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浅田次郎/講談社
第一部 蒼穹の昴 全4巻 (戊戌の変法と政変)
第二部 珍妃の井戸 (光緒帝の妃の死の真相は・・)
第三部 中原の虹 全4巻 (西太后の死と張作霖、袁世凱の台頭・・)
第四部 マンチュリアン・リポート (張作霖爆殺事件の真相・・)
と読んできたが、本作はこれらに続く第五部の1冊目である。
天子とはここでは愛新覚羅溥儀のことであり、蒙塵とは変事の際に天子が難を避けて逃げ出すことを言う。天子は本来整えられた道を歩むものであるが、変事の際はその余裕がないため、頭から塵を被って逃げる・・都落ちする・・と言うような意味である。
映画ラストエンペラーだとボヤッとした表現になっていた溥儀の紫禁城追放の場面(私はこの時、胡弓で奏でられた蛍の光に耳が行き、胡弓に興味を持ったのであるが)がこれにあたり、急に紫禁城を去ることになったのは馮玉祥のクーデター(北京政変)のせいで、命の危険を伴うものだったのだ。当初、家庭教師のジョンストンを通じて英国側に庇護を求めたが受け入れられず、日本の租界に身を寄せることになる。
溥儀と第一夫人の婉容と第二夫人の文繡は、天津にある日本租界の張園というところに住むことになるが、紫禁城のように広いスペースと異なり、一つ屋根の下の一夫二妻というのは文繡にとっては耐えられないものとなる。すぐ癇癪を起こす婉容はアヘン中毒がひどくなっていく。
ラストエンペラーだと文繡は「傘なんていらないわ」と叫んで、爽やかに逃げていくが、本作ではどのように苦労して文繡が溥儀と離婚したかが語られる。
ラストエンペラーに出てくる溥儀は、美形のジョンローンのおかげで何だか素敵な人になっているが、本作にでくる溥儀は貧相で人間的な魅力が感じられない。 文繡は一度自殺未遂事件を起こし、張園に軟禁状態になるが、再度の自殺未遂を恐れ、妹のサポートを得ることを許されたことから、逆に妹と共謀してフランス租界への脱出に成功、弁護団に助けられて、晴れて離婚を勝ち取ったところで、本巻が終わる。