浅田次郎/講談社文庫
なんだかあっという間に読んでしまった。
舞台はラストエンペラーより少し前の時代。義和団事件後のどさくさで、光緒帝の妃・珍妃が井戸に投げ込まれて死亡する事件が起こったが、殺したのは誰・・というミステリー形式の歴史小説。
現代の中国の定説は、珍妃を殺したのは西太后としている。が、ここでは敢えてもっと違う考え方をしている。
ストーリーは芥川龍之介の「藪の中」のような感じ。話し手が変わると結論が変わり、みんなどっかで嘘をついている感じ。
芥川の藪の中では、最後に出てきた人が、この世との利害関係が無縁になっていることから、一番信じられるので、なんとなく謎が解けた気になる。だがこの話は、最後まで読んでさらに藪の中に入る感じ。
しかし、読み終わって、ある意味そういう考え方もあるかもしれない・・・などと思っている。
浅田次郎さんの小説は以前現代物を読んだことがあるが、この中国物の方が断然面白い。この作品の前後の時代を扱った作品もあるようだから、是非読んでみよう。
しかし、王朝の衰退時期に極めて賢い女性が現れるが、その能力が王朝の存続に生かされることなく非業の死を遂げるというのは、李朝の閔妃と同じだなぁ。本作品が、以前読んだ「閔妃暗殺」の記憶と交差して、やるせない気分になった。
尚、浅田氏は西太后に対しては、偉大な人物として評価しているようである。私はずっとこの人の時代錯誤のせいで清朝は命を縮めたと思っていたが、この人が逆に命を数十年も長らえさせたと思っているようだ。それくらい清朝末期は混沌としていて舵取りの難しい時代であったのだ。私は勉強不足なので、「ラストエンペラー」と「北京の55日」や「坂の上の雲」の知識しかなかったが、清朝末期についてもう少し勉強してみようと思う。