏)の記事、そのほかにも免疫療法に関する問題などが重なって、調べるべきことが溜まっておりました。そうこうするうち、今度は以前からぼつぼつ探っていた漢方医学に関する情報が目に飛び込んできました。エンドレスです。。。そしてまた、今週には「文芸春秋」二月号に「「抗がん剤は効かない」のか 患者代表・立花隆、近藤誠に質す」の記事がでました。いろいろな論点があり、しかもそれぞれ微妙な問題をふくんでいます。私の仕事にも直接関係することでもありますし、これもそのうち考えをまとめておきたいと思います。
秋ウコン(ターメリック)のクルクミンに関してはもう一つ書いておきたいと思います。通常のカレーなどで摂取する量では問題ないのですが、過剰摂取で危険な場合があります。
「アキウコンは胃潰瘍または胃酸過多、胆道閉鎖症の人には禁忌とされ、胆石の人は医師に相談する必要がある。」(「健康食品」の素材情報データベース より)
胃液分泌の促進、胆のう運動促進、胆汁排泄促進活性のためだと考えられます。春ウコンに含まれるクルクミンの量はターメリックに比べ10分の1ですから、そういう意味でも春ウコンは安全であると思います。また、先日漢方医学における鬱金と姜黄(きょうおう)の違いについて書きましたが、そこにも
「中医学上の鬱金と姜黄の違いは、決して植物の品種の違いではなく、主には同一植物における薬用部分の違いなのである。・・・(中略)・・・日本市場のウコンは中医学における姜黄であり、玉金(春ウコンに相当する(私の注釈))とは寒熱が相反し、効能もかなり異なっているので、混同して用いてはならないのである。」(中医学上の鬱金(玉金)と姜黄と日本の健康食品「ウコン」の錯誤問題について より)
と注意がありました。春ウコンに秋ウコンや紫ウコン(=ガジュツ)を混ぜたものはよろしくないようですから、気をつけたいとおもいます。
さすがに冬らしい寒~い日が続いています。このところ、いろいろ調べものをしていたら沢山の拾いものがありました。そのうちこちらに書きたいとおもいます。職場はいまのところ静かです。職場組織の外側ではいろいろな動きがあります。それはそのうち私たちの職場にも波及してくることでしょう。一種の戦乱があるのです。まあ、東西対決とでもしておきましょうか。いまのところ、状況をフォローしているのみですがいざというときには踏み込めるよう、準備しておく必要がありそうです。
などという、緊張した状況を過ごしているわけですが無事に過ごさせて頂いております。ありがたいことです。
2)春ウコン研究会HPのがんに関する記述について
HPの中で紹介されている様々な症例については、体験談というのがふさわしいかと思います。症例研究として成立させるにはやはり臨床データが必要かと思います。しかし、医療機関の外側からの支援でありながら、単なる「効きました」というのにとどまらない記述は著者の方々が自然科学の専門家であればこそとおもいます。本来はきちんとした組織で十分な臨床試験ができれば最善なのですが、現状では大変難しいことだと思います。こころある臨床家がご自分の裁量で治療をおこなわれ、症例を重ねて頂くのが最も現実的な方向性かと思います。
ところで今回わざわざこの2)を書くことにしましたのは、こちらに書かれているがんに関する記述が多くの誤解を生じかねないと感じたからです。
私が違和感を感じますのは4章に述べられている試論(その二)です。冒頭で
「多くの癌と成人病は, 春ウコンの短期間摂取後に治癒状態となる. しかし, 春ウコンの摂取をやめると, 治癒した末期癌・成人病など広範囲の疾患が再発する. よって, これらの疾患は, 免疫系が非自己と認識して発症を抑えている[感染症]である.」
とあるのですが、少々結論を急ぎ過ぎているように思います。必ずしも感染症を考える必要はなく、免疫系のバランスの崩れが、一時的に正されてもその状態を持続させるためには時間がかかる、とも考えられます。
そもそもがんは感染症であるのか?これはかなり古典的な設問で、約100年くらい前のがん研究者はがんの原因が微生物の感染か?遺伝か?それとも化学物質か?で議論していたことがあります。
1911年にはペイトン・ラウスによってニワトリに肉腫を生じさせる濾過性病原体として腫瘍ウイルス、ラウス肉腫ウイルス (Rous sarcoma virus, RSV) が発見されました。
またこの当時、ウイルヒョウの刺激説、コーンハイムの迷芽説(遺伝など、もともとがん細胞を持っていたとする)なども提唱されていました。そしてその刺激説にかかわる決着は日本の学者がつけました。
「1915年に日本の病理学者である山極勝三郎と市川厚一が、ウサギを用いた実験において、コールタールを刺激物として実験的にがんを発生させることに成功した。」(ウィキペディア・発癌性より)
すなわち、がんは感染症で起こるものもあるが、化学物質による発がんも証明されているということです。
また、分子生物学が発達して以降、90年代には次々と家族性がんの原因遺伝子もクローニングされ(例えばp53、APC、Rbなど)、マウスにおいてもこれらの遺伝子に変異を入れるとがんを発症してくるということがわかったのです。つまり、遺伝によってがんを発症することもあるということが証明されたのです。
現在のところがんの一次的発生要因は
(1)発がん性微生物、たとえば細菌(ヘリコバクター・ピロリ菌)やウイルス(一部の肝臓がん、ヒト成人T細胞白血病、子宮頸癌、一部の悪性リンパ腫、カポジ肉腫)
(2)発がん性化学物質、たとえばベンツピレン(タール中の物質)、アスベストをはじめアフラトキシン(ピーナツなどに生えるカビが産生する自然界における強力な発がん物質)など多数
(3)放射線(X線、ガンマ線)、紫外線
(4)遺伝(p53、APC、RB、BRCA、その他多数の遺伝子の突然変異による)
であると理解されています。がん細胞には遺伝子変異が観察されますが、これが原因の場合も結果の場合もあり、一概にはいえません。しかし、はっきりしていることは、がん細胞の遺伝子は変異を持っていることです。
ところで、ごく一部のがんを除き(例えばRB遺伝子変異を持つ患者さんは殆ど全て5歳までに網膜芽細胞腫を発症します)一般的に、がんを発症するまでにはかなり長い年月を要します。これが意味するところは、遺伝的に普通の方のがんの発生は、さまざまな生理的過程をへた後のことである、ということです。その生理的過程の中には遺伝子傷害の修復、遺伝子発現制御(エピジェネティックなものも含む)、細胞周期制御、慢性炎症、免疫系応答、アポトーシスなどがあり、このどの過程に関係する遺伝子に変異が起きても発がん率は跳ね上がります。
ともあれ、問題はがんの予防と治療です。重要なのは、ヒトの生理的機能のうち、一度形成されたがん細胞に対して対抗できるのは免疫機構のみであるということです。先ほども述べた通り、がん細胞には遺伝子変異があり、正常細胞では生成されることのないタンパク質を持っています。細胞表面に出ているタンパクのみならず、何らかの原因でアポトーシスやカタストロフィによる細胞死をおこした場合、その断片がマクロファージなどによって貪食、清掃されることにより、抗原提示細胞へその情報が伝わります。そして正常な免疫系が機能していれば、がん細胞は異常細胞として認識され細胞傷害性免疫細胞の積極的な攻撃対象になっていくのです。この一連の出来事はおそらく毎日われわれの身体の中で起こっていると考えられています。したがって、免疫系の機能低下が発がんリスクを上げるということになり、実際に原発性免疫不全症候群の患者さんは発がんしやすいことが分かっています。
これらのことから、免疫系の機能向上ががんの予防と治療に重要であるということが、理解して頂けるとおもいます。それゆえ、丸山ワクチンや、今回話題にしている春ウコンや、まだ発展途上の免疫療法があるのです。免疫系の複雑さは本当に手強いものです。しかしいつかは免疫系を十分に理解し、がんへの対策が立てられるようになることを目指していくべきであると考えています。
春ウコン研究会の方におかれましては、できればこれまで100年以上にわたって営々と積み重ねられてきた多くの誠実ながん研究の成果に対して、いま一歩のご考慮をいただきたいとおもいます。本来でしたら直接当該HPの方にお伺いするのが筋かとおもうのですが、お問い合わせ先のリンクは残念ながらまだ準備中とのことでした。そこで、こちらにまずは私の意見をまとめさせていただいた次第です。
今年は七草を使ってとろみのついたお汁をつくりました。最近は生の七草をスーパーなどで買うことができます。全てみじん切りにして、だし汁に入れ、一煮立ちしたところで葛でとろみをつけました。白粥にかけるもよし、私はふつうのご飯にかけてみましたがそれもなかなかよかったです。草の香り、土の香りがして、野の力を感じました。
昨日、春ウコンに関しての話しをまとめて、今日は春ウコン研究会のがんに関する記述についてまとめていたところです。
糖尿病やがんを患っている方は「春ウコン研究会HP 第二章 2.1(2) 春ウコンの用法用量 (摂取方法)の概略」を参照されるとよろしいかと思います。
また、クルクミンがアルツハイマー症に効果する、という趣旨の金沢大学の先生による元論文は「アミロイド繊維形成の重合核依存性重合モデルと繊維形成阻害薬の探索」YAKUGAKU ZASSHI 130(4) 503-509 (2010)です。ただし、クルクミンに関しては肝臓障害やアレルギー症状などの副作用が報告されています。
各種健康食品販売サイトでは春ウコンに秋ウコン、紫ウコン(ガジュツ)を配合したものを販売していますが、春ウコンに含まれる薬効成分のバランスが崩れることもあり、様々な効果が減弱すると春ウコン研究会のHPにはあります。気をつけられるとよいかも知れません。
春ウコンシリーズ2)はまた後ほど。。。
1)春ウコンについて
2)春ウコン研究会HPのがんに関する記述について
1)春ウコンについて
まず「春ウコン」は「ウコン」とは異なるものであり、成分はもちろん薬効も違うのだということがよくわかりました。○○○の力とか世間でさかんに宣伝されている「ウコン」は別名「秋ウコン」、カレーに用いられる香辛料ターメリックのことです。主な薬効成分はクルクミン、ターメリックの黄色を示す色素です。胆汁の分泌をよくし、胃の調子を整えるとされています。このターメリックは黄色の染料としても使われてきました。インドでは外用にも使われ、傷の治療、美容にも用いられているようです。
ところで「春ウコン」は「ウコン」(秋ウコン)と何が違うのでしょうか。植物としては同じショウガ科ウコン属ですが、異なる種です。ウコンに比べ苦く、ショウガのような見た目は同じですが、中身は黄色が強いです。ウコンはどちらかというとオレンジ色に近い色です。成分的にはクルクミンはウコンの10分の1、しかし精油成分は6倍含まれ、効果の範囲も広いと言われています。
ウコンの歴史は古く、インドのアーユルヴェーダ植物に記載されているとのことで、約6千年前から栽培され医療に用いられてきたということです。そしてびっくりしたのは周の時代(紀元前1047年頃~256年頃)倭国からウコンが献上されたとの記載があるとのことです。日本から中国に伝わったというのです。例えば、中国には古代中国(紀元前2740年頃)伝説の人物「神農」(牛頭人体だそうです。。。)が365種の薬物を紹介した、本草の古典『神農本草経』があります。しかしこれは原本は残っておりません。ただこれを底本として書かれたとされる、南朝(500年頃)時代に出版された『神農本草経注』にはウコンの記載がないそうですから、やはり古代中国では知られていなかった生薬なのかもしれません。時代は下って明時代末の1596年、李時珍による『本草綱目』にはウコンが記載されています。しかしこれはどうやら秋ウコンのことのようです。
春ウコン研究会その他のHPには、ウコンは漢方の三品分類(さんぼんぶんるい)では上品(じょうぼん)=不老長寿薬に分類されているとあるのですが、この点に関しては中品(ちゅうぼん)=保健薬と書かれている文書もあり、これはもう少し調べる必要がありそうです。またややこしいことに、漢方の配合薬(中草薬)としての鬱金(うこん)とは春ウコン(植物としては中国では鬱金、日本では姜黄)または秋ウコン(植物としては中国での姜黄、日本では鬱金)の塊根部分をいい、根茎を姜黄(きょううおう)というそうです。しかし上記のことが正しいとしますと、漢方では塊根部分であれば春ウコンと秋ウコンを区別しないで鬱金として用いるとのことになり、いささか疑問に思います。中医学の様々な古書、教科書においても混乱がみられるということで、鬱金に関しては今後の研究がまたれると「ウチダの和漢薬情報」にはありました。
(独)国立健康・栄養研究所のデータベースにも秋ウコン(Curcuma longa L.)や紫ウコン(ガジュツ)については記載がありましたが、春ウコン(Curcuma aromatica)については記述がありませんでした。また、秋ウコンの場合のような重篤な副作用もほとんど報告がないようです。総じてあまり突出した薬効成分がみられない春ウコンだからでしょうか、今のところデータが不足しているという感じがします。逆にそれほど危険性はない植物ともいえるでしょうか。沖縄や屋久島で誠実に栽培、加工されているものであれば大丈夫とおもいます。
春ウコンの効果ががんに限らず、糖尿病、主に自己免疫疾患と考えられるいくつかの難病、アレルギー疾患に及んでいるという点は大変興味深く思いました。またがんの症例29例のうち有効であったのが24例というのは驚異的な数字です。これが本当にがんの全症例なのかどうか興味深いところです。また、がんが退縮しCTなどで検出されなくなった時点で春ウコンの摂取を止めるとすぐに再発し増悪したという転帰は丸山ワクチンのことを彷彿とさせます。春ウコンが免疫系を賦活化し、がんを退縮させると考えるのは自然なように思います。どのくらい摂取を続けることで、がんが完治し発がん体質を変えることができるのか、何らかの目安はあり得るのか、今後の検討がまたれるところではあります。