さすがに冬らしい寒~い日が続いています。このところ、いろいろ調べものをしていたら沢山の拾いものがありました。そのうちこちらに書きたいとおもいます。職場はいまのところ静かです。職場組織の外側ではいろいろな動きがあります。それはそのうち私たちの職場にも波及してくることでしょう。一種の戦乱があるのです。まあ、東西対決とでもしておきましょうか。いまのところ、状況をフォローしているのみですがいざというときには踏み込めるよう、準備しておく必要がありそうです。
などという、緊張した状況を過ごしているわけですが無事に過ごさせて頂いております。ありがたいことです。
2)春ウコン研究会HPのがんに関する記述について
HPの中で紹介されている様々な症例については、体験談というのがふさわしいかと思います。症例研究として成立させるにはやはり臨床データが必要かと思います。しかし、医療機関の外側からの支援でありながら、単なる「効きました」というのにとどまらない記述は著者の方々が自然科学の専門家であればこそとおもいます。本来はきちんとした組織で十分な臨床試験ができれば最善なのですが、現状では大変難しいことだと思います。こころある臨床家がご自分の裁量で治療をおこなわれ、症例を重ねて頂くのが最も現実的な方向性かと思います。
ところで今回わざわざこの2)を書くことにしましたのは、こちらに書かれているがんに関する記述が多くの誤解を生じかねないと感じたからです。
私が違和感を感じますのは4章に述べられている試論(その二)です。冒頭で
「多くの癌と成人病は, 春ウコンの短期間摂取後に治癒状態となる. しかし, 春ウコンの摂取をやめると, 治癒した末期癌・成人病など広範囲の疾患が再発する. よって, これらの疾患は, 免疫系が非自己と認識して発症を抑えている[感染症]である.」
とあるのですが、少々結論を急ぎ過ぎているように思います。必ずしも感染症を考える必要はなく、免疫系のバランスの崩れが、一時的に正されてもその状態を持続させるためには時間がかかる、とも考えられます。
そもそもがんは感染症であるのか?これはかなり古典的な設問で、約100年くらい前のがん研究者はがんの原因が微生物の感染か?遺伝か?それとも化学物質か?で議論していたことがあります。
1911年にはペイトン・ラウスによってニワトリに肉腫を生じさせる濾過性病原体として腫瘍ウイルス、ラウス肉腫ウイルス (Rous sarcoma virus, RSV) が発見されました。
またこの当時、ウイルヒョウの刺激説、コーンハイムの迷芽説(遺伝など、もともとがん細胞を持っていたとする)なども提唱されていました。そしてその刺激説にかかわる決着は日本の学者がつけました。
「1915年に日本の病理学者である山極勝三郎と市川厚一が、ウサギを用いた実験において、コールタールを刺激物として実験的にがんを発生させることに成功した。」(ウィキペディア・発癌性より)
すなわち、がんは感染症で起こるものもあるが、化学物質による発がんも証明されているということです。
また、分子生物学が発達して以降、90年代には次々と家族性がんの原因遺伝子もクローニングされ(例えばp53、APC、Rbなど)、マウスにおいてもこれらの遺伝子に変異を入れるとがんを発症してくるということがわかったのです。つまり、遺伝によってがんを発症することもあるということが証明されたのです。
現在のところがんの一次的発生要因は
(1)発がん性微生物、たとえば細菌(ヘリコバクター・ピロリ菌)やウイルス(一部の肝臓がん、ヒト成人T細胞白血病、子宮頸癌、一部の悪性リンパ腫、カポジ肉腫)
(2)発がん性化学物質、たとえばベンツピレン(タール中の物質)、アスベストをはじめアフラトキシン(ピーナツなどに生えるカビが産生する自然界における強力な発がん物質)など多数
(3)放射線(X線、ガンマ線)、紫外線
(4)遺伝(p53、APC、RB、BRCA、その他多数の遺伝子の突然変異による)
であると理解されています。がん細胞には遺伝子変異が観察されますが、これが原因の場合も結果の場合もあり、一概にはいえません。しかし、はっきりしていることは、がん細胞の遺伝子は変異を持っていることです。
ところで、ごく一部のがんを除き(例えばRB遺伝子変異を持つ患者さんは殆ど全て5歳までに網膜芽細胞腫を発症します)一般的に、がんを発症するまでにはかなり長い年月を要します。これが意味するところは、遺伝的に普通の方のがんの発生は、さまざまな生理的過程をへた後のことである、ということです。その生理的過程の中には遺伝子傷害の修復、遺伝子発現制御(エピジェネティックなものも含む)、細胞周期制御、慢性炎症、免疫系応答、アポトーシスなどがあり、このどの過程に関係する遺伝子に変異が起きても発がん率は跳ね上がります。
ともあれ、問題はがんの予防と治療です。重要なのは、ヒトの生理的機能のうち、一度形成されたがん細胞に対して対抗できるのは免疫機構のみであるということです。先ほども述べた通り、がん細胞には遺伝子変異があり、正常細胞では生成されることのないタンパク質を持っています。細胞表面に出ているタンパクのみならず、何らかの原因でアポトーシスやカタストロフィによる細胞死をおこした場合、その断片がマクロファージなどによって貪食、清掃されることにより、抗原提示細胞へその情報が伝わります。そして正常な免疫系が機能していれば、がん細胞は異常細胞として認識され細胞傷害性免疫細胞の積極的な攻撃対象になっていくのです。この一連の出来事はおそらく毎日われわれの身体の中で起こっていると考えられています。したがって、免疫系の機能低下が発がんリスクを上げるということになり、実際に原発性免疫不全症候群の患者さんは発がんしやすいことが分かっています。
これらのことから、免疫系の機能向上ががんの予防と治療に重要であるということが、理解して頂けるとおもいます。それゆえ、丸山ワクチンや、今回話題にしている春ウコンや、まだ発展途上の免疫療法があるのです。免疫系の複雑さは本当に手強いものです。しかしいつかは免疫系を十分に理解し、がんへの対策が立てられるようになることを目指していくべきであると考えています。
春ウコン研究会の方におかれましては、できればこれまで100年以上にわたって営々と積み重ねられてきた多くの誠実ながん研究の成果に対して、いま一歩のご考慮をいただきたいとおもいます。本来でしたら直接当該HPの方にお伺いするのが筋かとおもうのですが、お問い合わせ先のリンクは残念ながらまだ準備中とのことでした。そこで、こちらにまずは私の意見をまとめさせていただいた次第です。