goo

誰に何を売るか

再びデフレ圧力があるのは分かりますが、安ければいいというダンピングに生きる道があるとは思わないのですが、それに突き進んでいる業界も多いようです。私は技術屋なので論理を重んじるのですがやはり訳が分からない事象が多数観測されるようです。以下具体的なブランドを出しますがあくまでも私的脳内シミュレーションの話です。

BMW318の性能でカローラブランド、少し高価、原価率が50%超という商品を上市しようとします。こんな商品は消費者にとってめちゃうれしいと思われるのですが、誰が買うのでしょうか?

(1)BMWユーザー:クルマはステイタスと言うか情緒の部分が多いので全く同じ中身でもスキンとブランドが違えば購入する事は無いでしょう、安くてもカローラブランドであればBMWユーザーにとって「安い」ということはなんの価値もありません、もしその商品がBMW318と性能が同じなどと言えばBMWの価値が下がるだけでしょう。

(2)カローラユーザーにとって情緒を重んじるBMWの「情緒」の部分に幾らカネを払うのでしょう?別に特殊モデルを待つまでも無く、普通のカローラがいい訳です。ディーラーオプションやメーカーオプションでスポーツモデルはありますがあくまでも特殊な存在です。10万円のアルミホイールが付いて5万円高、これがいい程度です。

(3)他ブランドユーザー:興味なし。

結局、ブランド価値をダンピングしても売上が上がるとは思えない。それよりは既存ブランドの価値低減を進めるだけだ。そして誰に売るのかが明確で無いことを証明するだけ。

クルマとは違う業界ブランドで説明しよう。AGF社のインスタントコーヒーを軸に話を進める(関係者ではないので間違いがあるのは当然、モデルにあまり突っ込まないでください、不快なら削除します)。

AGF社はブレンディ・マキシムのブランドがある、それに対応するトップメーカーのブランドはゴールドブレンドとエクセラだ。価格差もゴールドブレンド>マキシム>>エクセラ>ブレンディとする。

ここでマキシムが低価格路線を敷くとする、ゴールドブレンド>マキシム>エクセラとなってしまう。マキシムの価格戦略帯がゴールドブレンドとエクセラの中心に持っていくというのは分かる。しかしそれをすればブレンディの戦略もエクセラの下級ブランドに下落することを意味する。また消費者は味に対してそこまでシビアで無いので(ブランドの信頼で購入しているだけなので)、マキシムを初めブレンディの品質を落さざるを得ない。既存のマキシムの顧客に不味い物を売るわけだ、ブレンディも同様。当然であるが売上はともかくブランド力は低下し、デフレ下で売上が伸びなければ収益性が圧迫される事は想像に難くない。そして品質を落さないことは消費者に得になるのかという謎だという点だ。

結論から言えば決して消費者にとって得にはならない。なぜならこの高度な消費社会でのブランド力は商品の品質を表していなくては成らず、過剰品質を認めてくれるほど甘くはないのだ。具体的に言えば、ゴールドブレンドの顧客がブランド力の下がったマキシムを買うことを無く(商品の品質を評価すらしてもらえない)、高度にカテゴライズされた市場でエクセラの顧客が手を出すとも思えない、仮にエクセラユーザーがフリーズドライであるマキシムに手を出しても所詮特売の時に浮気をする程度であろう。そして旧マキシムユーザーは安値で買えて得したと思うのは一時的で味の落ちた安いマキシムと買い続けるかどうかは分からない。仮にAGFが品質を落さなければ収益を圧迫するだけで、新たな顧客は望めない。そしてその結果AGFは品質を落さずにダンピング戦略に勝てないということになる。

要はある期待値を望む顧客に性能をアピールしたブランドでもって供給できるかという点だ。先のインスタントコーヒーで言えばブレンディの値段を下げてもゴールドブレンドの顧客は取れないということ、そしてブレンディの顧客が離れるということ、品質をいじっていなくてもだ。

ある想定した価格と性能を下級ブランドで全てを請け負うというのは無理なのだ。また上級ブランドの価値を下げると、値段が下がった分だけブランド価値が下がり、流出<流入が得られたとしても売上が上がらなければ意味が無く、流出=流入であればその時点で単純に損なのだ。先の例で言えば流入<流出のリスクも大きい。

結局、誰に何を売るのか、と言う点とブランド価値を適正に見れているかという点に尽きると思う。デフレ下でブランド価値を段々とダンピングして、従来のポジションに新規ブランドを立てるのは分かる(それでも新規ブランドは定着率が少ないのでリスキーだが)、でもブランド秩序を再確認して、それに伴うラインアップを構築した方がいいんじゃないか?

前段の例で言えば、BMWの顧客にカローラの値段でと言っても、カローラの顧客にBMWの情緒をと言ってもどちらにも受け入れられない中途半端に陥る。要は誰に何を売るのかが明確で無いブランド戦略はダメなのだ。

逆にデフレ下でブランド戦略で間違う企業が少なく無いであろう、という意味ではきちんとしたブランド戦略をもつ企業はかなり有利だ、売上落ち込み量はボンクラ企業が引き取ってくれる。

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )