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無知の知

ほたるぶくろの日記

新型コロナウイルス「感染」の検査について

2020-03-07 10:45:03 | 生命科学
新型コロナウイルスの検出はかなり難しいことが、さらに良くわかってきています。

これまでに何度かお話ししてきましたが、まず、ウイルスの増殖場所が容易に検体を採取できる場所ではない、という難問があります。

インフルエンザなどは咽頭の粘膜でも増殖しますので、そこの拭い液には十分な数のウイルスが存在し、検出できます。しかし、コロナウイルスは呼吸器系のかなり奥の細胞で増殖するため、喀痰などでないとウイルス量が十分でない場合が多そうです。

また、喀痰からRNAを抽出するのは結構大変なことです。とても効率は悪いでしょう。

検査の出発点から、既に偽陰性になる可能性が格段に高いのです。検体の採取の際、肺に近い部分での検体採取ができれば良いのですが、検査を受ける方の負担や危険を考えますと難しい。嘔吐される場合もあることから、検体を採取する側の感染危険性もあります。

口腔内のどこかにも潜んでいそうだ、との宮坂先生の見解もありますが、早くその場所が特定されればよいな、と期待しています。

さて、このようにウイルスそのものをつかまえて検出しよう、という方法の他、逆に感染した方は既に「抗体」を持っているはずなので、それを検出する、という方向の検査もあり得ます。

それが昨日ご質問で頂いた、「血液検査で新型コロナウイルスへの抗体が検出」につながります。

つまり題名にしました、『新型コロナウイルス「感染」の検査』です。

(この先の説明のため、まずは『抗原』という言葉をご記憶ください。抗体はヒトなどの生物が『抗原』に対して作成するものです。)

これは「抗原」=「新型コロナウイルスそのもの」をもちいて、患者さんの血清を反応させる、免疫学的検査です。

しかし、この検査は判定の基準がとても難しい。おそらくは「抗原」を希釈し、どの程度で反応が消えるかを観察することで、「特異的抗体」が存在するしないを判定することになると思いますが、基準をどこに設けるかは非常に疑問。

(もちろん、たんぱくとたんぱくの反応性の問題ですから、生化学的に特異性(結合の強さ)を検出することもできると思いますが、現状の抗体の「特異性」の判定とはこの程度のものです。)

ここで「抗原」=「新型コロナウイルスそのもの」とあっさりいいましたが、おそらくは新型コロナウイルスに特異的なたんぱく質を用いませんと、「他のコロナウイルスや似た『何か』」に対する抗体も検出されることになります。

(しかし、実はこの「抗原」として何を用いるのか?はかなり難しいのです。ここはこれ以上述べません。難しい、ということのみ、知っていて頂けますと助かります。)

この基準を世界的な診断基準として認められるもの、とするにはおそらく一年程度はかかると思います。

昨日のhiさんのご質問で紹介頂いた記事では、ごく簡単に「抗体が検出され」とありますが、一体何を「抗原」として用いた「どの程度の陽性反応」であったのか、の記述がありませんと「意味不明」です。

とてもではありませんが、現状では「抗体が検出され」などと断言する根拠はないと思います。

おそらく、現場での取材の際には医療機関の方の苦肉の策として、何とかその患者さんのウイルス証明をしたい、ということで「抗体の検出をやってみたら、陽性のようだった」程度のことだと思います。

明確な基準を設定した
「特異的抗原」による血清テスト(=抗体検出テスト)
の方向性も可能性がなくはないので、追求するのもありかもしれません。とくに今回のウイルスのように検体が採取し難い場合には有効かもしれません。被験者の負担が少ないことは良いことです。

しかし、現状ではこの検査法が広く診断用に使えるものとして開発が終了している、という話しは伝わってきていません。今後の情報に注意したいと思います。


さて、やっとhiさんのご質問に答える準備ができたようです。
質問は下記でした。
---------------------------
(1)既に判定に使用可能である「特異抗体」を確定できているということになるのでしょうか?
(2)それとも、「抗体」ではあるけども、実は特異性は低いのか?
---------------------------
まず
「新型コロナウイルス」に対する「抗体」の検出検査
とは
「新型コロナウイルス」に対する「特異的抗体」の検出検査
を意味します。
「特異的ではない抗体の検出?」は診断には不要ですし、意味がありません。

(1)ですが、現状で「「特異抗体」を確定」することは不可能です。
それが存在する可能性が高いかどうか(あるかないかではない)を「判定」することができる、という検査です。

(2)のご質問に対する答えは、
抗原への特異的な反応をする抗体はあるが、ウイルス排除に効果があるかどうかは別。

特異的抗体を持っているのにウイルスを排除できていない、ということは非常に問題で、それがその患者さんの症状を重くしているのだと思います。また持続感染の問題もこれが原因かもしれません。

このようなことが何故生じるのか、という点については抗体の「特異性」について理解が必要です。


さて、周囲の方も含め、様々なご質問を頂いておりまして、どうやら一般の方々が抱いている「抗体」と我々の頭の中にある「抗体」の概念が一致していないらしいことに気付きました。このまま様々な説明をしていても伝わらないため、ここで一度『抗体』についての正しい概念を形成して頂きたく思います。

皆さま、「ウイルスに対する『抗体』」とはどのようなイメージをお持ちなのでしょうか?

ヒトなどの生物は「抗原」に対して
1)一種類の「特異的抗体」を作る。
2)天文学的数の種類の「抗体」を作る。そのごく一部が「特異的抗体」。またさらに「特異的抗体」も複数存在する。
皆さま1)2)のどちらだとお考えですか? 正解は2)です。

一口にSARS-CoV-19に対する「抗体」といっても、天文学的数字の種類の「抗体」が生物の中では作成されます。この様々な抗体が混ざった血清を「抗原」対する「抗血清」と言います。この「抗血清」はウイルスに対する抗体が含まれていることから治療に使うことができます。これは治癒した方から血清を頂戴し、行うものです。他の微生物の感染機会にもなりかねないため、標準治療とはならないとは思いますが、緊急的な治療として利用することは可能です。

実際すでに、中国国内では、非常に重症の方にはこの「抗血清」を用いた治療が行われた、との情報をどこかで見ました。

研究で、特定のタンパク質や糖鎖、DNAなどの生物学的物質を検出する際に用いられる「抗体」には大きく2種類あります。
(a)抗血清
(b)モノクローナル抗体
どちらも「特異性」と「感度」という相反する指標を用いてよいものを選別する作業を徹底してやります。

(a)の場合、個体単位で異なりますので、複数個体からの血清を比較する。
(b)マウスの脾臓細胞からのスクリーニングとなります。製薬会社でしたら、数万クローンくらいをスクリーニングするのでしょうか?今はロボット化も進んでいますので、かなりの数のスクリーニングは可能でしょう。ただ、クローンを増やす所までは人がやる必要があります。もちろん技術が必要です。

また抗体を作成するために使う「抗原」をどうするのか?という問題もあります。ここにも工夫のしどころはいろいろあります。

それらの膨大な努力の末に、現在の「インフルエンザ簡易検出キット」が開発されています。

それはともかく、この検査や特異的抗体があるにもかかわらず症状が重くなった中国での事例を考えますと、このウイルスの特殊性が見えてきます。

一般的に言って、「ウイルス」によっては、特異的抗体ができ難い、という事象があります。そのため排除に時間がかかる、また何度でも感染することになります。

また、特異的抗体、にしてもウイルスの「何に」特異的であるのか?が治癒には重要。一番良いのは細胞に取り憑くエンベロープ部分のたんぱく質や糖鎖に対して特異的であること。ウイルスによって破壊された細胞から次の細胞へのウイルス感染が防げるからです。

しかし、これがなかなかうまく行かない場合があります。
このウイルスは残念なことにそのようなウイルスなのかも知れません。