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顧客至上主義は誰も得しない

顧客至上主義とは突き詰めると「安く」することだ。もちろん違う価値を提供することも顧客主義であろう、しかし顧客至上主義は安く売ることだと定義する。

日経MJの月曜版には各業界商品のバイヤーによる評価が載っている。商品力(食品なら味等)、ブランド育成なかで、業界のトップメーカーは「取引条件」が悪いことでポイントを下げている。これは毎度毎度で載せる意味はあるのかっていうくらい。
ここで「取引条件」が明示されていないので入れ値なのかリベートバックなのか納期なのかロット単位なのかは分からない。

バイヤーは結局売れる商品を仕入れるのであろうが仕入れ条件の悪さを嘆くのだ。もっと言うと売れない安い物と売れる高い物を天秤をかけているわけだ。仕入れ条件が各店で同じだとすると売価も同じに収束するわけで、売れる物が良い物になると素人目には思うのだけど安い物への執着があるらしい。これは消費者も同じ構図で、高い物が良い物と分かっていて安い物を買い「こんな物だよね」と納得するのだ。

売れる商品がいい商品だと分かっているバイヤーでさえ安さを求めるのだ。顧客至上主義は安い物が欲しい顧客に値段を下げて量を稼ぐ構図が見える。営業は実質利益を削っているわけだ。ブランド力がある商品は高くても売れるので競争力の無い商品は利益を削るしかない。結局顧客は値下げを求めていると言うこと。

そんなことは誰でも分かりきっている。けれども、手持ちのタマにナンバーワン商品が無ければそれしか方法は無い。可哀相なのはそんなタマしか無い営業だ。欲しいのは利益を確保しながらそこそこ売れる商品と言うことであろう。

そして価格競争でメーカーが疲弊したら流通も活気がなくなり、結局消費者は選択肢が狭まる。例えば最近はNBのデフレ化が進んでいるが、ちょっと高い魅力的な商品もなくなってきている。利益をきちんと取らないと失敗を恐れ、結局魅力的な商品が出なくなると言う構図。それは消費者にとっても損であろう。

 

話は変わるが先週のカンブリア宮殿で星野リゾートの社長が出ていた。その話が先日受けた研修と似ていた。

星野氏が言うには海外留学から帰ってきた星の屋旅館は大資本リゾートと闘うためには従業員の定着率が悪くてとても闘えない状況だったと言う。そこで従業員定着を願って「顧客アンケート」を取り、それを従業員の会議で反映するという手法を取り入れたそうだ。彼は顧客満足ではなく従業員満足を目指したと言う、幹部からは大反対だったと言う。職場が楽しければ従業員が定着し、サービスが良くなれば会社も儲かるという。
ここで大事なのは切る客があってもいいとのこと。ターゲットの絞込みであろう。全ての顧客に満足してもらうのは無理だと割り切っているのだ。
また「正しいこと」は実行力を生まないとも言っていた。

ここで大事なのは星のリゾートは顧客満足度を軽視していると思うことだ。世界観を作り上げ、共感する人に期待以上の感動を与えていることが成功なのであろう。言わば「来たい奴だけ来い」という清清しい傲慢さを感じる。もちろん星野リゾートがディスカウンターではないことも要因としてあるとは思うけど。

先の講演では伊藤修氏の研修であったのだがほとんど同じ事を言っていた。
詳細はLinkの書評を読んでいただくとして、顧客に価格で阿ると利益を削るしかない。利益を削らなくて済む戦い方の構築が必要だと言うことであろう。

その割には消費財の多くは王者ブランドでない下位ブランドも「誰もに受ける商品」を指向しているように見える。誰にも受ける下位ブランドは誰が買うと言うのか。ターゲットを絞った立った商品はコケルリスクが高い。なのでバランスよく稼げる商品で新たなブランドを育成する必要があるのであろう。基幹ブランドでもこの手のギャンブルは少しは必要であろう、そうでないとジリ貧だからだ。

 

中身最高、容器最高、宣伝最高!これで売れればいいけど本当に儲かるのか?さらに売れなければ?

 

追記

この記事は営業を陥れる事を目的としていません。成熟社会での消費財メーカーの舵取りをバブル以前の成長期の(出せば売れる)成功体験を引きずっている現経営者の商品開発・研究への介入に対する批判です。マーケットの成長率がある場合はシェアは変わらずとも企業は成長できます。しかし現在は成熟期でマーケットの伸びは期待できません。その中で成長するには新しい市場を開拓するか上位メーカーからシェアを分捕るしかありません(上位メーカーは下位メーカーを叩き潰す)、そのための方法論を考えているのかという問題提起です。

現営業も商品開発に口を出す傾向があるようです。顧客至上主義です。バイヤーは「こんなのが売れると思うよ」というのはそれで間違っていないでしょう。しかしバイヤー10人に聞いてそこそこ満足がいく商品を仕上げたらそれは誰が買うと言うのでしょうか。没個性以外の何物でもありません。これを要求する営業は良かれと思って具申し反映させた結果、売れない商品を企画させると言う構図であることを理解して損は無いと思います。

 

追記2

急成長の米小売、コストコ社長に会う~My Life MIT Sloanで感じたこと。
通常の企業はそこそこの商品を安く売るディスカウンターという業種と品質のいいものを高く売るデパートという業種がある。2×2のマトリックスに縦軸に商品の値段が安い・高い、横軸に品質が低い・高いという4つのエリアを想定すると、ディスカウンターは低価-低品質で、デパートは高価-高品質エリアを占めることになる。これは通常の戦い方で、まぁ負け組みは高価-低品質でそんな企業は勝手に淘汰されるであろう。狙うのは低価-高品質なのだ。マトリックスで言うと右上と左下は普通の企業で、右下は駄目企業で、左上がエポックメイキングな企業と言うわけだ。

コストコは低価-高品質(左上)という競争力のあるところで戦っていると言う。
この記事を鵜呑みにするとコストコはすばらしい。しかし当然捨てている部分も明確だ、品揃えを否定している。この割り切りが無ければ無難のポジションしか得られないのは当然であろう。切ったモノと得たモノの差額をどう考えるかという点であろう。

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